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280 一時撤退




 巫女様とノプトが、見えない火花をバチバチに散らしてる。

 深い事情がわからない私は置いてけぼりを食らってるけど。

 魚人であるラマンさんも何がなんだかわかってない感じ。

 ていうかあの人、私が飛び込んだ時からずっと、ただただ腰を抜かしてあわあわしてるだけだし。


「ノプト、つまりは作戦失敗なの……?」


「えぇ、残念ながらその通りよ」


「なーるほど。となれば、一時撤退しかなさそうだね」


 最後に聞こえた声に、私の心臓がドクンと跳ねる。

 とっさに入り口を見れば、人を一人肩にかついだ黄色い髪の見慣れた女の子がゆっくりと歩いてきていた。


「セリア様……。さすがなの、もう片付いたのね……」


「まあね。決して弱くはなかったけど」


 かつがれているのは紛れもなくイーリア。

 ぐったりしたままピクリとも動かない。


「クイナ……、まさかイーリアを……っ!」


「心配しなさんな。命までは取ってないから」


 ドサリと無造作に床に転がされて、イーリアの体があおむけになる。

 体中浅い傷だらけ。

 けれど確かに、致命傷になるようなケガは負わされていない。

 これ、あの子が手加減したってことなの……?


「それと、アタシはセリア。もう間違えないように」


 最後にチラリと私に視線を送ると、セリアはノプトの方へと歩いていった。

 で、当のノプトはメガネの奥から殺意をこめた視線をセリアにむけている。

 不信感を隠そうともしてないな……。


「……セリア。その女を殺さなかった納得のいく理由、あとで説明してくれるんでしょうね」


「もちろん。で、どうする? さっきも言ったと思うけど、アタシは一時撤退を勧めるよ」


「セリア様が言うなら、私も賛成なの……」


 トゥーリアもすでにノプトの側。

 アイツら逃げる気満々って感じだ。

 そんな三人に対して、巫女様はまったく怖がるそぶりを見せない。

 気丈にふるまって、凛とした声で問い詰める。


「待ちなさい! 悪しき者よ、あなたたちは一体――」


「そんなもの、そこにいる勇者がよく知ってるわ。どこかの女騎士がペラペラ喋ったおかげでね」


 それはその通り。

 にしても巫女様、肝がすわってるな。

 ラマンさんなんてガタガタ震えてるのに。


「勇者キリエ、また会いましょう。近いうちに、あなたの命も宝珠ももらいにくるわ。今度こそ、ね」


「盗れるもんなら盗ってみろよ。どっちも絶対渡さない」


「……ふん、行くわよ」


 最後に挑戦的な目をむけたあと、ノプトは残り二人を連れて姿を消した。

 【遠隔】のギフトでどこかに飛んでいったのか。


「……っ!」


 敵がいなくなったとたん、ベアトが私を離れて駆け出そうとする。

 行き先は……、倒れてるトーカの方向?


「ダメっ!」


 この子がなにをしようとしてるのかすぐにわかった。

 慌てて手首をつかんで止めると、ベアトはハッとした表情に。


「……忘れないでね。治癒魔法、絶対に使っちゃダメだから」


「……。……っ」


 とっさに助けようとしちゃったんだろうな。

 いつもそうしてるから、それが当然だって。

 でも、ベアトの命に関わることだから、私は止めるよ。

 それでどんなにベアトが辛そうなカオしても、その顔を見て、今みたいに私の胸が痛んでも。



 〇〇〇



 イーリアはもちろん、トーカもそれほど大きなケガは負っていなかった。

 たくわえられてた魚人印の回復薬で、二人ともすっかり全快。

 ただ、手も足も出なかったっていう心のショックは回復薬でも癒せない。

 兄弟子たちが殺されてしまったラマンさんの悲しみも。


 洞窟の外に転がっていた、門番さんたちの首を無くした死体を弔ったあと、私たちは話し合いのために客室へとやってきた。

 巫女様が私に聞きたいこと、いっぱいあるみたいだし、私たちだって聞きたいことがあるもんね。


「……まずキリエ様。彼女たちについて知っていることを教えてくださいますか?」


「うん、もちろん。ラマンさんとイーリアも初耳だろうけど――」


 私だって、ヤツらについて知ってることなんてごくわずか。

 それでも知る限り、教えられる範囲での情報を伝えた。

 これまでの戦いで知ったエンピレオに関する事実や、エンピレオを狂信するイカレた組織、『獅子神忠ピレア・フィデーリス』の存在を。


「……なるほど。全てに合点がてんがいきました」


 こんなとんでもない話、信じてくれないかなとか思ってたのに、巫女様あっさり納得してくれたな。

 さっき『星の記憶』の名前を口にしてたし、もしかしてこの人、エンピレオの真実を知ってたんじゃ……。


「それとさ、あのメガネをかけた魔族の女。アイツの勇贈玉ギフトスフィアについて、知ってること話すよ」


 フィクサー時代にパラディから行方不明になった勇贈玉ギフトスフィア、数があまりに多すぎて、大司教のベルナさんすら把握できていない。

 その中で確実に悪用されてると断言できる、ベルナさんに能力を教えてもらった要注意ギフトが二つある。

 それが【地皇ジコウ】と【遠隔】。

 【地皇ジコウ】の方は、地面に関することなら魔力の許す範囲で何でもできるっていうデタラメな能力。

 でも【遠隔】なら、数多くの制限が存在する。


「さっき見た通り、アレは瞬間移動の能力。でも、条件はかなり厳しいんだ」


 まず、目に見えている範囲なら自由に瞬間移動が可能。

 目視できない遠距離に飛ぶ場合、味方として登録されてる人物のそばにしか飛べない。

 そして味方登録をする場合、相手と自分、双方の合意が必要なんだ。


「なるほどな。だから最初にトゥーリアが単独で潜入して、ワープポイントになったってわけか」


「そう。で、もう一つ。奴らが遠く離れたデルティラード付近から、ここまで来られた理由」


 もしかしたら、トーカの魔導機竜ガーゴイルみたいに高速移動できる何かに乗ってきたのかもしれない。

 けど、もう一つの可能性の方が高いと思う。


「おそらく魚人の中に、『獅子神忠ピレア・フィデーリス』の(メンバー)がいる」


「ちょっと待て、まさかランゴをさらったのも――」


「そうだよラマンさん、その可能性はすごく高い。だから巫女様、魚人だからって無条件に信用しない方がいいです」


「……ええ。心にめておきます」


 少し沈んだ表情で、巫女様がうなずいた。

 同族の中に裏切り者がいるなんて、信じたくないだろうな。

 でも、まだ話は終わっていない。

 これから巫女様には、いっぱい話してもらわなきゃ。


「今度は私から、話を聞かせてください。『海神わだつみの宝珠』ってどんなものなんですか? 『星の記憶』と何か関係が……?」


「そう、ですね……。あなたはもうすでに、深いところまで立ち入っている。話してもいいでしょう。『海神わだつみの宝珠』、その正体について」




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― 新着の感想 ―
[良い点] 『海神の宝珠』こそ奪われませんでしたが、こっちは死者二名、トーカとイーリアが自信喪失、結局相手はトゥーリアを軽くしばいた位で無傷と、勝ちとはとても言えない結末ですね…。 果たして、明かされ…
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