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33 簡単には終わらない




 お城に鳴り響く警笛けいてき

 ヤバい、見つかった?

 油断しすぎた!?


「落ち着いて、まずはじっとしてなさい!」


 そうだね、まずはそうだ。

 こんな時、冷静なジョアナが本当に頼もしい。

 茂みに隠れたまま様子をうかがっていると、後宮こうきゅうから警備の兵士が一人、飛び出してきた。

 遅れて出てきたもう一人の兵士と、会話が始まる。


「お、おい、今の音はなんだ!」


「集合の笛っぽかったな、王宮の方からだ」


「と、とりあえず行ってみるか……っ」


「お前、とりあえず落ち着けよ。顔色悪いぞ」


「だ、だって、ビックリしたし……」


 で、二人して王宮の方へ走っていった。


「……私たちが見つかった、ってわけじゃないのかな?」


「音は王宮の方から。集合の笛とも言っていたわね。かまわず逃げていいと思うわ」


 ちょっとびっくりしたけど、無関係だったみたい。

 に、してもタイミング良すぎでしょ。



 このあと、私たちは壁を越えて、ジョアナがノアさんを背負ってお堀をロープで渡って。

 尾行に気を付けつつ裏道を通って、誰にも見つかることなくメロちゃんの家まで帰ってきた。

 ずいぶんあっさりしてるな。


「お、お帰りなさいです。ずいぶん早かったですね……」


「うん、早かったね。ちょっとあり得ないくらい」


 いやいや、簡単すぎるだろ。

 なんだよこのサクサク感。

 なんかの罠なんじゃないかって疑いたくなるよ、これ。


「早くて結構、早さは一番大事なものよ? さ、みんなも荷物をまとめて出発の準備。用がすんだら長居は無用」


「今から出発ですか!?」


「ノアさんがいなくなったこと、いつバレるかもわからない。早いうちに街を離れた方がいいわ」


「早さが一番、か。確かに、一理あるかもね」


 ノアさんがさらわれたってバレたら、きっと街中探し回られる。

 そうなったらここもすぐに見つかって、ベアトやメロちゃんも危険な目にあうかもしれない。


「メロちゃん、そういうことだから。ベアトもいいよね」


「……っ!」


「両親のお墓参り、行きたかったですけど仕方ないです」


 二人も納得してくれたみたい。

 さ、私も荷物をまとめなきゃ——。


 ピィィィィィィィィィッ!!


 またか!

 甲高い笛の音に、ベアトが大きな口を開けた。

 多分悲鳴上げてるんだろうな、声は出ないけど。


「ひあああぁぁぁぁあぁぁっ!!?」


 メロちゃんからは大きな悲鳴が出た。

 私?

 悲鳴なんて出さないよ。

 びっくりもしてないからね。


「み、皆さん、外を見てください!」


 ノアさんが窓の外を指さしてる。

 一体なんだってんだ、さっきの音といい。

 ジョアナがノアさんを伏せさせて、そっと窓の外をのぞいた。


「……まずいわね。この家、二十人くらいに囲まれてる。しかも、お城の中の元気な兵士さんたちに」


「なんで……? ここがバレたの……?」


 尾行には気を使ってた。

 絶対に誰にもつけられてなかったはず。

 こんなの、絶対にあり得ない。


「理由を探すのはあと! 今すべきは?」


「……この状況を、切り抜けること」


「上出来。まずは敵戦力の分析からよ」


 ベアトたち三人を部屋の奥に下がらせる。

 そのあと、ジョアナといっしょに窓から顔を覗かせて、外の敵をチェック。

 さっきジョアナが言ってた通り、雑兵は二十人ちょっと。

 それと、指揮官っぽい小太りの若い男が一人。


「あの親玉っぽいの、もしかしてタリオ?」


「残念ながら違うわね。アイツは第五王子のレクサ、権力をカサに着たゴミよ」


「戦闘力は?」


「強さもゴミよ」


「なーるほど。ザコが全部で二十一匹。どうとでもなりそうかな」


「ワオ、頼もしいわね勇者サマ」


「まあね。カインさんとリキーノ、あの二人の命で、私かなり強くなってるから」


 実感として、わかるんだ。

 もうザコ程度、五十人くらい集めないと私は殺れない。

 ……いや、ザコ五十人分って、まだまだ微妙な強さだけどさ。


「でも、真正面から殴り込んだらケガするかも。ジョアナ、二階からアイツらに水撒いて」


「あっためなくてもいいの?」


「冷や水でオッケー。むしろ冷たい方がいい」


 ジョアナ、汲み置きしてあった水を持って、すぐに二階へ上がってくれた。

 しばらくして、ガチャリと窓の開く音がして、ザバーッと大量の水がばら撒かれた。

 あはは、怯んでる怯んでる。


「な、なんだっ!?」


「タダの水だ、バカがっ! 怯むなっ!」


 ナイスアシスト、ジョアナ。

 さて、パパっと片付けてくるかな。

 玄関ドアを勢いよくあけて、濡れた地面に手をつく。


「煮られろっ!」


 地面の水を伝って、敵の体を濡らす水に私の魔力が行き届いた。

 その全部、まとめて沸騰させる!


