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31 最前線の街




 王都を出て二週間。

 リキーノを殺してからは、襲撃もなくって平和そのものだった。

 けど、ここから先は平和ってわけにはいかないよね。


「到着ね、最前線の街」


「ここが、フレジェンタ……」


「……っ」


 荒れ果てた荒野を埋め尽くす勢いで、王国軍の陣地がたくさん並んでる。

 木の柵に囲まれて、テントとか馬小屋とか、疲れはてた顔の兵士がいっぱい。


 西の方には、石の砦がいっぱい並んでる。

 それと、どんな姿かまではわかんないけど、たくさんの豆つぶみたいな人影が集まって見える。

 きっとあれが魔族軍だ。


 で、私たちが歩く道の先、荒野のど真ん中に現れた高い石の壁。

 その中にある街が、フレジェンタ。

 メロちゃんのふるさとだ。


「まさか戻ってくるだなんて、思いもしませんでしたです……」


 そうだね、私もまさか、最前線に来るなんて思いもしなかった。

 ……いや、思えば私、ここに送りつけられる予定だったのか。

 ギフトがお湯を沸かすなんて分かりにくいものじゃなくて、もっと強烈なヤツだったら。

 この荒野で魔族軍相手に死ぬまで戦わされて、死んでたはずなんだ。


「さ、ぼんやりしてないで、早く街に入るわよ。私たち目立っちゃってるし」


 確かにね。

 こんな時に最前線にやってくる旅人なんて、あからさまに怪しい。

 兵士たちに呼び止められないうちに、さっさと街の中へ行った方がよさそうだ。



 王都と違って、入り口には見張りの兵士がいた。

 まあ、そうだよね。

 敵の破壊工作員とか暗殺者とかが入ってくるかもしんないし。

 私たち、まさにそれなんだけど。

 で、ここでメロちゃんが活躍。

 住民証を見せることで、私たち全員が通されてしまった。


「……アリなのかしら、あのザル警備」


「いいじゃん、兵士さん死んだ目してたし。色々面倒になってたんでしょ」


 先代の勇者が死んでから、ずーっとにらみ合いが続いたまま。

 精神的にもかなり辛いんだろうな。

 街の外にいる兵士たち、みんな生気のない顔してた。

 王都の情勢も、ここまでは届かないんだろう。

 どうして勇者が来ないんだ、って感じなんだろうね、みんな。


「人通り、ゼロだね。静まり返ってるし、店も全部閉まってる」


「こんな時に店なんて開けてられないのでしょうね。物流が止まってるから売る物も無いでしょうし、それ以前に住民のほとんどが避難してるんじゃないかしら」


「……戦場になる前は、もっとにぎやかだったのですよ」


 悲しそうな表情で、メロちゃんが説明してくれた。

 ここ、フレジェンタは魔術都市と呼ばれていて、人間の国で一番魔法技術が栄えてた国。

 魔族領と隣り合ってるから、魔族とも昔から交流があったんだって。


 で、数年前に王国が侵攻してきて、フレジェンタは無条件降伏。

 対魔族戦争の最前線になってからは、草原が荒野になるくらいの戦いがずっと繰り返されて、人も魔族もたくさん死んで。

 魔術都市フレジェンタは、ゴーストタウンになっちゃったんだ。


「あたい、この街が好きだったです……。だから、今の姿は辛いですよ……」


「……っ!」


 ベアトが、メロちゃんを抱きしめた。

 泣き出しそうなあの子を、放っておけなかったんだろうな。

 ベアトってそういう子だ。


「べ、ベアトお姉さん……」


「……っ、……っ!」


 泣かないで、元気出して、って言ってるみたい。

 小さなメロちゃんを抱きしめるベアト、本当にお姉ちゃんみたいだ。


「ありがと、ございますです。もう平気です!」


 立ち直らせちゃった。

 私には出来ないよ、あんなこと。

 ベアトって凄いなって、最近そう思う。


「あらあら、ふーん」


 何ニヤニヤして見てんだ、ジョアナ。


「なんだよ、言いたいことあんならハッキリ言ったら?」


「べっつにー? ただ、ベアトちゃんのことさっきからじーっと見まくってるなー、と思っただけー」


「……はぁ。で、泊まるとこどうすんの」


 これは相手にしたらダメなヤツだ。

 もっと調子に乗るだけだ。

 マトモな話題に切りかえるに限る。


「泊まるとこ……。宿ももれなく閉まっちゃってるわよねぇ」


「そいなら、うってつけのところがあるですよ!」




 メロちゃんに案内されてやってきたのは、普通の二階建ての民家の前。

 誰も住んでる気配はないけど、もしかして。


「ここ、あたいの家です! 遠慮なく入ってくださいです!」


 やっぱり、メロちゃんの家だった。

 家族を全員殺されて、メロちゃん自身も出ていって、主を失い打ち捨てられた家。

 魔導キーで扉の魔術ロックを解除してもらって、家の中へ。

 あれ、案外きれいなままだ。


「いいわね、ここ。活動拠点にはもってこいだわ」


「家具とか少し売り払っちゃったんで、ちょっと快適じゃないですけど」


「十分だよ。寝るだけなら」


