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340 お待たせ




 魔法はイメージが大切、よく言われることだ。

 起こしたい現象をイメージして、魔力を使ってそれを具現化するのが大体の手順だからな。


 アタシの使ってる【機兵】も当然ながらイメージを形にしているわけだけど、そのイメージの源は元から存在する魔導機兵ゴーレムや、ブルムの使ってた魔導機竜ガーゴイルそのままだった。

 教団の地下施設や巫女様の島で、想像力イマジネーションを刺激してくれるいろんなものに出会うまでは。


「魔導砲、発射っ!」


 巨大ゴーレムの肩に乗って、右手を前にかざす。

 するとゴーレムの胸部装甲がスライドし、ドデカい砲身が出現。

 そこから放たれた青白い極太の光線が、不死兵と化した研究員たちをなぎ払った。


「……っはぁー! やっぱ気持ちいいな、これ!」


 巫女様の島で見た魔導兵器をもとにイメージした、この胸部魔導砲。

 並のモンスターなら消し炭も残らない威力を誇る、まさに必殺技だ。

 相手が不死身の不死兵だってのが大問題なんだが……。


 ビームでなぎ払われ、飛び散った不死兵たちの肉塊は、あっという間に集まって再生しちまう。

 さっきからこの繰り返し、まさにイタチごっこだ。

 結界魔法のたぐいなんてアタシ使えないし。


「素直にやられてくれりゃ、もっと気持ちいいんだけどな……」


 王都から魚人の国へ、ムチャな距離を往復飛行したおかげで、アタシの魔力は鍛えられ、最大値がかなり上昇してる。

 とはいえ、さすがにコイツは何度も使えない。

 あんまり大技連発しても魔力尽きちゃうしな。

 でも一匹ずつプチプチ潰してたら突破されて、城の方に行かれるし。

 難しいとこだぞ、コレ……。


「……あれ?」


 なんだ?

 不死兵たちの様子がおかしい。

 今までどおり個別に再生するんじゃなくて、一か所に固まって大きな肉の塊になっていく。

 ソイツがだんだんと人みたいな形をとっていって……、


「鬟溘∋縺輔○縺ヲ荳九&縺」


 ついにはアタシのゴーレムと同等の大きさの、巨大な不死兵へと変貌した。

 皮膚のない肌からむき出しの目ん玉をギョロつかせて、意味のわからない雄叫びを轟かせる。


「こいつら、合体して巨大化までできるのかよ!」


 そのままつかみかかってきたバケモノの手を、こちらもゴーレムで受け止めて、がっぷり四つに組み合った。

 アタシの巨大ゴーレムと対等に戦える大きさになってくるなんて、まさかこんな芸当ができるとは思わなかったぞ。


「……でも、考えようによっては好都合か」


 小さな大群でちょろちょろ動かれるより、この方がやりやすい。

 うっかり後ろに通しちゃう心配がないからな。


 アタシの目的はあくまで時間稼ぎ。

 キリエがこいつらを殺せるようになるまで、足止めしてやればいいんだから。

 問題は、いつまで粘ればいいかわかんないってとこか……。


 キリエを城に送り届けてから、軽く三十分は過ぎたと思う。

 例の装置、もし魔力の移動が成功したならそろそろアイツが飛び出してくる頃合いだ。


(もちろん、ダメだったって可能性もあるけどな)


 ま、その時はその時。

 とっくに捨て石になる覚悟はできてるさ。

 つまり、考えるだけムダってことだな。


「……よし! ゴーレム、パワー全開! 敵を押し返――」


 シュッ……!


 その時、アタシのすぐそばを何かが駆け抜けた。

 青い光を残しながら、あっという間に過ぎ去っていった影。

 直後、巨大不死兵の全身が泡立ち始め、


「辭ア縲?↓蛯キ繝悶け」


 断末魔の叫びを残して全身が弾け飛ぶ。


「――せ……っ? え……?」


 まさに一瞬の出来事。

 爆散した敵の肉塊は再生することもなく、湯気を立てながらブクブク沸騰し続ける。

 絶対に殺せないはずの不死兵が、あっさりと絶命した……?


