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324 不死の者たち




 ノプトの頭が飛び散るのと同時、ヤツの頭上の空間がガラスのように砕け散った。

 そこに開いた暗黒の穴から飛び出す影。

 ものすごい衝撃波をまといながら石畳を削って、砂煙を巻き上げながら停止する。


「なん……、ですって……?」


 はじめて聞くようなジョアナの困惑に満ちた声とともに、頭を失ったノプトが仰向けに倒れていく。

 空中で呆然と立ちすくむアイツに溶岩龍が直撃、大爆発を起こした。

 ヤツの魔力は全然衰えてないから、きっと暴風でバリアでも張ったんだろうけど。

 一方、砂煙が消えて姿を現したのはまぎれもなく、私の大事な友達だ。


「クイナ!」


「や、キリエ。無事に戻ったよー……。はぁ、はぁ……っ」


 私にむかって笑ってくれたけど、剣を杖代わりにして汗だく、息も絶えだえ。

 明らかに様子がおかしい。

 心配でたまらくって、急いで走り寄る。


「なんとか、出られたよ……。はぁ、はぁ……」


「クイナ、大丈夫?」


 この子、自分の足で立つことすらできないほど消耗してる。

 デタラメに強いこの子が、戦い以外でこんなになるなんて……。


「心配するな、とは言えないねー……。脱出するためとはいえ、全力の『五速』を何百回も撃つなんて……、ちょーっとムチャしすぎたみたい……」


「『五速』を何百回も……!?」


 あの技の凄まじさは、直接目にしたからよく知っている。

 魔力と練氣レンキをこめて放つ、山をも砕くような全力の一撃。

 あんなのを連発して、意識を保ててるだけでも奇跡だよ……。


「はぁ……っ、ところで、ここ王都? なんか大変な状況、みたいだねー……」


「……うん。奴ら突然、不死兵率いて総攻撃を仕掛けてきたんだ」


「そいつは穏やかじゃないね……、はぁ、はぁっ……」


 しゃべるのもやっとなクイナ。

 私はポケットから魚人薬の入った小袋を取り出して、その中身を一粒、手のひらに転がした。


「……クイナ、コレ飲んで」


「いいの……?」


「いいから。そんな状態じゃ、すぐ殺られるよ」


 まだ二粒くらい残ってるし、たぶんお城に戻ればラマンさんからもらえるはず。

 こんなバテバテ状態じゃ、ジョアナに狙われたら終わりだし。

 何より辛そうなこの子をこれ以上黙って見てられない。


「……ゴメン、じゃあもらうね」


 クイナが丸薬をつまんで飲むと、すぐに効果が表れた。

 乱れた息が整って、顔色もよくなって。

 どうやら全快したみたいだ、と安心したのもつかの間。


「勇者殿、ノプトの様子がッ!」


 イーリアが緊迫した様子で、私たちのそばに飛んできた。


「ノプトの様子……?」


 死体になったばかりのアイツが、いったいどうしたって――。


「……なに、アレ……?」


 首から上を失ったはずの体が、むくりと立ち上がっていく。

 さらには散らばった肉片が首の上に集まって、頭部がみるみる再生して……。


「そうだキリエ、知らせなきゃいけないことがあるんだよ!」


「知らせなきゃいけないこと……?」


「ノプトはエンピレオの細胞を体内に移植されてる。不死兵と同じ、不死の体になってるんだ……!」


「アイツが、不死身……!?」


「それだけじゃない、ジョアナに至ってはエンピレオ本体と完全に一体化してる。あそこにいるジョアナは分身さ……!」


「そんな……!」


 信じられない情報だけど、目の前で展開される光景を見れば信じるしかないよね。

 完全に頭部が再生したノプトが、むくりと起き上がるサマを見れば、さ……。


「……お姉さま、申し訳ありません。意識を失い魔力の制御がゆるんだ瞬間を突かれ、脱出を許してしまいました」


「…………。ふううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ」


 案の定生きていたジョアナも、爆炎の中からノプトのそばへと降り立つ。

 心を落ち着けるみたいに、大きく息を吐きながら。


 どうやら溶岩龍はダイレクトに激突してたみたい。

