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307 帰り道




(キリエたちと別れてから、もう二日かー)


 一人でいるの、ちょっと寂しいな。

 今までこんなこと思ったことなかったのに。

 キリエに連絡入れればいい話だけどさ、進展したら連絡するって言った手前、用もないのに通話しづらいよね。


 魚人の里をあとにしたあと、アタシは亜人領の密林を、日の出てるうちは突っ走って日が沈んだら休んでを繰り返しながら進んでいる。

 東へ東へとむかって、もうそろそろ魔族領に入るとこかな。


 アジトの正確な位置を、アタシは知らない。

 けど、アタシの中の【遠隔】のリンクが復活したのを、今朝確認した。

 ノプトが息を吹き返したのか、他の誰かに【遠隔】が引き継がれたのか。

 どっちにしても、アタシがリンクをオンにしたまま走っていれば、そのうち誰かが迎えに――。


 シュンっ。


 ……っと、言ってるそばからか。

 何者かがアタシの進行方向に瞬間移動で出現。

 ぶつかんないように、アタシの方も急ブレーキだ。

 さーて、誰が迎えにきたのかな……っと。


「……生きていたのね」


「……あぁ、そっちこそ。無事でなによりだよ」


 迎えにきたのは、他でもないノプト本人だった。

 イーリアがあそこまで痛めつけたってのに、死ななかったのか。

 見かけによらずしぶといヤツ。


 さておき気になるのが、両腕が無事だってこと。

 切断された腕は、元のパーツがなければ戻らない。

 【治癒】の勇贈玉ギフトスフィアがあれば話は別だけど、アレはジョアナの身に起きた異変と同時に失われたってノプトから聞いている。

 ……もしかして、誤情報つかまされたか?

 ともあれ、コイツが生きてたんなら潜入難度上がっちゃうな。


「トゥーリアは?」


「さあ。死んだんじゃない?」


「【地皇】は? トゥーリアに渡されてたでしょう」


「奪われたよ。勇者の気迫がすごくてさ」


「……そう。まあいいわ。今回の件は私の失態。お姉さまに任されながら、なんの成果も上げられなかった私の責任ですもの」


 あら、もっと問い詰められるかと思ってた。

 ノプトの目の奥、まったく笑っていないから、怪しまれているのはわかる。

 それでもアタシを始末しようとしないのは証拠がないからか。

 トゥーリアを失ったとあれば、奴らも戦力は少しでも欲しいだろうし、ね。


 ただ、油断はできない。

 当然怪しまれてるだろうし、ノプトの動向にはこれまで以上に用心しなきゃ。


「さぁ、帰りましょうか」


「……だね。連れていってよ、どこだかわかんない地の底へ」



 〇〇〇



 青い空、青い海、岩造りの灰色の里。

 マドから見える魚人の里の風景が、どんどん遠くなっていく。


 トーカが【機兵】で生み出した航空機型魔導機竜(ガーゴイル)に乗って、私たちは王都を目指し飛び立った。

 私の他に乗っているのは、となりの席でマドに顔を押しつけて目を輝かせているベアト。

 マドから離れて青ざめた顔をしているイーリア。

 当たり前だけど操縦席に座っているトーカ。

 そして……。


「なんでさぁ……。なんでおいら……どうしてなのさぁ……」


 座席に突っ伏してメソメソしているラマンさんだ。


「ラ、ラマンさん、気を落とさないでください。巫女様も考えあってのことでしょうし……」


 イーリア、気を使ってやってんな。

 高いところがダメなおかげでヒザガクガク震えてるのに。


 たしかベルが刺された時も魔導機竜ガーゴイルに乗ったはずだけど、あの時は高いトコ怖がってた場合じゃないんだろうな。

 にしても、普段のガーゴイルと違ってマドやカベがあるってのにそのビビりようか。


「ヘタな慰めはよしてくれやい……。きっと巫女様、おいらがおそばに居るのが嫌なんだぁ……」


「そんなことないですって。ラマンさんの料理、とってもおいしいですし」


「そうだよ。ベアトが治癒魔法を使えないから、ラマンさんがいるとすっごく助かるし」


 さすがに見かねて、私も助け船を出した。

 ラマンさん、巫女様を守る気満々みたいだったのに、巫女様ってば十人以上の巫女後継者候補と百人くらいの屈強な魚人の戦士をやしろに集めちゃうんだもん。

 さすがに敵も諦めただろうに、あそこまで固める巫女様もさすがだよね。


 そんなわけで、私たちについていくようにって巫女様からじきじきのお達しをたまわったラマンさん。

 大きな戦いになれば、この人の薬が生命線になるわけだし、へこんでばかりいられちゃ困る。


「でもよぉ……」


「……うん、ほら。ラマンさんも思いっきり活躍して武勇伝作ればさ、巫女様も惚れちゃうかもしんないよ?」


「……そうか? お、そうか!?」


 あ、テンション上がった。


「そうだよな、やっぱりそうなるよなぁ!! よぉし、まかせとけ! 料理でも薬でも、おいらがんばっちゃうぞ!!」


 よかった、単純で。

 さて、ラマンさん元気になったならもういいよね。

 放っておいてベアトとお話しよう。


「……っ!!」


 ベアトってば、前にこの魔導機竜ガーゴイルに乗った時は意識なかったからね。

 はじめて乗ったみたいなモンだ。

 マドに顔を押しつけて外を見てるの、とってもかわいい。


「ベアト、何が見えるの?」


「……っ、……っ!」


 指をさした先、機体の少し遠く、鳥が群れで飛んでいる。

 さっきからアレ見てたんだ。


「鳥かぁ……。こんな高く飛べるんだね」


「……っ、……ぅっ」


 あ、喋ろうとがんばってる。

 でも、小さなうなり声みたいのを出すのが精いっぱい。

 早々にあきらめて、羊皮紙に字を書き始めた。

 そうそう、ムリしちゃダメだから、少しずつね。


『このガーゴイル、すごいですね。ゆれないし、さむくありません。それにとってもはやいんですよね』


「そのぶんトーカも疲れちゃうみたいだから、帰りも出してくれるとは思わなかった」


『トーカさんにも、いっぱいかんしゃしないとですね』


 ホントにね。

 ベアトが今こうしてここにいるの、トーカが体を張ってくれたからなんだもん。


 ベアトはとってもニコニコ顔。

 でも、その顔が不意に寂しそうになって。


『クイナさんも、のせてあげたかったですね』


「クイナ……か。あの子もいれば、最高の空の旅だったのにな」


 危険を承知で二重スパイを申し出てくれて、単身敵地に潜入することになったクイナ。

 あの子の強さは直接戦った私がいちばんよく知っている。

 けど、知っててもやっぱり心配だ。


『また、ぶじにあえますよね』


「会えるよ、絶対」


 心配だけど、心配したってしかたない。

 またいっしょに遊ぼうって、王都の観光案内の続きしようって、あの子と約束したんだもん。

 信じなきゃ、ダメだよね。


 にもつの中から、くすんだ黄色の勇贈玉ギフトスフィアを取り出す。

 なにかあれば、あの子からコイツに連絡が入るはず。


「あれから二日、か。そろそろ連絡ほしいな……」


『……あー、キリエ、聞こえる?』


「……っ!?」


 いきなり勇贈玉ギフトスフィアから声がして、ベアトがイスから飛び上がった。

 私もちょっとびっくり。


「……クイナ? クイナだよね」


『おー、キリエ。声聞けてうれしいッス。……今ね、アジトに戻ってこれたトコだよ。それで、まず一つ報告を。ノプトが生きていたんだ、しかも両腕健在で』




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