表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/373

29 特別なんて、作らない




 まず右手首に、魔力を全体に行き渡らせてドロドロに溶かしてやる。

 短剣の一本が、指だったとこからこぼれて地面に落ちた。


「あびゃあぁぁぁぁぁっ!!」


 うるさいな、洞窟だからよく響くんだよ。

 まあ、静かにされててもそれはそれでムカつくか。

 もう片方の手も、グッツグツにする。

 また悲鳴が上がって、武装解除完了。

 最後に思いっきり顔面を殴り飛ばす。


「はひっ、はひっ、はひっ」


 はい、無様にぶっ倒れて身動きとれなくなったクソ虫の完成。

 ベアトをさらった理由、殺す前に絶対聞き出さないと。


「ねえ、どうしてベアトを狙ったの? 教えてくれたら必要以上には苦しませないよ?」


「だっ、誰が、言うかっ」


 ぺっ、とツバを飛ばしてきた。

 汚いから避けたけど。

 ……ふーん、そういう態度取るんだ。


「これはお願いじゃないんだよ? 命令。勘違いしてないかな。あんたに断る権利はないの」


 足の先に、魔力を送り込む。

 足首とか全体じゃなくて、指の先っぽに。

 ぐつぐつ、ぐつぐつと煮立って、肉を弾けさせながら、ゆっくりと体に向かって登っていくように。


「ひぎっ、ぐびゃああぁぁぁぁぁぁっ!!! あぢっ、あぢぃぃぃっ!!!」


「ねえ、答えようよ。じゃないとさあ、足の先から少しずつ沸騰していって、とっても苦しんで死ぬことになるんだよ?」


「はひっ、答えるっ、答えるから止めてえぇぇえぇっ!!!」


「物分かりがよくて助かるよ。さ、早く教えて」


「先に止めてくれぇえっ!!」


「ダメダメ、ウソ教えてくるかもしれないじゃん。ほら、早く。もう足首まで上ってきてるよ?」


 コイツの足首から先、皮膚が弾けて肉が全部丸出しになってる。

 これじゃあもう走れないね、かわいそう。


「はぁっ、あの女っ、カロンに頼まれたんだっ、探して捕まえたら、褒美をやるって、ブルトーギュの家来にもしてくれるってっ!」


「で、捕まえてカロンに渡したんだ」


「あっ、ああぁっ、必死に探して、探して、捕まえたからっ、引き渡しの日っ、決めたら、カロン、その日っ、お前の村焼きに行っててっ、明け方ごろっ、帰ってきたあいつに、引き渡したっ!」


 なるほど、アイツが不自然に帰ってったのはそんな理由が。

 私の抹殺よりも優先する理由があるっての?

 ベアトって一体……。


「ねえ、ベアトの正体は知ってる?」


「知らなひっ、らけどっ、勢力図を、一変させる切り札らってっ、カロンがっ!!」


「他には?」


「わからにゃっ、けどっ、神官っ、パラディの神官がっ、屋敷に出入りしてるのっ、見たっ」


「……何それ、関係なくない?」


 上っていく速度を速める。

 すね辺りまで来てたのが、一気に太ももまで肉が剥きだしに。


「あぎゃあああぁぁああっ!! 違っ、関係なくねぇぇっ、あの小娘もっ、パラディから、来たってっ」


「……へえ、あの宗教大国から」


 だとしたら、ちょっと厄介かな。

 ベアトを狙ってるのはコイツだけじゃないってことに——、あれ?

 私、なんでこんな熱心にベアトのこと問いただしてるんだ?