 あちこち黒コゲになった肌が、急速に再生していっているのが何よりの証拠だ。

 直撃してたこととヤツが不死身なこと、その両方の。


「あぁバレちゃった、バレちゃったわねぇ……。もう少し引っ張ってから、盛大にネタばらししてあげようと思ってたのに……」


「楽しみ奪っちゃったみたいだねー。ざまーみろ」


 顔を片手でおおって、明らかにイラついた様子のジョアナ。

 アイツにとって、クイナの脱出は完全な計算外だったみたいだ。


「ホント、驚いちゃったわよ……。あなた、暗闇の中で怖い怖いって泣いてるかと思ってたわ」


「前のアタシなら、そうだったかもね」


「……ふふっ、まあいいわ。だったら別口で楽しむまでよ」


 けど、すぐにメンタル持ち直したみたい。

 いつも通りにニヤニヤと笑みを浮かべながら、パチンと指をはじく。

 直後、奴らの背後に大量の研究員が出現。

 さらにジョアナのとなりには、見覚えのある青い髪のおばさんが……。


「ガーベラさん……!」


「違うよ、キリエ。アレは――」


 クイナがなにかを言おうとした瞬間、ジョアナは背後からガーベラさんの胸を手刀でつらぬいた。


「このオモチャも、もういらないわよねぇ」


「な……! お前、なにして……!」


 味方のはずなのに、いきなり殺すだなんて。

 あの人とまだ話もなにもできてないのに……!


「キリエ、落ち着いて。アレはガーベラさんじゃない、ただのコピー人形だ。本物のガーベラさんはちょっと前に死んでる」


「……え?」


 クイナの話の内容を飲み込む前に、胸をつらぬかれたガーベラさんが肉の塊になっていく。

 どうやらジョアナの腕からなにかを注入されてるみたいだ。

 その上、後ろの研究員たちまでもが不死兵みたいな肉塊に姿を変えていった。


「あの研究員たちも、みんな改造されてたのか……!」


「はぁ、正解。ホント、次々とネタバレしてくれちゃって。私はただキリエちゃんとお人形遊びしたかっただけなのに」


「繝弱い縺ョ ノアの仇 險ア縺輔↑縺 許さな繝ヲ繝シ繧キ繝」繧ュ繝ェ繧ィ」


 肉塊からガーベラさんの顔が生えてきて、パクパクと口を開閉しながら言葉らしきものをしゃべりだす。

 あの肉塊から意志は感じられない。

 きっとアイツがしゃべらせているんだ。

 死者を冒涜するにもほどがあるその行為に、ジョアナへの殺意が煮えたぎる。


「……ジョアナ……っ!」


「あらあら、怖い怖い。視線だけで殺せそうなほどにらんじゃって。クスクスっ。 ……でもねぇ、視線でも剣でも魔法でも、この私は殺せないのよ?」


 殺したい、殺したくてしかたない。

 でも、悔しいけどヤツの言う通り。

 ジョアナを殺すためには【風帝】が必要だっていうのに、【風帝】の勇贈玉ギフトスフィアはその能力を宿した人工勇者であるジョアナが死なない限り力は戻らない。

 装置の起動キーである【風帝】がなきゃ、エンピレオやその眷属を殺すための力が得られないってのに……。


「く……っ! 勇者殿、どうすれば……!」


「どうすればって、そんなの……」


 どうしようもない、なんて言いたくない。

 最後まであきらめない。

 何か、何か方法があるはずだ……!


「うふふ、答えは『どうしようもない』よ。さぁ、失意のまま元研究員の不死兵ちゃんたちに食べられちゃいなさい?」


 ジョアナが片腕を突き出すと同時、白衣をまとった肉塊たちが突撃を開始する。

 上等だ、やれるだけやって――。


「まだ手はあるぞ、キリエ!」


 声と同時、舞い降りる巨大な魔導機兵ゴーレム

 その腕から放たれた極太のレーザーが、不死兵たちを背後からなぎ払う。

 直後、両手に巨大なガントレットを装備した小さな影がジョアナに殴りかかった。


「あら、あなたは……」


 ノプトとジョアナが飛びのいて、パンチは石畳に命中。

 大きく土の柱を吹き上げる。


「や、ジョアナさん。お久しぶりだね」


「トーカさん、ね。お久しぶり。ところで……手はまだあるって、どういう意味かしら?」




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