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325/373

325 可能性




 巨大な魔導機兵ゴーレムが、不死兵となった研究員たちを蹴散らしていく。

 あやつってるのはもちろんトーカだ。

 たしかパラディで装置の開発を手伝っていたはずだよね。


「トーカ、いつ王都に戻ったのさ」


「ついさっきだよ。例のアレが完成したんでな、お前を呼びにきたんだ」


 そっか、ついに魔力変換装置が完成したんだ。

 待ちに待ったニュース、コイツは喜ばしい報告だ。

 ……ただ、【風帝】を手にできない限り起動はしないはず。

 トーカってばさっき、他に方法があるって言ってたけど……。


「ねぇトーカさん、無視しないでくれるかしら。お姉さん寂しくて泣いちゃうわ?」


 おどけた口調で話をさえぎってきたジョアナ。

 計算外に計算外が重なって、コイツも相当追い詰められているはず。

 余裕の笑みを貼り付けていても、焦りの色が見え隠れしてるよ。


「最後の起動キーである【風帝】が欠けているというのに、この私を――エンピレオを殺す方法があるというのなら、ぜひとも教えていただきたいものねぇ」


「さぁて、忘れちゃったね」


 軽ーくあしらうな、トーカ。

 ハナから相手にしてないっていうか。

 笑顔を保ったジョアナの下まぶた、少しピクピクしてる……。


「とにかく、いったんアタシについてこい! 話はここを離れてからだ!」


「……うん、わかった」


 どこに行くつもりかはわからないけど、ここを離れるのは賛成だ。

 その方法とやら、ジョアナたちに聞かれちゃまずい内容に決まってるもんね。

 すぐにうなずいて、私はトーカの方へ走り出す。


「行かせると思って?」


 当然、ジョアナも阻止してくるよね。

 魔力を急速に練り上げて、なにやら大技を繰り出そうとする。

 でも、私たちは一人じゃない。

 ジョアナの真横から石畳を削りつつ迫る、らせん状の衝撃波。

 クイナの――セリアの放った必殺の【刺突】だ。


「そっちこそ、やらせると思った?」


「……はぁ。うっとうしいわねぇ、誰も彼も。ブンブン飛び回る羽虫みたいだわ」


「同感です、お姉さま」


 飛びのいて回避したジョアナとノプトに、すぐさまもう一人が斬りかかる。

 奥義を発動したイーリアの、全速力での斬撃だ。


 ズバシュッ!


 ジョアナをかばったノプトが、脳天から真っ二つに斬り伏せられた。

 もちろん、不死身のノプトはあっという間に再生。

 もう一度斬りつけられる前に時空の歪みを展開し、イーリアはいったん距離を取る。


「勇者殿! ここは我らにお任せを!」


「方法があるってんならさー、時間くらいは稼ぐから。できるだけ早く戻ってきてね」


「二人とも……、ありがとう!」


 敵を引き受けてくれた二人にお礼の気持ちだけを伝えて、トーカといっしょに巨大魔導機兵(ゴーレム)の差し出す手のひらの上に飛び乗った。

 直後にゴーレムが背中のスラスターから火を噴いて急発進。

 王城の方向へ、大通りを低空飛行で飛んでいく。


 ……さて、話をする時間ができたね。

 くわしく聞かせてもらわなきゃ。


「トーカ、もういいよね。もったいぶらずに教えてよ、奴らを倒す方法ってヤツ」


「ゴメン、アタシもよく知らない。確証もない」


「……は? どういうこと? 倒せるっていうからついてきたのに。ウソついたんならもう戻るよ?」


「そういうことだよ。こうでも言わなきゃお前、あそこで死ぬまで戦うつもりだっただろ」


 ……たしかに、トーカの言う通り。

 あきらめるつもりなんてさらさらないけど、何か手段を考えながら力尽きるまでジョアナとノプトを殺し続けるつもりだった。


 今思えばジョアナとノプトの消極的な戦法も、私のスタミナ切れを狙ってたんだろうな。

 不死身の自分たちなら絶対に倒されないって自信があったから。


「お前が死ねば、今王都にいる人間はみんな死ぬ。もちろんベアトもだ。もうそんな局面になってるんだよ」


「……わかってる。でもさ、理由も無しにクイナたちを見捨てて逃げるなんて……!」


「落ち着けキリエ、手段が無いとは言ってないだろ。アタシはよく知らないって言っただけ」


 ……うん、言われてみればたしかに。

 わずかでも、可能性はあるってことか?


「アタシのメイン作業は剣だったから、詳しくは聞かされてないんだけどさ。ケニーさんの設計したあの装置、本来は不要なはずの機能があるらしいんだ」


「不要な機能……? 詳細は聞かされてないんだよね」


「あぁ。だが、あらゆる事態を想定したケニーさんならではのアレンジらしい。……ここから先は、あくまで可能性の話だが。あらゆる事態、まさに今、四つの勇贈玉ギフトスフィアがそろわない事態も想定してたとは思わないか?」


「……たしかに、ね」


 ケニー爺さんなら、人工勇者の研究のこと知っててもおかしくない。

 人工勇者の素材にエンピレオとは無関係な四つの勇贈玉ギフトスフィアがうってつけだってことを――さらには人工勇者を殺さなきゃ、勇贈玉ギフトスフィアに力が戻らないことだって突き止めていた可能性がある。

 そうでなくても、あのケニー爺さんがあらゆる事態を想定して設計した機能だってんなら、もしかしたらこの状況も打開できるかも。


「……もうすぐ王城だな。王都の異常をグリナさんがパラディへ知らせに行ったから、今ごろ城には装置が届いてるはず」


「そっか、だから私を呼びに来たんだ」


 装置を起動して、それで終わりじゃないもんね。

 本来なら【水神】も必要だし、私の力をエンピレオから装置へ移し替えなきゃいけないし。


「そういうこと。予定狂っちゃったけどな。……さて、できれば直接城まで送ってやりたかったんだが……」


 トーカが進行方向の反対側へと目をやった。


「そういうわけにはいかないみたいだな」


 直後に巨大ゴーレムが反転、着地。

 クイナたちが戦ってる方から、元研究員の不死兵たちが大挙してきてる。

 クイナたち、ジョアナとノプトの足止めだけで手いっぱいだったみたいだ。

 このまま放置したら、アイツら間違いなく王城にまで押し寄せてくる。


「ヤツらはここで食い止める。お前は――」


「わかってる。すぐにお城行って、隠された機能ってヤツを聞いてくるから」


「おう、頼んだぞ。……もしダメでも、戻ってこなくていいからな。なんせお前、ベアト最優先だろ?」


「……うん、ありがとう」


 ダメならベアトだけでも連れてどこまでも逃げろ、トーカはそう言ってくれている。

 これが今生こんじょうの別れになる覚悟で。


「……よし、行ってこい!」


 ニヤリと笑って私の背中をバシッと叩くと、トーカはゴーレムの手のひらから飛び降りる。

 直後、ゴーレムが巨大な腕をふるって、私は勢いよく放り投げられた。


(ありがとね、トーカ)


 空中でくるくる回りながら体勢を整えつつ、不死兵たちと戦闘を開始するトーカの背中に心の中で感謝を告げる。

 正門の前に着地した私は、もうふり返らずに城内めざして一直線に走りだす。

 みんなの覚悟が、ムダにならないことを祈りながら。




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