 あの子の素性なんて、どうでもいいはずなのに。

 おかしいな。


「……ごめん、私ちょっとどうかしてた。【沸騰】いったん解除するね」


 下腹部にまで上ったところで、魔法を解除。

 下半身、全部まるごと茹で上がっちゃったけど、ま、いっか。


「はっ、はっ、はひっ……」


 リキーノのヤツ、顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

 ……ホント不思議だな。

 ベアトのことなんて、ただの安眠道具くらいにしか思ってないはずだよね、私。

 なんでこんなムキになってたんだ。


 冷静さを取り戻し、その場を立ち上がる。

 とりあえずみんなのとこに戻ろっか。


「ふぅ、じゃあ私はこれで。あなたも元気でね」


「な、なにっ……? こ、殺さないのかァ……?」


「うん。……とでも言うと思った?」


 パチン、と指を鳴らして、止まってた沸騰を再始動させる。

 今度はすごくゆっくり、じわじわ、じわじわと頭の方へ上がっていくように。


「えっ? あっ、ひいいぃぃぃぃっ!!」


 あ、希望を抱いた顔が一気に絶望に染まった。

 自分の運命を悟ったみたいだね。

 別に笑えたり面白かったりはしないけど。


「ってことで、お達者でー」


「あぢぃっ、嫌だっ、まっ、待てっ、置いて行くなっ、助けてっ、嫌だっ! 痛てぇっ、気が狂いそうなほど痛てぇよぉぉっ!!」


 腕をふりふり振って、洞窟を出る。

 さてさて、あの暗殺者さんはいつまで生きていられるのかな。

 別に興味ないし、心底どうでもいいけど。


「だずげでえええぇぇぇぇっ!!!」


 助けるわけあるか。

 アレはもうその場に放って、ベアトたちのところへ向かって駆け出す。

 一刻も早く、あの子に会うために。


 ……あのね、ベアトに早く会いたいのは、傷の治療しないと私がヤバいから。

 勘違いしないように。



 ○○○



「……っ!!!」


 小屋の前まで戻ってきたら、ベアトが中から凄い勢いで走ってきた。

 で、心配そうに私の傷を見て、すぐに治療を開始。

 大きな傷から優先して、ていねいにヒールをかけてくれる。


「お疲れ様、リキーノは仕留めたみたいね」


 ジョアナとメロちゃんも、遅れて小屋から出てきた。

 転がってる惨殺死体、メロちゃん見ないようにしてる。

 頭が破裂してひどい有様だもんね、かなりグロい。

 私はもう馴れたけど。


「そっちは大丈夫だった?」


「問題なし。小屋に一人潜んでたけど、私が殺しといたから」


「あ、あの、すごかったです、勇者のお姉さん……」


 青ざめてるよ、メロちゃん。

 ホントごめんね、危険なことに巻き込んじゃって。


「……っ」


 ベアトの治療、終わったみたい。

 痛みもすっかり引いて、体力も全快。

 で、それとは別にたった今、体がすごい軽くなった。

 多分アイツが死んだんだろうな。

 その分パワーアップしたのか、私。


「……!」


 ベアトが荷物からタオルを引っ張り出して、あと竹水筒も取り出した。

 まさか今から体を拭くつもりか。


「血はあとで、自分でぬぐうから。ほら、こんなとこじゃ服脱げないでしょ」


「……」


 そんな落ち込まないでよ。

 私なんかの世話、なんでこんなに一生懸命やいてくれるんだろ、この子。


「いやー、それにしてもキリエちゃんのあんな顔、お姉さん初めて見たわ」


 あん?

 何を言い出す気だ、このジョアナ野郎。


「ベアトちゃんがさらわれた時、オーガみたいな顔で怒ってたわよね。その後も冷静さを完全に失ってて。よっぽどベアトちゃんが大事なのね」


「……っ!?」


 ちょ、待って、待って。

 違うから、ベアトもそんなキラキラ目を輝かせて私を見ないでよ。


「ベアトちゃんへの独占欲と執着心、依存心、その他もろもろがごちゃ混ぜになったあの叫び。あんなに感情的なキリエちゃん、私初めて見たもの」


「勇者のお姉さん、ベアトお姉さんが大好きなんですね。バッチリしっかり伝わってきましたです」


「……っ」


 なんでベアト、頬赤くしてるのさ。

 なんで私と目が合ったとたんに、伏し目がちに目ぇ逸らすのさ。


「……はぁ、日が暮れる前に街道まで戻るよ」


 バカばっか言って、付き合ってらんないっての。


「……っ♪」


 私の腕に、嬉しそうに抱き付いてくるベアト。

 ……まあいっか。

 この子が無事で、笑っていてくれれば、それで。


「あれ、お姉さん今、少し笑いました?」


「……!!!??」


「キリエちゃんが笑った!? それは大事件よ、どれどれ」


「違うから。笑ってないから。離れて」


 やめろ、回り込むな。

 私の顔を覗きこむな。


「うーん、いつも通りの苦虫噛みつぶしたみたいな顔ね。気のせいじゃない?」


「……?」


「気のせいだよ、気のせい」


「うーん、やっぱり見間違いですかね」


 そうだよメロちゃん、単なる見間違い。

 私は誰とも、特別な関係にはならないんだ。

 失った時、辛いから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