「うあっつううぅぅぅぅぅぅっ!!?」


「いたっ、あつっいたぁぁっ!!」


「ひぎゃあああぁぁっ、目に入った水まで、目の中までぇえぇぇぇっ!!?」


 こいつら、私を甘く見てたのか、そもそもここに私がいるなんて知らなかったのか。

 どっちでもいいや、全員ブチ殺してやるんだから。

 熱湯で悶えてる奴らの頭に、手早くタッチ。

 雑兵たちは次々と脳が破裂して死んでいく。


 に、しても。

 こいつら肌の色良いし、全然やせてないな。

 王宮に入れてもらえてるから、普段から良いモン食ってんだろうな。

 外の兵士たちにあやまれ。

 途中で追加の水がふってきたので、また沸騰させておいた。


「あひひひいいいぃぃっ、あちっ、あちぃぃっ、この僕がっ、なんでこんな目にぃぃぃっ!!」


 で、残るは豪華な衣装の豚一匹だけ。

 他の兵士はみーんなあの世に逝きました。


「タリオ兄ぃ、ザコ掃除するだけの、ボロい仕事じゃなかったのかよぉぉぉっ!!!」


「おらっ!!」


 ドボォっ!!


 わめきながら転がってるクソ虫の腹に、思いっきり蹴りを入れた。


「ゲボっ、おえっ、おえぇぇえっ、げほっ、ひ、ひぃぃぃぃっ!!!」


 ゲロ吐いたよ、きったないなぁ。

 そのゲロ、どうせ元はめっちゃ高くて豪華な料理なんだろ?

 外で死んだ目してる兵士たちにあやまれ。


「ねえ、アンタ。レクサだったっけ?」


 髪をつかんで上半身を引き起こす。


「ひっ、ひぃっ! 僕に、第五王子であるこの僕にこんなこと、兄ぃが、父上が、黙っちゃいないぞ!!」


「その兄ぃも父上もブチ殺すから、関係ないっての」


「なんっ……!? お、お前は一体誰なんだっ……! 許されないぞ、僕は偉いんだ……っ!!」


「お前のなにが偉いんだっての」


 ゲロくさいし、沸騰してる地面の水たまりに顔面押し付けて洗ってやった。

 悲鳴がうるさい。


「あづぢぃいぃぃっ!! 誰だっ、誰なんだ、お前はあぁぁぁっ!!」


「初めまして、私はキリエ・ミナレットです。前線の皆さんが待ち望んでる生贄、じゃなかった。勇者だよ」


「ゆっ、勇者っ!? お前がっ!?」


「はいストーップ」


 なんだよ、なんで止めるの、ジョアナ。

 もう荷物とノアさん背負ってるし。


「尋問や拷問もいいけど、今は逃げることが先決。そいつ連れて走るわよ」


「……は? こんなの連れて?」


 なんでこんなの連れてかなきゃいけないんだ。

 無駄な荷物でしかないじゃん。


「ここでのんびり情報を引き出してる時間はない。それに、第五王子を人質に取れば、一万五千の包囲網もうかつに手出しできないでしょ」


 あぁ、確かに。

 一万五千、やる気なさそうだけどね。


「ってことで、出発よ! キリエちゃん、ソイツはあなたが持ってって」


「了解っと。ベアト、メロちゃん、行くよ」


 二人も荷物を背負って、家から飛び出した。

 ベアトたちの速さに合わせて、王子の頭をつかんでフレジェンタの街を突っ走る。

 途中、他の王子たちが率いる部隊と何度か遭遇したけど、引きずってるゴミを見せたら攻撃をやめてくれた。

 ホントに役にたつじゃん。


 こうして私たちは、意外と簡単にフレジェンタの街を抜けだせた。

 外の兵士たち、やる気なかったっていうか、そもそも指揮官たちに王子のこと助けるつもりがなかったみたいに見えた。

 どんだけ人望ないんだよ。


「逃げ切れた、のかな……?」


「ええ、あとは王都に戻るだけ」


 本当に簡単で、拍子抜けしちゃったけど。

 まあ、楽なら楽でいいや。


 ……って、この時は思ってた。

 どうして私たちのひそんでる家が簡単にバレたのか、その答えを知るまでは。




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