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336 やりたいこと




(『三夜越え』の副作用が、消えた……だと?)


 だとすると、だ。

 ディバイのヤツ、俺たちと出会う前の冷酷な殺人鬼に戻っちまったってのかよ……。


 ひざをつくゼーロットの前までゆっくりと歩みを進め、ディバイはその足を止める。

 そして、氷のように冷たい目でヤツを見下ろした。


「無様だな……、ユピテル……」


「何を言ってるんだい……っ? がはッ! ボクは、ゼーロットだ……っ」


「このまま……、妹と同じ殺し方をしてやろうか……?」


「だから――うっ! ぐぅぅ……っ!」


 ヤツの表情が、突如苦痛に歪む。

 片手で顔の半分を抑えてうめき声を上げた後、ゼーロットは荒い息を吐きながら頭を上げ、ディバイをにらみ上げた。


「貴様……ッ、ディバイ・フレング……!」


 いや、ゼーロットじゃねぇ。

 あれは……。


「ようやくお目覚めか……、ユピテル……」


 そう、あれはまぎれもなくユピテルだ。

 ディバイへの憎しみがゼーロットの支配に勝って、表へ出てきたのか……?


「だが……、本当に無様だ……」


 ディバイが氷の槍を生み出し、ソイツを持ってユピテルの喉元に突きつけた。


「お前は今、妹の仇を前に何もできず、そうして這いつくばっている……」


「ぐ……!」


「挙句、訳の分からん二千年前の亡霊に体を乗っ取られ、満足に身動きすら取れないあり様だ……。無様としか言いようがない……」


「貴様ぁ……!」


「俺が憎いか……? 俺を殺したいのか……? 今のお前には到底不可能だな……」


 ユピテルを見下しながら、その憎しみを煽るような言葉を吐き続ける。

 お前の命はとっくに俺の手のひらの上だ、とでも言うように。

 ディバイ、マジに冷酷な殺人鬼に戻っちまったのか……?


「ディバイ……! 貴殿、どういうつもりか――」


「待て、ギリウスさん……!」


 義憤を燃やしながら立ち上がろうとするギリウスさんを手で制し、俺はディバイに問いかける。

 目の前のコイツが、本当に俺の相棒じゃなくなっちまったのか確かめるために。


「……なぁ、ディバイ。げほッ! コイツが、お前のやるべき(・・・・)ことか?」


「……あぁ、その通りだ」


 ユピテルに視線をむけたまま、ディバイはそう答えた。

 ……そうかよ、よーくわかったぜ。

 お前がマジに変わっちまったのか、今のでよーくわかった。


「さぁ、どうした……。妹の仇が目の前にいるんだぞ……? 復讐の絶好の機会だ……。だのに貴様は、自らの意志で指一本すら動かせない……」


「ぐ……ッ! 私は……!」


「お前の想いなどその程度だ……。所詮は顔も覚えていない妹だからな……。あぁ、そうだ……。俺が殺してやれば、死ぬ寸前に副作用が消えるぞ……。妹の顔も思い出せる。良かったな……」


「私は……、私は……ぁ!」


「さて、言葉でなぶるのもそろそろ飽きた……。今度は悲鳴をあげてもらおうか。貴様に取り憑いた亡霊ともども、な……」


「わた、し、わあああぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 絶叫。

 直後、ユピテルが剣を腰だめにかまえ、立ち上がりながらディバイの腹に突き立てにかかった。


 ギィィィィ……ンッ!


 だが、その刃は届かせねぇ。

 ユピテルのためにも、ディバイのためにも。

 俺は二人の間に飛びこみ、ソードブレイカーで剣を受け止めた。


「バルジ……!? うぐ……ッ!」


「すまねぇな、ユピテル……」


 ユピテルはすぐによろめき、剣を取り落としてひざをつく。

 まだ完全には体を取り戻せていねぇのか……。


「……なんのつもりだ?」


「なぁ、相棒……。俺ぁ言ったよな。お前のやりたいことを手伝うって、よ……」


「……」


「今のお前、確かに『三夜越え』の副作用、消えてるみてぇだな……。だがよ、元の殺人鬼に戻ったわけじゃねぇ。俺たちと共にいた時が、あの時のディバイがいなくなったわけじゃねぇ……」


 副作用が消えたからって、記憶が無くなるわけじゃない。

 俺たちの仲間として過ごした日々も、その間に抱いた思いも、全てそのままだ。

 自分の過去をゲロを吐くほど悔やんだディバイが消えたわけじゃねぇんだ。


「お前、本気でユピテル殺そうとしてたわけじゃねぇよな……。俺たちを傷つけて、ユピテルを挑発して、怒りで体のコントロールを取り戻させた上で自分を殺させる……。大方そんなつもりだったんだろ」


 副作用が消えたことで、元々あった冷酷な面が強く出た結果、こういうことを思いついちまった。

 目的のためには仲間をも傷つけるディバイと、仲間のために自分を犠牲にするディバイ。

 前者だけでも後者だけでも、こんなことは思いつきもしねぇだろ。


「そんなやり方じゃあよ、お前はもちろんユピテルの心も救えねぇ。俺が手伝いたいのは、お前のやりたいことだ……。義務感に駆られた、やるべきことなんかじゃねぇ。だからよ――」


「買いかぶりだ……。俺はイカれた殺人衝動を抱えた殺人鬼……。人はそう簡単には変われない……」


「だったら! その目はなんだ!」


「……目?」


「今のお前の目、ただ冷たいだけじゃねぇ。俺と初めて会った時と同じだ。自分を消したくてたまらねぇ、そんな目ぇしてやがる。冷酷な殺人鬼が、そんな目をするかよ」


「…………。……そうか。お前には敵わないな、バルジ……」


 静かに目を伏せるディバイ。

 手に握っていた氷の槍が消え去り、あたりに漂っていたダイヤモンドダストが消えていく。


「……ならば、手伝ってくれるか? ユピテルの肉体を、ヤツの手に取り戻すことを……」


「へっ。たりめぇだ」


 ニヤリと笑いかけ、ディバイに背をむける。

 さて、次はユピテルだ。


「お前もだぜ、ユピテル! いつまでそんなヤツに自由にされてやがる!」


「バルジ……、ディバイ……! う、ぐ……ッ、…………ふぅ。ようやく取り戻せたよ……っ」


 クソ、こっちはダメか。

 またゼーロットに支配権が戻ったみてぇだ。


「それにしても、あぁ……っ。感動した……っ。理想郷に暮らす資格を失ったなど、前言は撤回するよ……っ。ディバイ君……っ」


「貴様も……、とんだ買いかぶりをしてくれる……」


「あぁ、だが悲しいかな……っ。ボクも追い詰められているのは事実……っ。ぐ……ッ! ……はぁ、はぁ。ユピテル君がボクの中で暴れているのでね……っ、終わりにしよう。勝負を決めさせてもらうよ……っ」




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