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「あはっ、あはっ、うふふふふはははははっ♡ セリア様に、セリア様にイケニエ捧げちゃったぁ♪」
トゥーリアが天をあおぎながら、満面の笑みを浮かべてる。
クイナの声で、このイカレ女のやる気が全開になっちゃったっぽいな。
つってもあの子、ただ普通に会話してただけなんだけども。
「セリア様、待っててねぇ……♪ 今すぐ、勇者の首も持ってくるからぁ♪」
目ん玉かっぴらいてグルリと首を動かし、こっちをむくトゥーリア。
正直、とっても気持ち悪い。
「トゥーリアの神様ぁ♪ いっぱいいっぱいほめてねぇ♪」
ヤツのかまえは騎士剣を両手に持って、力は入れずに腕をダラリと下げた独特なもの。
私も左の手にソードブレイカーを逆手でにぎって、腰を低く落とす。
さらに練氣・月影脚と神鷹眼でスピードと見切りを強化。
【水神】が使えないぶん、他の全部で迎え撃ってやる。
「取れるの? アンタなんかに私の首が」
「取ってみせるの、獲っちゃうの。グルんとひねってブチっと千切って……」
ゆらり。
体が揺れて、ヤツが動き出した。
「目ん玉ほじくり出しちゃうのぉぉぉぉっ♪♪」
腕を下げたまま、一気に間合いを詰めてくる。
さて、何をするつもりだ……?
「きゃははははっ、そぉれっ!!」
繰り出したのは下段からの斬り上げ。
力を抜いた長い腕がまるでムチのようにしなって、金剛力を発動したイーリアの剣速と大差ない速度を発揮してる。
けど、十分に対応できる速さ。
「そんな攻撃っ!」
ガギィィッ!!
甲高い金属音、刀身がこすれ合って火花が散る。
ヤツの騎士剣は、左ににぎったソードブレイカーが受け止めた。
練氣を使えないコイツの攻撃なら、私の方が練氣を使えば片手でも止められる。
「迂闊だったね。私の力、知らないわけじゃないでしょ?」
そのまま剣から【沸騰】の魔力を送りこむ。
これでトゥーリアの剣はすぐにでも溶け落ちるはず。
それだけじゃ倒せないにしても、武器を奪えることは確定だ。
「アナタこそ迂闊なの。私の力、あなたはロクに知らないから」
「何を――」
……溶けない。
ヤツの剣が、ちっとも溶けださない。
さっきから魔力を送り込んでるはずなのに。
「私の騎士剣もね、特別製なの。魔力をよく通す、特殊な鉱石で作られた刃」
「……そういうことか」
コイツは私と同じ、触れたら終わりのギフト持ち。
魔力伝導率の高い素材を使った剣なら、私と同じく刃に触れても能力が発動する。
「そ。刃から魔力を流して、あなたとソードブレイカーの魔力のつながりをロックしたの。気づくの遅かったのね……」
コイツは私と同じ。
刃で触れても能力が発動して、相手のなにかをロックできる。
……だからどうした。
その程度で私を倒せるとでも思ってんのか。
「さぁさぁさぁ、おっ次っはどっこをっ、ロックしちゃおっかな~♪」
上機嫌で鼻歌まじり。
もう勝った気でいるのかよ。
いつまでも好きにやらせるか。
その油断したニヤケ面、吠え面に変えてやる。
「きーめたっ♪」
トゥーリアが切っ先をむけて、満面の笑みで突きかかってくる。
イカレ女の開ききった瞳孔がむかう先、ヤツの狙いは――。
「右腕、固めちゃうのっ!」
シュバッ!
