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277 あの時とは違う




「殺しちゃうの……」


「手足をバラバラに引きちぎって……」


「おめめをほじくり出して……」


「「「「「セリア様にささげちゃうのっ。あはははは♪っ」」」」」


 大量のトゥーリアが、バカ笑いしながら目ん玉かっぴらいて一斉に襲いかかってくる。

 正直なところものすごく気味が悪い。


「あははははは――」


 ズバァッ!


「はひゅっ」


「誰を殺すって?」


 先頭に立った一匹の胴体を、思いっきり叩き斬って土くれに変えてやった。

 こんだけいるんだし、匹で数えてもいいよね。


「分身……。勇者殿、思い出しますね」


「……え? なにが?」


 私の背中側をカバーして押し寄せるトゥーリアを次々に斬り伏せながら、イーリアがつぶやいた。

 何のことだかわかんなくって聞き返したけど、前になんかあったっけ。


「お忘れですか? ベル殿を斬った、あの魔族のことです」


 ……あぁ、【魔剣】のアイツか。

 たしかにアイツも増えてたな。

 瞬殺だったし、あのあとジョアナとのアレがあったから私の中で印象薄かった。


「あの時わたしはなにもできなかった。守ると誓ったベル殿を傷つけた仇を前になにも出来ず、ただあなたの背中を見ていることしかできなかった」


 でも、コイツにとっては違ったみたいだ。

 大量のトゥーリアを背中合わせで斬り続けながら、イーリアは話し続ける。


「やり場のない憎しみと怒りの中、自分がこれまでいかに愚かだったかを思い知らされました。ですが、わたしはやはり――」


「……話ならさ、コレが片付いたあとで聞いてあげるから。そもそも喋ってる余裕あるの?」


「ふふっ、手厳しい。では、共に生き延びましょう。続きはその時改めて」


 ニヤリと笑いつつ、土分身を三体まとめて粉みじんに。

 あんなこと言いながら、しっかり余裕あんのな。

 なんとなく腹立つけど、ま、いいか。

 ……さて、さっきからずっと斬り続けてるトゥーリアの分身の方だけど、


「あははっ♪」


「ほらほらこっちなのっ!」


「おーにさんこーちらっ♪」


 少し困ったことになっている。

 斬っても斬っても地面から生えてきて、いっこうに減らないんだ。

 あと言動が腹立つ。

 さてこの状況、一番の問題は――。


「……ねえ、イーリア。私たち、ちょっとまずいのわかってる?」


「ええ、もちろん。数が減らない以上、こちらの体力が続くかどうか――」


「そこじゃない」


「……と、言いますと?」


 ……うん、多少は強くなったみたいだけど、やっぱコイツ青二才だ。

 実戦の経験値が足りてないよ。


「一番の問題は数でもスタミナでもない。本体がどこにいるのかさっぱりわからないことなんだ」


 分身だけで私たちを倒せるとは、たぶん敵も思っていない。

 こいつらに相手をさせてる間に、スキを突いて本体が攻撃する。

 きっとそれが敵の狙いだ。


「今も本体はどこかからスキをうかがってる。なんにしてもまず、本体を見つけなきゃ――」


「なるほど、敵の位置がわかればいいのですね」


「うん。……うん?」


 たしかにそういう話なんだけど、どうしてお前は自信満々に言うんだ。

 次から次へと敵が襲いかかってきて、口以外余計な動きをしてる余裕もないってのに。


 二匹がかりでの左右からの斬撃を、身をしずめて回避。

 そのまま一回転して斬り払いながら、後ろで戦っているイーリアを一瞬だけ視界に入れる。

 なんかアイツ、斬り結びながら全身に練氣レンキをまとい始めてるんだけど……?


「奥義・魂豪身コンゴウシン!」


 奥義を発動したイーリアの全身を、発光する練氣レンキが包む。


「アンタ、いったい何するつもり?」


 姿勢を起こして足に練氣レンキをため、辺りの分身を回し蹴りで蹴り倒しながら、急いで質問。

 なんかコイツ、とんでもないことしようとしてないか?


「簡単なことです。探すための時間を作るので、勇者殿が本体を見つけてください」


「時間を作るって……」


「いきますよ!」


 その説明、不足してる部分が山ほどあるっての。

 五人同時に振り下ろしてきた剣を受け止めつつ、もう一度イーリアにふり返る。

 そしたらアイツ、一瞬で極太の練氣レンキの刃を剣にまとわせて、横向きに振りかぶった。


「ヤバ……っ!」


 なにをやる気か理解した瞬間、私は力まかせに分身たちの剣を押し返して、その場にかがみこんだ。

 そんなことしたら、当然無防備になった私に攻撃が殺到するわけだけど、


練氣レンキ豪破削断刃ゴウハサクダンジン!!」


 ブオオオオォォォォンッ!!!


 ぶっとい光の刃が頭の上スレスレを通過して、そいつらもろとも全てをなぎ払う。

 イーリアの立ち位置からやしろに届かないギリギリの長さまで伸ばした刃を、横向きに一回転しながら振るったんだ。

 全ての分身たちがその範囲にいたせいで、奴らは一瞬で全滅。


「今です、勇者殿!」


「もう少しわかりやすく言えっての!!」


 私が巻き込まれたらどうするつもりだったんだ。

 避けるって信じてたんだろうけども。

 でも、これでまた分身が発生するまでの間に本体を探せる。

 そして、居場所の目星もついている。


 おそらく地中だ。

 分身たちは地面から沸いてきてる。

 アイツが地面に潜れることも知っている。

 だからこうして――。


「煮えたぎれっ!!」


 地面に手をついて、【沸騰】の魔力をそそぎこんだ。

 広範囲を一気にマグマの海にして、地中からあぶり出してやる!




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― 新着の感想 ―
[良い点] 良かった、イーリアがすっかり精神的に成熟して頼りになる女の子になって嬉しいやらびっくりするやらでしたが…ちゃんと抜けてる(喜ぶところじゃないのにニッコリ)。 確かに大量に展開して数で押して…
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