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341 計算外




「あらあら……。キリエちゃんてば戻ってきちゃったのね。しかも、その顔。のこのこ殺されに来たって風じゃなさそうねぇ……」


「言ったでしょ? お前を殺しにきたって」


 ありったけの殺意を込めて、目の前のジョアナをにらみつける。

 目の前にいるコイツは本体じゃない、そんなことはわかってるよ。

 それでも嬉しいんだ、たとえ分身でも、やっとコイツを殺せるんだから。


「私を殺す、ねぇ……。【風帝】の力は今なお私の体に宿っているにも関わらず。まさか本当に手に入れられたというのかしら、神殺しの力を」


「さぁね。アンタの体で試してみれば? すぐにわかると思うよ」


 余裕の表情に見せているけど、ヤツからは強い警戒とわずかな焦りを感じる。

 絶対の勝算が崩れようとしていることを、きっと肌で感じてるんだ。

 いいね、この調子でお前のニヤケ面、恐怖と絶望に歪めてやる。

 ……と、その前に。

 身の程知らずにも挑みかかってきたコイツからだ。


 私の後ろ、死角に瞬間移動して、素早くムチを振るってきたノプト。

 気づいてないとでも思ったのかな?

 横振りのなぎ払いを飛び上がってかわしつつ、空中で上下を反転。

 右腕に目がけて青い刃を振るう。


「ちっ……!」


 切っ先がわずかに触れた瞬間、ヤツは再び瞬間移動。

 ジョアナのすぐそばへとワープした。

 自信満々な私の様子を見て危険を感じたのかな?

 けど残念、かわしきれなかった、と。


「お姉様、申し訳ありません……。仕留め損ねました……」


「あんなお粗末な奇襲で殺せる相手なら世話ないわ。それよりノプト、重要なのはその腕のキズよ」


「キズ、ですか?」


 ジョアナに言われて、ノプトが私のつけた切り傷に目をやった。

 剣で斬られればキズができる。

 キズはすぐには治らない。

 両方とも当たり前のことだ。

 でも今のあいつら二人にとって、ソレは当たり前じゃない。


「キズが、治らない……? まさかお姉様、勇者は本当に……!」


「残念ながら、神殺しの力を手に入れちゃったみたいねぇ……。【風帝】無しでどうやったのか知らないけど、計算外にもほどがあるわ……っ」


 いいね、さっそくあせってる。

 ジョアナのヤツ、余裕ぶってもにじみ出る悔しさを隠しきれてないし。

 その表情が、更なる焦りと恐怖と絶望でグチャグチャになるのが楽しみだよ。


「勇者殿!」


 っと、ノプトと戦ってたイーリアも、敵が離れたことで私のそばに走ってきた。

 コイツもコイツで体張って時間かせいでくれたんだよね。


「イーリア、お疲れ。あとは私に任せて、お城に戻ってていいよ」


「も、戻れとは……? 我ら三人で戦った方が勝算は高いでしょう」


「必要ないよ。私一人で十分だから」


 私が手に入れた力は、自分の体が耐えられないかもしんないレベルのシロモノだ。

 今の二人でも、一緒に戦ったら逆に足手まといになると思う。

 何より、一番の理由は――。


「第一アンタ、この国の騎士でしょ? ムリして残って戦うより、女王様や国民のこと守ってあげるべきじゃない?」


「それは……」


「それにさ、アンタの大事な人、まだお城にいるでしょ。ここはもういいから、あの子のトコ行って守ってあげなよ」


「……かたじけない。勇者殿、ご武運を」


 やっぱりね。

 ベルのこと気になってしょうがなかったみたいだ。

 わかるよ、私だっていっつもベアトのこと気になってるもん。

 軽く頭を下げると、イーリアはお城の方へと走っていった。


「……ところで、クイナは動くつもりないみたいだね」


「ちょーっと、アイツらにはものすごくムカついててさ。吠え面かくとこ見なきゃ、気が収まらないかなーって」


「……ま、いいや。ならゆっくり見物しててよ」


 クイナの実力なら、万が一にも巻き添えなんて喰らわないだろうし。

 別に残ってくれても問題ないか。


「お姉様、ここは退くべきでは……」


「退いたところで神はあの場を動けないわ。神の居場所を突き止められている以上、撤退はまったくの無意味ね。つまり私たちに残された道は――」


「……この場で、勇者を殺すしかない」


「そういうことよ」


 奴らの方も逃げるつもりはないみたい。

 っていうか、そもそも逃げる意味もないってわけだ。

 この場で決着をつける気満々だね。

 私にとっても好都合。


「お互い話は終わったみたいだね。そろそろいい?」


「えぇ、いつでも仕掛けて来なさいな」


「じゃ、遠慮なく」


 パチン。

 指を弾いて合図をしたその瞬間。


「……あ、熱っ! あづ、あづいぃぃぃぃ!!」


 ヤツの右腕、ノプトの傷口周辺の血肉が、コポコポと沸騰を開始した。

 そこから胴体へとむけて、沸騰する範囲はどんどん広くなっていく。


 さっき斬りつけた時に流した【沸騰】の魔力、しばらく待機状態にしてあげてたんだよね。

 まともな状態での最後の会話ができるように、ってさ。

 優しいよね、私。


「熱が……っ! 腕を登って、のぼって……っ!」


 それにしても、あの慌てよう。

 不死身にかまけて、まさか食らうと思ってなかったんだろうね。

 しかもあの様子じゃ、たぶん今までカット出来てた痛みや苦しみをダイレクトに食らってる。

 早くジョアナにもあんな顔させたいね。


「落ち着きなさい、ノプト。肩口から腕を引きちぎるの」


「お、お姉様……! は、はいっ」


 ジョアナの指示でパニックから脱出できたのか、ノプトは左の腕で沸騰する右腕の手首をガシッとつかんだ。

 そのままねじり上げ、歯を食いしばりながら力まかせに引きちぎる。


 ブチ、ブチブチィ……ッ!


 筋繊維を引きちぎる音を残して、ヤツは沸騰地獄から逃れた。

 その傷口からすぐに肉塊があふれ出て、腕を再生させていく。

 ところが、ひじにさしかかる部分で急に再生がストップ。

 それ以上は何も起こらない。


「はぁ、はぁっ、ど、どうして再生しないの……っ」


「あらら。さっきまで沸騰してた辺りねぇ、コレ。キリエちゃんにつけられた分のダメージは再生しない、ということでいいのかしら……っ?」


 余裕の表情を作りながら、ジョアナが私に問いかける。

 でもね、声震えてるよ?

 冷や汗が頬を伝ってるよ?


「ま、そういうことだね。気をつけなよ? 今の私に触れられたら、その瞬間に終わりだから」




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