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332/373

332 亜人




 まだケリはついてないって?

 んなこたぁわかってるよ。

 崩れたガレキの中から、ヤツの気配と魔力をビンビン感じるからな……。


「……いいねぇ……っ。いいよぉ、あぁ……っ、素晴らしい……っ!」


 ドガァァァァァァッ!!


 案の定だ。

 感極まった声を上げながら、ゼーロットがガレキを吹き飛ばして立ち上がった。

 しかも当然のように無傷でいやがる。


「今の連携……っ、言葉を交わしてもいないのに……っ! 互いを心から信頼していなければ到底不可能……っ! すごいよ、素晴らしいよ……っ」


 パチパチ拍手までしやがって。

 余裕のつもりか、あの野郎。


 ……しかし妙だな。

 ギリウスさんの全力の一撃をまともに食らったってのに、傷一つついてねぇ。

 それどころか、鎧に守られていない部分にも砂ぼこりすら……。

 こりゃ、単なる防御力の強化じゃねぇな。

 攻撃の無力化、ってとこか……?


「キミ……っ! キミの名はなんという?」


「俺か? ギリウス・リターナーだ」


「リターナー……っ。なるほど、キミはバルジ君のお兄さんだね……っ」


「あぁ。それが何か?」


「家族……っ! 家族の絆……っ!! あぁ、尊いよ、美しいよ……っ」


 ……さっき余裕のつもりか、なんて思ったが訂正するぜ。

 コイツ、マジでどうかしてるみてぇだ。

 片手で目元をおおって肩を震わせ、涙をポロポロこぼしていやがる。

 さすがのギリウスさんも困惑顔だ。


「そしてバルジ・リターナー!!」


「お、おう!? 俺か!?」


 い、いきなり俺に話をふってきやがった。

 コイツ、読めねぇ……。


「キミがこのボクに挑む理由も、また素晴らしい……っ! ディバイ君もこの体の持ち主も、キミにとっては家族ではない赤の他人……っ! そんな彼らのために命を張ろうとするなんて……っ、なんて素晴らしいんだ……」


「……褒めてもらうのはいいけどよ、一つ訂正させてもらうぜ」


 さっきからコイツが何を言いてぇのかさっぱりわからねぇが、聞き捨てならない部分があったんでな。


「ディバイとユピテルは赤の他人じゃねぇ。俺の大事な仲間だ」


「仲間……っ! あぁ、仲間との絆……っ!」


 とうとう感極まったのか、泣きながら両手を広げて天を仰ぎだした。

 ……もう付き合ってらんねぇな。


「おい、ゼーロットさんよ。戦う気がねぇってんなら、とっととユピテルに体返して玉ん中戻んな」


「あぁ……っ、いや、失礼……っ。いささか礼を失してしまったね……」


 コホン、と咳払いをすると、ヤツは両手を大きく広げた。


「ボクはね、人間が大好きなんだ……っ!」


「あぁん?」


 いきなり何を言い出すかと思えば。

 思わず眉をひそめる俺の横で、ギリウスさんが怒気を放ちながら進み出る。


「人間が、好きだと……? ならばこの惨状はなんだ。これは貴様が、貴様ら『獅子神忠ピレア・フィデーリス』がやったことだろう」


 辺りに散らばる市民や騎士団の死体を見回しながら、ヤツをにらみつける。

 そういやギリウスさん、俺がレジスタンスやってた頃、この国の騎士だったって聞いたな。

 誰でも胸糞悪くなる光景だろうが、騎士団にも知り合いが多かっただろうこの人は、なおさらだろうな……。


「そうだね、悲しい限りだ……っ」


「悲しい? 自らの手で命を奪っておいて、か」


「違うよ、殺したのはボクじゃない……。彼らは神によって、ふるいにかけられたのさ……っ」


 今度は神ときたか。

 その神とやら、ただのバケモノだろうが。


 ギリウスさんだけじゃなく、ディバイも殺気をむき出しにしてヤツをにらむ。

 もちろん俺もだ。

 つーか、そろそろ全員で飛びかかりそうな雰囲気だ。


「……その顔、どうやら理解していただけなかったようだ……っ。でも、ボクの目的を知ればわかってくれるよね……っ? キミたちには、どうしてもわかってほしいから……っ」


「目的ねぇ。どうせロクでもねぇんだろ」


「そう、全ては二千年前から始まった……」


 聞いちゃいねぇな。

 自己陶酔たっぷりで語りだしやがったぞ。

 一発入れてやりてぇところだが、どうにもスキが見当たらねぇ……。


「キミたちは、亜人がどうやって生まれたか知っているかい?」


「亜人……? 何の話だ。昔からいたんじゃねぇのか?」


「まぁ、知らないだろうね……っ。当然さ、歴史の闇に葬られたのだから……っ」


 亜人。

 魔族やドワーフ、魚人を含む人間とは違う種族たち。

 その存在が、『獅子神忠ピレア・フィデーリス』と関係あるってのか?


「彼らはね、元はボクらと同じ、人間だったのさ」


「なに……?」


「ウソだと思うかい……っ? だが真実さ……っ」


 ラマンやグリナたちの先祖が、元は俺たちと同じ人間だった……?

 にわかには信じられねぇ話だが……。


「二千年前、神が地上に降臨なさった時。神は自らの食糧となる魔物を生み出すため、世界各地に『獅子の分霊わけみたま』を放った……っ。地上の生物たちを自らの食糧としないために……っ。あぁ、なんと慈悲深い……っ」


 獅子の……、あぁ、赤い岩のことか。

 そういやそんな正式名称だったな。


分霊わけみたまは、主に大陸の西側へ広がった……っ。亜人領にクレーターが多いのは、キミたちも知っての通りだろう……っ?」


「まぁ、な……」


「そして神は、魔物を生み出した……っ。散らばった分霊わけみたまの数々から、一斉に魔力を放って、ね……っ」


「……おい、待て。まさか……」


 ピンときちまった。

 俺の予想を肯定するように、ヤツがコクリとうなずく。


「あまりに強い魔力は、魔物の元となる生物のスキャンにとどまらず……っ、数々の生物に影響を与えてしまった……っ。一部の獅子はグリフォンに変質し、一部の馬はユニコーンに……っ。そして……、一部の人間たちが、亜人となったのさ……っ」




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