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328 信じたいって思ったから




 これしか手段がないって、頭ではわかってる。

 それでもやっぱり私はリーチェのことが信用できない。

 もしかしたら、ベアト一人に負担を押し付けるんじゃないかって。


 けど、ベアトはリーチェのことを心から信じてる。

 だから私は、信じてみようと思った。

 リーチェじゃなくて、リーチェを信じるベアトのことを信じたいって思ったんだ。



 現在、ベアトとリーチェはベルナさんから装置にリンクする方法の説明を受けている。

 不安そうなベルナさんを両手ガッツポーズではげますベアト。

 自分も不安だろうに欠片も表に出さなくて、あの子ホントに強いなって思う。


 グリナさんは少し前に部屋を出ていった。

 なんでもペルネ姫のところに行くらしい。

 【月光】の力でできることが、まだあるはずだからって。


 そして私はというと、メロちゃんから青いソードブレイカーを渡されたところ。

 そういやこの子、ずっとコレ抱えてたな。


「コレってもしかして……」


「そ、受信機の機能を持った剣ですよ。トーカのお手製です」


「そっか、トーカの……」


 柄をにぎって、軽く振ってみる。

 はじめて持つ剣だってのに、赤い剣以上に手になじむ感じ。

 びっくりするほど軽いし、さすがはトーカ、いい仕事してくれるね。


「名無しのままの赤い剣とちがって、こっちにはちゃんと銘もあるですよ」


「へぇ、どんな?」


「その名も『神断ち』です」


「神断ち……」


 偽りの神を断つために作られた剣、か……。


「うん、いい名前だと思うよ。トーカってば、なかなかセンスあるんじゃない?」


「ホントですか? ソレ、トーカに教えてやったら喜ぶですよ!」


 メロちゃんってば、トーカがほめられたってのに自分のことみたいに嬉しそう。

 たぶん無自覚だし、トーカにこの名前教えてもらった時は、きっと「ひねりないですね」とか言ってたんだろうな。

 カンだけど。


 さて、改めてじっくりと刀身をながめてみる。

 切れ味のテストはあとで思う存分やるとして、この柄についてる機械みたいなやつが気になるよね。

 つばの部分の真ん中に埋め込まれた丸い機械。

 そのまた真ん中に、勇贈玉ギフトスフィアを一回り大きくしたみたいな青い宝玉がある。


「……ねぇ、この柄の部分、コレなに?」


「魔力受信用の装置ですよ?」


「そうじゃなくて、この勇贈玉ギフトスフィアみたいな部分。ただのかざり?」


「あぁ、それはアレですよ、例の切り札の発動スイッチです」


「切り札……」


 あぁ、もしかしてアレかな?

 ケニー爺さんが付け加えた、勇贈玉ギフトスフィアの力を私に集中させるやつ。

 だとしても、発動スイッチってどういうことだ?


「よくわかんないって顔してますね。詳しいことはベルナさんに聞くといいです!」


「メロちゃん、教えてくんないんだ……」


「いや、その……長くなりそうですし。それにほら、そろそろ起動開始みたいですよ」


 あ、これメロちゃんもよくわかってない感じだ。

 もともとこの子、トーカの付き添いでむこうに行ってただけだから、研究そのものにはノータッチだろうし。

 まぁ、実際ベアトたちの準備終わったみたいだし、あんまり待たせちゃ悪いか。


「キリエさん、準備が完了しました。どうぞこちらへ」


「そうよ、アンタなにしてんのよ。こっちはとっくに準備も覚悟も決まってんのよ?」


 リーチェにも怒られたし、ね。

 ほとんどおんなじ顔のくせに、どうしてこうもベアトと性格真逆なんだか。



 装置の近くに行って、ベルナさんのレクチャーを受けながら、まずは【水神】の勇贈玉ギフトスフィアを髪飾りから外して、装置にセット。

 ずっと頭につけていたお守りみたいなものだから、少しだけ心細さも感じる。

 ともあれここから先、私にできるのは【沸騰】で何かを沸かすことだけだ。

 続いて装置の上にあるスリットへ青いソードブレイカーをハメ込んで、私にできる準備はここまで。


「ではキリエさん、こちらへ……」


 緊張した様子のベルナさんにうながされて、装置の前に座る。

 二人の研究員さんが装置のカバーを外すと、機械の部品にかこまれた大きな青い宝玉が姿を現した。


「これが装置の要。エンピレオの魔力を変換、増幅する、いわばコアです。まずはキリエさん、そこに手を置いてください」


「……はい」


 ゆっくりと点滅している玉に、そっと手のひらを当てる。

 少しだけ魔力が吸い取られるみたいな感じがした。


「四つの勇贈玉ギフトスフィアがそろっていれば、工程は以上です。しかし……」


 ここからが問題、なんだよね。

 ベルナさんがためらう気持ちはわかるけど、ベアトもリーチェもやる気満々だよ。


「ベルナ、今さらためらうんじゃないわよ」


『そうです、ここからどうするんですか?』


「二人とも……。えぇ、そうね。まずは二人で手をつないでから、キリエさんの背中に触れてちょうだい」


「……っ!」


「……まあ、いいけど」


 ベアトが嬉しそうにリーチェと手をつないだ。

 それから二人で私の後ろに座って、左側からベアトの手がそっとやさしく、右側からリーチェの手が少し強めに置かれる。

 ホント、双子なのにこの違いはなんなんだ。


「最後に魔力を解放して、キリエさんへと送り込むの。そうすれば、彼女の体を介してエンピレオの魔力がチャージされ、彼女と装置がリンクする」


 作業工程自体は単純だ。

 でもきっとコレ、口で説明するよりずっと難しい。


「いい? つないだ手から常に相手の魔力を感じて、まったく同一の量に調整するの。自分自身の限界にも注意して」


「……っ」


 ベアトの手、震えてる。

 さっきまで隠してた不安が顔を出しちゃったみたいだ。

 無理もないよね、だって魔力を解放するってことは、巫女様にせき止めてもらった魔力の通り道をこじ開けるってことだもん。

 例えるなら傷口を自分で開くようなもの。


「……ベアト、大丈夫だよ。すぐに私がエンピレオ倒して、元通りの元気な体にもどしてあげるから。だから、私を信じて」


「それともなに? アンタ緊張してんの? だったら平気。リラックスして、私に合わせていればいいの。魔力の調整は私がやるわ」


「……!」


 ……うん、ベアトの震えがおさまった。

 私とリーチェ、どっちの言葉が深く届いたのかはわからないけどね。

 私だったらいいな。


「それじゃ、始めるわよ。……うぐっ」


「……んぅっ」


 リーチェの合図で、二人が魔力を解放した。

 エンピレオの魔力が背中から腕を伝って、宝玉の中へと吸い込まれていく。

 苦しそうなベアトの吐息が耳に届いて、だけど今の私にはなにもしてあげられない。


 ごめんね、ベアト。

 もう少しだけ我慢させちゃうけど、すぐにエンピレオを倒して助けてあげるから……!




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