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334 殺気




 俺の返答に、ゼーロットの笑顔がみるみる消えていく。

 それから俺以外の二人の顔を見比べて、大きく首を左右に振った。


「それがキミの……っ、キミたちの答えか……っ」


「もう言葉は不要だぜ、ゼーロットさんよ」


「そうか……っ、残念だよ……っ。本当に残念で仕方ない……っ」


 右手で顔をおおい、天をあおぐゼーロット。

 その頬をポロポロと涙がこぼれていく。

 が、ヤツの右手が顔を離れ、腰に差した剣の柄に触れた瞬間。


「キミたちのような人間を――殺さなくてはならないなんて、ね」


 鋭く変わった眼光から放たれた、感じたこともねぇような殺気が俺たち三人をつらぬいた。

 これまでコイツは、俺たちを本気で殺そうとはしていなかった。

 マジの殺意が、対峙して以来初めてむけられたってわけだ。


 ビリビリと全身をつらぬくプレッシャー。

 体中を針のむしろにつつまれたようで、まるで生きてる気がしねぇ。

 大粒の汗が、俺の頬を伝っていく。


「う……っ」


 ギリウスさんすらうめき声をもらし、一歩後ろに下がるほどだ。

 でもよ、怖気づくわけにはいかねぇよな。


「やるぜ、相棒」


「無論だ……」


「ビビってねぇよな、ギリウスさん」


「……フッ。誰にものを言っている」


 ディバイが魔力をみなぎらせ、ギリウスさんが口元を緩める。

 二人とも頼もしい限りだぜ。

 俺も気合いを入れなおして、ゼーロットをにらみ返す。

 そうだ、気迫で負けてたまるかよ。


「本気を出すのは二千年ぶりだよ……っ」


 ヤツは剣を右手に、盾を左手にかまえ、前傾姿勢を取る。

 次の瞬間。


「では、死合おうか……っ」


 その姿がぶれ、ひと呼吸の間に俺の目前に現れた。


「なに……っ!」


 振り下ろされる剣。

 とっさに左腕を練氣レンキで強化し、ソードブレイカーで受け止める。


 ガギィィッ……!


 甲高い金属音とともに左腕を襲う、ビリビリとしびれるような感覚。

 片手剣での一撃、しかも練氣レンキで固めてるってのに、なんて威力だ……!

 しかも先手を撃って攻撃を仕掛けてくるたぁ……。


「驚いたぜ。二代目勇者様は、防御重視の戦闘スタイルだと思ってたんだがな……」


「分析は合っているよ……っ。――ただ、ボクから攻撃しないわけじゃない」


 亀みたいに守りを固めてるだけが能じゃねぇ、と。

 コイツは死ぬほどキツイ相手だな。

 俺が一人だったなら、よ。


「アイシクルフォール……!」


 ソードブレイカーに剣を絡めとられ、足を止められた敵の頭上に、氷柱つららの雨が降りそそぐ。

 ディバイの放った氷魔法の援護射撃だ。


「またもや、いい連携だね……っ。だが……っ」


 ドゴッ!


「がっ……!」


 肺の奥から空気が根こそぎしぼり出されるような衝撃。

 ゼーロットの前蹴りが腹にブチ込まれたみてぇだ。

 俺の体は猛烈に吹っ飛ばされ、民家の壁に叩きつけられる。

 拘束から抜け出したゼーロットは素早いステップで氷柱の雨を回避。

 その勢いのままギリウスさんに斬りかかった。


「やべぇ……!」


 俺やディバイと違って、ギリウスさんは三夜越えの強化を受けてねぇ。

 ゼーロットと正面からぶつかり合って打ち合えるほどのパワーはないはずだ。


「フォローに行かねぇと……!」


 ガレキを押しのけて立ち上がるが、間に合わねぇ。

 ギリウスさんの目前で、ヤツが剣を振り下ろし――。


「奥義・魂豪身コンゴウシン!」


 ギィンッ!!


 ギリウスさんが奥義を発動し、練氣レンキを全身にまとう。

 ヤツの剣を真正面から受け止めず、刃の上をすべらせて受け流して見せた。

 そのまま何度もゼーロットと刃をぶつけ、火花を散らす。


 あの人、最初から力比べするつもりなんざねぇ。

 身体能力の不利を、圧倒的な技量でおぎなってるんだ。

 こりゃ俺も見習わなきゃいけねぇな……。


「んん、大した剣技だね……っ。ぶ厚い大剣をまるで小枝のように……っ」


「お褒めに預かり光栄だが、貴殿に余裕はあるのか?」


「あるさ……っ。なにがあろうとキミたちの刃は、このボクに届かない……っ」


「届かせてみせるさッ!」


 ギリウスさんのまとう練氣レンキが、一層激しさを増した。

 が、一人でやるつもりはねぇみてぇだな。

 俺とディバイにアイコンタクトを取って、三方向から仕掛けるように指示を出す。


「惜しい、惜しいよ……っ。その人格、剣の腕……。ボクらの作る新世界には、キミのような男こそいて欲しいのに……っ」


「貴様の誘いなど、耳を傾けるに値しない!」


「悲しいことを言わないでおくれよ……っ」


 盾を避けて足首を狙っての、地面ギリギリの下段斬り。

 そいつを飛び上がって回避したヤツの周囲に、


「コールドプリズン……!」


 ディバイが氷の檻を展開。

 空中でヤツの動きを封じ込めた。

 この程度の拘束でゼーロットを封じられないのは、俺もディバイもわかってる。

 一瞬でも動きを止められれば十分だ。

 慣れない魔力を練り上げて、叫びとともに解放する。


「千剣樹海!!」


 ズドォォォォッ!!


 氷の檻に閉じ込められたヤツの真下、石畳を突き破って大木の剣が三本突き出した。

 ソイツがしなり、三方向から斬りつけにかかる。

 ユピテルが使っていた技、見様見真似で再現してみたが、これだけしか出せなかったか……。


「無駄だと言ってるだろう……っ。こんな攻撃――うっ!」


 なんだ……?

 迫りくる大木の刃を目にした瞬間、ヤツの動きが止まった。

 まさか【大樹】の攻撃を見て、ユピテルの意識が表に出てきたのか……?

 ともかく、致命的なスキをさらしたゼーロットに攻撃が直撃。

 氷の檻をブチ壊して、ヤツの体を地面に叩きつけた。


 ドゴォォォォォォッ!!


「どうだ……!」


「……ふぅ、少しおどろいたよ……っ」


 盛大に落下したヤツの体は、なんと無傷。

 すぐさま起き上がり、不敵な笑みを浮かべてみせた。


「バカな……。直撃を受けたはずだ……!」


 ギリウスさんも驚いてるみてぇだな。

 俺だって驚きだ。

 ヤツのギフト、【鉄壁】っつったか。

 こりゃ正攻法では攻略できそうにねぇな……。


 だが、今ので光明は見えた。

 事前に聞いていたことだが、ユピテルは完全に消えちまったわけじゃねぇ。

 まだここにいる。

 俺たちの前にいるんだ。

 うまくいけば、アイツを呼び覚ますことができるかもしれねぇ……!




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