「今のは誰が……。って、考えるまでもないな。こんなことできるヤツ、世界に一人しかいないもんな」


 そっか、つまり成功したんだな。

 一か八かの賭けだったが、そっか……。

 つまりアタシも役目を果たせたわけで。

 なんか、肩の力がドッと抜けた気分だ。


「……そいじゃ、見に行くとするかな。アタシの鍛えた剣で、アイツが大暴れするところをさ」



 △▽△



「一速『新月カゲノツキ』っ!」


 体を弓のように引き絞って放つ最強の一撃。

 刺突に乗せた魔力と練氣レンキが渦を巻き、ジョアナに襲いかかる。

 らせん状の衝撃波の直撃を受けたヤツの肉体はバラバラに四散し、


「……ぁははは、あははははははっ!!!」


 大変ムカつくことに、大笑いしながら一瞬で再生した。


「すごいわねぇ、痛いわねぇ! 私、もう何度殺されちゃったかしらぁっ!」


「十七回、だね。もうアンタ、十七回死んでるよ」


 撃てば必ず相手は死ぬ。

 そんな必殺技のはずなのに、さすがに自信無くなるよ。

 この女の不死身っぷりにも、そろそろ嫌気がさしてきた。

 ノプトとり合ってるイーリアの方は……。


「動き、鈍くなってきたわね。そろそろ食らっちゃうんじゃないかしら?」


「く……っ!」


 あらら、かなりバテてきてるね。

 ノプトが次々と作り出す亜空間の入り口を避けるために、常に動き回ってるから無理もない。

 このままじゃ、やられるのも時間の問題か……。


「よそ見してる余裕があるのかしら」


「……どうだろうね」


 ジョアナの繰り出した風の刃をバックステップで回避しつつ、余裕の表情を作って答える。

 でもね、はぐらかしてやったけど、正直アタシだってピンチだよ。

 亜空間から脱出するときに使った体力も、さすがに薬一個じゃ完全には回復しなかったし。

 イーリアのフォローに回る余力もない始末だ、情けない話だけどね。


「ねぇ、不公平だと思わない? 私は十七回もあなたに殺されているのよ? あなただって、一回くらい私に殺されてもいいじゃない」


「あいにくと、アンタと違ってバケモノじゃないんで。慎んで遠慮させてもらおっかなー」


 十分な距離を取って、再び刺突の体勢へ。

 練氣レンキと魔力をかき集めて、軽く息を吸い込み――。


「……っ!? ……ぁっ、う゛……っ!」


 吸い、込めない……!?

 アタシのまわりから、ピンポイントで空気が消え失せた……?


「い、息、が……!」


「正直ね、あなたと遊ぶのも飽きちゃったの。これ以上、時間もかけてられないし、ね」


 コイツ、【風帝】の力で真空状態を作り出したのか……。

 しかも破られる心配がないように、アタシがある程度消耗したタイミングを狙って……!


「ぐ……、この……っ!」


 なんとか突きを放とうとするけど、ダメだ、力が入らない。

 剣を取り落として、その場にひざをつく。


「セリア殿! く……っ!」


 イーリアもフォローに回る余裕なし、か。

 こりゃまずいかも……。


「十七回よ? 十七回。それにひきかえ、あなたはたったの一回こっきり。これでチャラにしてあげるなんて、優しいお姉さんだと思わない?」


 目前までやってきたジョアナが、手刀に風の刃をまとう。

 ソイツが振り下ろされようとした瞬間。


「……っ!?」


 ジョアナの視線がアタシの背後へと動き、ニヤけていた表情が一変。

 ヤツはすぐに後ろへと飛び下がった。

 その直後、ジョアナのいた場所の石畳が弾け飛び、アタシの周りの真空状態も解除。


「……は、はぁ、はぁ……っ! げほ……っ!」


 肺いっぱいに流れ込む空気のありがたみを噛みしめながら、視線を上げる。

 歪む視界の中、見えたのは青い刃と赤い髪。

 そこに立ってるのはまぎれもない、アタシの――ジブンの親友だ。


「キリエ……!」


「クイナ、お待たせ。助けにきたよ」


「ん、待ってたッス」


 口元をわずかにゆるめると、キリエは険しい顔つきに戻ってジョアナをにらみつけた。


「……ジョアナ、お待たせ。殺しにきたよ」




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