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278 真の狙いは




 ありったけの魔力を地面に送り込む。

 これで辺り一面マグマの海になって、敵は焼け死ぬか飛び出してくるはずだ。

 飛び出して……。


「……あ、れ?」


 地面が、沸騰しない。

 私の魔力が地面に流れていかない。


「ど、どうしたんですか勇者殿!」


「……はい、残念。時間切れなの♪」


 トゥーリアの声に続いて、地面から大量の土分身が湧き始めた。


「あはっ♪」


「どうしたの~?」


「もっともぉっと、私たちと遊ぶのー♪」


 ダメだ、ゴミ虫どもがヘラヘラ笑いながら地面から這い出てきやがった。

 なんで沸騰が通らなかったんだ。

 まるで土分身の時みたいに、私の魔力がかき消されて……。


「……っ、まさか……!」


 まさか私たちの足元にあるこの土。

 これは……。


「この広間にある土……。これ全部、アイツの魔力で作った土だってのか……?」


「そ、そんなことが……!?」


 どうやったのか知らないけど、トゥーリアは【地皇ジコウ】で自然の土とヤツ製の土を入れ替えた。

 土分身はいちいち手動で作ってるんじゃなくて、この土から自動で湧くように設定されているんだ。

 そう考えれば異常な発生速度も、あちこちから沸いて出てくるのも、全てのつじつまが合う。


「でも、どうしてわざわざ自動で湧くように設定を……」


 私にマグマを武器として与えないためだけなら、分身まで出す意味はないよね。

 そもそもトゥーリアのヤツ、さっきから全然本気を出してないし。


 ……まさか私、思い違いをしてた?

 敵の第一目的は私を殺すことだって、ずっと思ってた。

 けど、私の命よりも優先すべき目的があるとしたら――?


「はい、キミは答えにたどり着いたみたいだね」


 口を開いたのはセリア。

 ずっと戦いに参加せず、遠くから様子を見ていたあの子が、私の考えを肯定した。


 つまりこの襲撃における奴らのメインターゲットは、『海神わだつみの宝珠』。

 自動で分身を沸く設定にしたのは、トゥーリアがここにいると錯覚させるため。

 セリアが戦わないのも、時間稼ぎの一環だ。

 本体のトゥーリアはもうとっくに、宝珠が納められている場所にむかっていて――。


 そして今、ベアトはあそこにいる。


「……くそ! 練氣レンキ月影脚ゲツエイキャク!」


 急がなきゃ、みんなが……ベアトが危ない!