「……っ!」


 雨風しのげるだけでじゅうぶん。

 それに、あんまり長居するつもりもないしね。


「さて、拠点も手に入れたところで、さっそく作戦会議よ。いいかしら?」


 そう、カインさんの娘さんをタリオから奪い返す。

 私たちがはるばるやってきた理由がそれだ。


「まずメロちゃん、タリオたち軍の将校がいる場所はどこかしら」


「街の中心にある、元王宮です。王国に降伏してからは、貴族が街を治めるのに使ってたんですけど、今やアイツら専用の豪華ホテルですよ」


 中央の王宮、ここからでも見える。

 黄色くて丸い屋根の、王都のヤツよりかなり小さいお城だ。

 あそこにクソ虫どもが巣食ってるわけか。

 できることなら皆殺しにしてやりたい。


「なるほど、奥方たちもそこにいるでしょうね。次、この街の地理を教えて?」


「了解です!」


 こういう時、頼りになるのが地元民。

 地図を広げて、のってない裏道までペンで書いてくれる。

 それをヒントに、ジョアナが逃走経路を割り出す感じだ。


「さて、あとはあそこの内部構造ね。……ちょっと私、調べてくるわ。夜になるまでまで戻らないと思うけど心配しないで。朝になっても戻らなかったら、さすがに心配してね」


「ちょ、待って! 何さ、急に!」


「それじゃあねー」


 いやいや、思い立ったらって言うけども、思いきり良すぎでしょ。

 窓をガラリと開けて、飛び出していっちゃったよ。


「ジョアナってさ、いつもあんな感じだよね。つかみ所がないっていうか、自由っていうか……」


「そうなんですか? あたい、とっても頼れるお姉さんってイメージです」


「いつも朝からふらっと居なくなって、夕方頃に戻ってくるの。どこに住んでて普段なにしてるのかも知らないし。頼れるし信用はしてるけどさ、よく考えると変なヤツだよね」


 ベアトが紙とペンを取り出した。

 会話に参加するつもりみたい。


『いまのジョアナさん、ちょっとへんでした。なにか、ほかにもくてきがあるみたいな』


「目的? 私たちにナイショの?」


『ただのカンですけど。でも、なんとなくそんなかんじがしました』


 目的、ね。

 リーダーにしては感情任せ過ぎた任務だ、とは前にも思ったけど。

 何か他に、絶対に他に漏らしちゃいけない目的がある、とか?


「……まあいいや。ジョアナのことなんて考えても仕方ない」


 興味ないしね、他人になんて。


「じゃあベアトお姉さん! キリエお姉さんのこと教えてくださいです!」


「……っ♪」


 いや、ちょっと待て。


「なんで私のこと、ベアトに聞くのさ」


「だってキリエお姉さん、自分のことなんにも話してくれませんですし、ベアトお姉さん以外には興味なさそうですし」


「いや、ベアトにも興味ないし」


「……!!?」


 あ、もの凄くショック受けた顔された。

 みるみる目尻に涙がたまって……。


「ちょ、待って、ウソだから……。ちょっとは興味あるから……」


「……っ♪」


 嬉しそうに抱きついてきたベアトの目から、涙はすっかり引っ込んでる。

 あぁ、これウソ泣きか。

 まんまともてあそばれたか、私。



 ●●●



 風をすみずみまで巡らせて、王宮の内部構造データは収集完了。

 風のウワサ(・・・・・)で流れてきた、色んな情報もバッチリ。

 相変わらず便利ねぇ、この能力チカラ


「さて、本来の目的を果たすとしましょうか」


 王宮に巡らせていた風を解除して、その場から飛び上がる。

 誰にも見えないほど高く飛んで、風を操ってあっという間に街の、壁のはるか上空を通りすぎ、そのまま荒野を抜けて、魔族軍の陣地へとうちゃーく。

 本陣砦の入口へ急降下しまーす。


「貴様、何者だ!」


 おっと。

 とつぜん空から美女が落ちてきたら、びっくりさせちゃうわよね。

 入口守ってる獣人さんに槍を向けられちゃった。


「待て、そいつは敵じゃない。ここまで案内しろ、丁重ていちょうにな」


「ははっ!」


 砦の奥から聞こえてきた、威厳たっぷりの声。

 あらあら、あなた自らこんな場所まで出てきてるなんて。


 砦の奥まで通されて、青白い顔で真っ白髪な、耳のとがった偉そうな男の人とご対面。

 まあ、魔族ってみんな青白くって耳とがってるのだけれど。

 私たち人間と違って、ね。


「久々だな、ジュナ」


「あなたもね、第一皇子タルトゥス閣下。驚いたわ、あなたが前線に来ているなんて」


 お互いに後継者を前線へ出すなんて。

 セイタムさんとブルトーギュ、正反対だと思っていたけど似てるとこあるのかしら。


「それと、今の私はジョアナ、覚えておいて?」


「ふふっ、お前の名前を覚えるのは、もう何度目か。して、ジョアナ。わざわざお前が来たってことは、俺たちにとってもいい話なんだろう?」


「ええ、とってもいい話よ。じっくり朝まで語らいましょう?」




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