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305 幕間 迷子じゃないです




 やれやれ、日が暮れちまったか。

 魔物退治に体を動かすのはいいけどよ、騎士団を指揮するなんざ窮屈で肩が凝りそうだ。

 俺のアニキだっていうギリウスさん、大事な用事があったらしいが、まったく人使い荒いよな。


「バルジ様、二刀の剣さばきお見事でした!」


「カイン様とギリウス様、両名直伝の太刀筋は、記憶を失っても衰え知らず! むしろますます磨きがかかって、わたくし感動してしまいました!」


「そ、そうかい……」


 やったら尊敬されてるみてぇだが、記憶をなくす前の俺はそんなに立派だったのかね。

 キリエちゃんいわく、全然変わってないらしいんだがよ。


 ため息をつきつつ、騎士団の先頭に立って王都の正門へ続く街道を歩く。

 これじゃあまるで騎士様だぜ。

 なーんて心の中で愚痴ってっと、後ろの方からリズミカルな馬のひづめの音が聞こえてきた。


「バルジ、立派につとめたようだな」


「げっ……」


 ふりむけば、馬に乗って駆けてくる大柄な騎士様の姿だ。

 うわさをすればなんとやら、帰還タイミングが被っちまったみてぇだぜ。




 そんなわけで、城にもどった俺は、ペルネ女王への報告をギリウスさんといっしょにするハメになった。

 二人で並んで廊下を歩いて、正直気まずいったらねぇな……。


「……バルジ、そんなに俺と二人は嫌か?」


「嫌……ってわけじゃねぇけどよ」


 ただひたすらに気まずい、それが本音だな……。


「俺ぁ記憶がねぇんだ。なのによ、いきなり家族だって、兄貴だって言われてもな。やっぱりさ、俺の中でアンタは、出会ったばかりのギリウスさんでしかねぇんだ」


「……なるほどな。まぁ、ムリもない」


「悪りぃ……。あんたからすりゃ俺は紛れもなく弟だ。ちと無神経だったか……」


「いいさ、俺はかまわない。時間が解決してくれるだろうしな。だが、ストラには同じことを言ってやらないでくれ」


 ストラ……、俺の妹で、スティージュの女王様か。

 いけねぇな、家族だってのに顔と名前を思い出すのにタイムラグがある。


「……わかってるさ。そこまで気を回せねぇ男はモテねぇからな」


「ふふっ、よく言う」


「あ? なに笑ってんだよ」


 ……と、なんだろうな。

 こうして話している間に、緊張や気まずさが少しだけ和らいできた。

 なんにも覚えてねぇってのに、どこか懐かしいような感覚。

 やっぱり家族……なのかね。


「で、ギリウスさん。アンタ、俺に騎士団押しつけるほどの大事な用事は無事済んだのかい?」


「あぁ。コイツをな、無事に見つけてきたよ」


 ギリウスさんが、荷物の中から羊皮紙の束をチラリと見せた。

 なんだか細かな字と、図解のようなモンがびっしり書かれてるみてぇだが……。


「こりゃ、なんだい」


「とある科学者が残した資料だ。この場では、それしか言えんな……」



 △▽△



 あたいはもう十二歳です、立派なお姉さんなのです。

 だから別にトーカがいなくたって寂しくなんかありません。

 ……ウソです、ちょっとだけ寂しいです。

 本当にちょっとだけ。


 でも、リフちゃんはまだちっちゃいです。

 だから大好きなキリエお姉さんがいなくなってしまって……。


「うぅ……」


 こうして部屋の中でくまさんのぬいぐるみ抱えて、ぐずっちゃってるです。

 ここはお姉さんとして、あたいがなんとかしてあげないと!


「リフちゃん、元気出すですよ。キリエお姉さんたち、すぐに戻ってくるですから」


「すぐって、いつ……?」


「そ、それは……。と、とにかくすぐですよ!」


「やっぱり……、いつかえってくるかわかんないんだ……。ふぇぇぇ……」


 あちゃぁ、逆効果ですねこれ。

 やっちまったかもです。


「そ、そうです、こんな日が暮れるまで部屋の中にいるから暗い気持ちになっちゃうですよ! 王城自由に歩いていいらしいですし、あたいといっしょに探検するです!」


「たんけん……?」


「そう、探検です。楽しいことや新たな出会いが待ってるかもですよ! さあ、出発です!」


 ここは強引にでも、手を引っ張って部屋から連れ出します。

 お姉さんとして、頑張るですよ!



「メロおねえちゃん、ここどこ……?」


「ここは……」


 まずいです、迷ったです……。

 広くて長い、どこまでも続く薄暗い廊下。

 ここがどこだかさっぱりわかりません。

 あたい一世一代の不覚、完璧に迷子ですね……。


 マドの外、もうすっかり日が沈んで月が出てますし。

 夕食たべそこねるかもです、これ。


「ここは……。そ、そう、屋上テラス近くなのですよ! きっと!!」


「きっと……って……。ふぇ……、やっぱりまいご……」


「違う違う違う! だから泣かないでですよぉ!」


 あぁもう、あたいまで泣きたくなってきたです。

 こんな時、新たな出会いの訪れか救いの神の降臨でもしないでしょうか……。


「……ぇ? お、おねえちゃん……。あれ……」


「む? どうしたのですか?」


 リフちゃんが指さしたのは、廊下を少し進んだところの月明りが差し込む窓辺。

 月の光が粒になって、だんだんと人の形になっていくような……。


「な、なんですかアレは……! ま、まさか……」


 幽霊……?

 幽霊です……!?

 新たな出会いでも救いの神でもなく、まさかの幽霊さん登場ですか!?


(お、落ち着くですよ、メロ・オデッセイ……。ここで恐怖のあまり取り乱しては年長者の面目丸つぶれ……もとい、リフちゃんが不安になってしまうです!)


 そう、幽霊なんて全然怖くなんかないですから!

 あたいはもうお姉さんですし、フレジェンタの誇る天才魔術師ですし!


「リ、リフちゃん……、あたいのうしろに隠れてるですよ……!」


「ふ、ふぇぇ……」


 リフちゃんを後ろにかばって、腰にさしてた杖を手に持ちます。

 そうしている間にも、光はどんどん人の形になっていって……。


「……おや? アンタたち……」


 現れたのは教団のシスター服に身をつつんだ、オーガ族の大柄な女の人。

 あたいらの顔を見て、不思議そうに首をかしげます。


「こんなトコで、二人きりでなにしてんだい。ここ、女王様の私室があるトコだよ?」


 なんと幽霊でもなんでもなく、あたいらの顔見知り、グリナさんでした。

 そういえばこの人、教団のシスターさんになったんでしたね。

 知り合いの大人に会えて安心したのか気がゆるんだのか、リフちゃんの目に涙がたまっていきます。


「ぅぇ……、リフたち、まいご……」


「ちがっ、え、えっと、ですね。探検、そう探検です!」


 迷子じゃないです、断じて!

 いや、本当は迷子なんですけど……。


「はぁ、探検ねぇ」


「そ、そんなことよりグリナさん、どうしたんですか! こんなところに突然現れるだなんて!」


 おまけに首から黄色い勇贈玉ギフトスフィアがハマった『至高天の獅子』まで下げちゃって。

 まるでソーマみたいなのです。


「いや、わたしゃちょいとこの国に用があってね。大司教様のお使いで、【月光】使ってピレアポリスから飛んできたんだ」


「げ、【月光】……!?」


 【月光】って、それもう本当にソーマじゃないですか……。




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