 足に練氣レンキをまとって、スピードとジャンプ力を大幅にアップ。

 大急ぎでやしろにむかうため、邪魔なトゥーリアの群れを飛び越えようとする。

 けど、当然敵も妨害してくるわけで。


「どこ行くの?」


「行っちゃダメなの」


「もっともーっと、私たちと遊ぶのー♪」


 飛び上がってきたトゥーリアの群れに、空中で包囲されてしまった。

 けどな、その程度で私を止められると思うなよ。


「ど……っけええええええぇぇぇぇ!!!!!」


 【水神】の魔力を発動して、


「『水龍』! こいつら全て呑み込んでやれ!!」


 周囲の敵を巨大な水の龍でなぎ払い、飲み込み、弾き飛ばしてカベに叩きつけてやった。

 それでも、次から次へとトゥーリアたちは追いすがってくる。

 もう少しでやしろの前に着地できるってのに……。


「勇者殿!!」


 その時、飛びこんできたシルエットが目にも止まらない剣閃を放って、奴らを粉々に斬り刻んだ。

 おかげで私は無事にやしろの前へと着地。


「イーリア、助かった!」


 道を開いてくれたのは、奥義を発動中のイーリアだ。

 まさかアイツに助けられる日が来るなんて。


「ついでにこの場をまかせちゃうけどいいよね! じゃあ任せた!」


「まだ返事していませんが!? ですがそのつもりです、早く行ってください!」


 ありがとう、と心の中だけで礼を言っておく。

 分身はともかくセリアの相手なんてキツいだろうけど。

 セリアを放って行くのも嫌だけど。

 やっぱり私はベアトが一番大事なんだ。


 入り口に着地したイーリアが敵を食い止めてくれてる間に、私はやしろの奥へと急ぐ。

 みんなを――、ううん、ベアトを助けるために。



 〇〇〇



 宝珠がある広間に避難して、しばらくのことです。

 木で出来たカベの一部がとつぜん弾け飛んで、


「……ふぅ、気づかれずに到着なの」


「……っ!!」


 見覚えのある女の人が、むき出しになった土の中から飛び出してきたんです。

 クイナさんを連れていった、そしてさっき映像で見た、あの女騎士さんです。

 悪い人です。


「うおわっ、な、なんだぁ!?」


「侵入者ですか……! まさかここまで来るとは……」


「魔力感知されないように、少ない魔力で地中をゆっくりゆっくり。大変だったの……」


「て、てかお前……! キリエと戦ってるんじゃ……!」


 そうです。

 この人、巫女様が壁に映し出してくれた映像に今も映ってます。

 たくさん増えて、キリエさんとイーリアさんが戦ってるはずなのに……。


「んー? 私も勇者殺したかったの。けどね、最優先は――」


 悪い人が、ベールに包まれた祭壇を指さしました。


「『海神の宝珠(それ)』なの」


 そう口にした瞬間、巫女様が右手をふります。

 すると天井の一部がスライドして、黒い筒みたいなものが二つせり出してきました。

 その筒は激しい音を立てながら、魔力の弾を悪い人にむかって連射しはじめます。


「悪しき者よ、宝珠の力は誰の手にも渡ってはならない! 即刻この場を立ち去りなさい!」


 巫女様が操作しているんでしょうか。

 悪い人が横っ飛びでよけますが、あの人が動くたびに筒も動いて撃ち続けます。

 どうやら追尾してるみたいです。


「これこれ、これなの……。この技術をジョアナさんはご所望なの……。でも――」


 その時、何をしたのか私には見えませんでした。

 弾を避けながら手のひらを筒にむけて、何かを飛ばしたように見えた次の瞬間。


 ボンッ!!


 小さな爆発音を残して、筒が破壊されていたんです。


「ま、魔導小銃が……っ!」


「目的は、こんな石つぶてで壊れるようなオモチャじゃないの。もっともーっと凄いモノの作り方、ソレに入っているんでしょ……?」


「くそ……っ! バスターガントレット!」


 壊されたカベの土から砂鉄が飛び出して、トーカさんの両腕にまとわりつきます。

 あっという間に生み出された、黒い鉄製の巨大な小手。

 そのひじから火を噴いて、トーカさんが悪い人に挑みかかりました。


「アタシが相手だッ!」


「ジャマ」


 バキッ!


 ですが、一撃でした。

 見向きもしないままの無造作な裏拳。

 トーカさんはふっ飛ばされてカベに叩きつけられ、意識を失います。


「……っ!!!」


「ひ、ひぃぃっ!!」


 ラマンさんが腰を抜かしました。

 私も怖いです。

 キリエさん、あの人がここにいてくれたら。


 すがる思いで戦場のビジョンに目を移します。

 映し出されているのは、たくさんの悪い人を相手に戦うイーリアさん。

 そう、イーリアさんだけでした。


「……さて、と」


 悪い人は、続いて私の方に目をむけました。

 その目には明らかに殺意がこもっていて。

 体がビクっと跳ねて、恐怖で足が震えます。


「アナタ、勇者キリエの大事な人だって聞いたの。ジョアナさんなんにも言ってなかったけど、アナタを殺せばきっと、勇者の心はガタガタになると思うの」


 一瞬で私の前までやってきて、右手を私にむけました。


「だからぁ♪ 宝珠のついでにぃ、あなたのことを


 バギャッ!!!!!!


 言い終わる前に、にぶい音が耳に届きます。


「……アンタ、誰に断ってベアトに手ぇ出そうとしてんのさ」


 さっきのトーカさんみたいに、ものすごい勢いでふっ飛ばされる悪い人。

 カベに叩きつけられると同時、私の大事な人が、私の前に降り立ちました。

 グーパンを握りしめながら。




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― 新着の感想 ―
[一言] ベアト殺したら心折れるどころか、逆にあらゆる犠牲を目に止めず関係者全員鏖にする殺戮者になりそうなんだよなぁ……
[良い点] あーあ…はい、トゥーリア死亡確認。もう何を喋ろうがここから本気を出そうが、動く死人確定です。出来るだけ派手に悲鳴あげて経験値になるのが、君の残された仕事だよ!(ニッコリ) せっかく心くすぐ…
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