風を切る音とともに刃が突き出された。
並の達人なら、見切ることもできない速度だろうさ。
でもね、あの子の突きとくらべたらハエが止まりそうなほど……、
「遅いっ!」
素早く体を沈めて、私の頭の上を剣が通り過ぎる。
もちろんただ避けただけじゃない、反撃の用意も整ってるよ。
かがむと同時、【沸騰】の魔力をたっぷり込めた右腕を海底洞窟の濡れた地面に置いて、
「弾けろっ!!」
瞬時に沸騰させ、あたり一面に飛び散らせてやった。
「あつ、あっつっ!!」
体中に熱湯のしぶきを浴びたトゥーリアが後ろに飛び下がる。
それで逃げたつもりかよ。
この海底洞窟、カベはびしょびしょだし地面に水たまりがたくさんある。
池と呼んでいいくらい海水が溜まってる場所もあるくらいだ。
地面に手をついた瞬間、私はすでにそこらじゅうの水に魔力を送っていた。
「あつい、熱いの……っ! またこんなこと……、もう許さない……!」
「さっきの手のひらのこと、ちゃんと覚えてたんだ。じゃあ私が言ったことも覚えてる? 全身大やけどにしてやるってさ」
ハッとした表情で、トゥーリアが背後をふりむく。
そこにあったのは、私の魔力で沸騰しながら浮遊する海水の弾丸たち。
ソレを見た瞬間のヤツの表情が、ここからじゃ見られないのが残念だよ。
「私、言ったことはできるだけ守る方だから」
「この……っ」
空間中の熱湯をヤツにむかって殺到させる。
四方八方から襲いかかるあっつあつのシャワーに、トゥーリアは悲鳴をあげた。
「あつっ、どうしてこんなヒドイこと……っ!!」
【水神】の能力は水を生み出して操ること。
でも、ただ水を操るだけなら【沸騰】だってできる。
【水神】を封じられたとしても――水を生み出せなくても、大量の水があるここではなんのハンデにもならないってわけ。
もちろん、これでヤツを倒せるとは思ってない。
熱湯かけられたくらいじゃ、人はなかなか死なないもんね。
死ぬのは脳みそ沸騰された時。
ヤツがひるんで体を丸めた瞬間、私は走り出す。
脳天をつかんで、直接沸騰の魔力を送り込むために。
ちょうどおあつらえ向きに、頭をかがめてやがる。
とってもつかみやすい体勢だ。
飛び交う熱湯のしぶきも、私が沸かした熱は私自身にはあまり効かない。
無視してつっこんで、ヤツの頭に手をのばす。
ガシッ!
ところが、つかんだのは冷たい感触。
ヤツの頭のスレスレに生み出された石の盾の感触だった。
クソ、触れる直前に【地皇】の能力でカベを作られた。
社での戦いと同じように……。
「あっついって言ってるの!!」
ヒュバっ!!
すぐさま反撃が、心臓を狙った突きが繰り出される。
攻撃スカされて崩れた体勢で、無理やり体をひねって回避。
それでも避けきれずに、刀身が右の二の腕をつらぬいた。
「ぅぐ……っ!」
腕に走る痛みに、思わず顔をしかめる。
けど痛みよりもケガよりも深刻なのが、魔力を流されて右腕をまるごとロックされたこと。
まるで自分の体じゃないみたいにダランとぶら下がって、指先一つ動かせない。
それどころか、風を切る肌の感覚すら感じない。
「きゃははははっ、ザマぁ見るのっ! お次はどこにしよっかなー?」
こりゃ、ちょっとこの先の戦いが苦しくなりそうだ。
今すぐにケリをつけなきゃ、ね。
「きーめたっ、心臓を止めちゃう――」
トゥーリアが剣を振りかぶった瞬間、辺りに散らばっていた熱湯をヤツの背後にかき集める。
ソイツを薄く平たく形を変えて全力で圧縮。
高速で回転させながら、ヤツの首筋めがけて飛ばしてやった。
水だって出口をしぼって勢いをつければ、岩でも切断できるってケニー爺さんが言ってた。
ウォーターカッターってヤツだって。
今までさすがにウソだと思ってたけど、あの人の正体がわかった今なら信じられる。
コイツならヤツの首も斬り飛ばせるはず。
「の……っ!?」
ところが、動物的なカンなのかなんなのか。
ヤツはとっさにふりむき、すぐに体をそらす。
おかげでウォーターカッターは狙いを外し、トゥーリアの首じゃなく、
ズパァ!!
剣をにぎった右腕を斬り飛ばした。
「あ……っ、ぎあああぁぁぁぁあぁぁぁっ!!」
「あちゃー、外したか。でもま、これで片腕同士。おそろいじゃん?」