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273 目を覚ましたら




 夢を見た。

 暗くてあたたかい水の中に、丸まって浮かんでいる夢。

 不思議と不安を感じたりはしなかった。

 それどころか、どこか懐かしいような安心感すら覚える。

 そのうち、大きくて優しい手が私を包みこみ、水の中から引き上げて……。



「……ん」


 目を覚ました時、いつものようにとなりにベアトがいた。

 いっしょのベッドに寝転んで、おだやかに笑いながら私を抱きしめて頭をなでている。

 この子と出会ってから何度も繰り返されてきた、当たり前の光景……じゃない!


 ベアトが意識を回復して、なぜか私のとなりで寝てる。

 ぜんっぜん当たり前の光景じゃないって。

 ぼんやりしてた頭が、そりゃもう一気に目を覚ました。


「ベアト……! もう大丈夫なの……!?」


 思わずベッドから体を起こして問いかける。

 ベアトもつられて起き上がるけど、まだ寝ててほしい。


「……っ」


 こくりとうなずいたベアトの顔色、倒れる前よりもずっといい。

 それこそソーマにさらわれる前、人造エンピレオに取り込まれる前の比較的元気だったころみたいに。


「治療、成功したんだ……。よかった、本当に、よかった……」


「……っ」


 にっこり笑いながら、私の頭をなでなでするベアト。

 安心感とか嬉しさとか、いろんな気持ちがぐちゃぐちゃになって、私はベアトの体をそっと抱きしめた。


「……っ!!」


 あったかい、やわらかい。

 ドキドキと脈打つ鼓動を感じる。

 全部、この子が生きている証だ。

 おかえり、ベアト。

 無事でいてくれてありがとう。



 〇〇〇



 私たちが今いるのは、やしろの最深部にある巫女様の部屋。

 応接室と同じくカベと床は木の板で、広さはあの部屋の軽く十倍以上。

 つまりものすごく広い。

 奥の方には薄いベールで囲まれた台座があって、その中に小さなほこらみたいなモノの影が見えた。


 聞くところによると、どうやら私、夜まで眠っていたらしい。

 トーカも同じく寝ていたようで、スッキリした顔してる。

 体力と魔力、たっぷり眠ってしっかり回復させたそうだ。


「いやー、しっかしさすが巫女様! 見事な手際でしたよ!」


「ラマンのサポートも的確でした。私が見込んだだけのことはありますね」


「いやー、そんなぁ」


 ラマンさん、デレデレだな……。

 ともかく治療はめでたく成功。

 これでベアトはひとまず安心だ。


「本当にありがとうございます……! 治療費とかお礼とか、絶対用意するので……!」


「結構ですよ。対価を求めての行いではありませんから。……ですが、注意してもらいたいことが一つ」


 注意しなきゃいけないこと……?

 ものすごく真剣な様子の巫女様に、体に緊張が走った。

 もしかして、何かまずいことでも……?


「ベアト様には今後一切、魔力の使用を禁じます」


「……っ!?」


 ベアト、びっくりしてる。

 私としては、これまでベアトが魔力を使うたびに衰弱していったから、納得も納得なんだけど。


「ベアト様の体は、外部からの巨大な魔力によって自身の魔力がかき乱され、生命力の流れにまで異常が出ていた状態でした」


 そこまでは、ここに来た時に聞いた説明だ。

 あの時意識のなかったベアトにとっては初耳だけど。 


「今回施した治療は、その魔力の流入を可能な限り抑える処置です。いわば、川にせきを築いて流れを押しとどめるようなもの。もし万が一、ベアト様が多大な魔力を使用したならば……」


 いったん区切ってから、巫女様ははっきりと告げた。

 絶対に魔力を使うなと、強い口調で。


「せき止めていた魔力が決壊し、一気に流れ込みます。命の灯火を消すには十分すぎるほどの」


「……っ!!」


「つまり……、強力な治癒魔法を使ったらベアトは死ぬ……?」


「そういうことです」


 肯定。

 でも、難しい話じゃない。

 治癒魔法さえ使わなければいいだけの話だ。

 それだけの簡単な話……のはずなんだけど。


「……っ」


 困った人を見ると放っておけないこの子が、ガマンできるかどうか。

 ベアトには他人の命より、自分の命を優先してほしいのに。

 私がしっかり見張って、絶対に使わせないようにしなくちゃ。


「もちろん、根源さえ断てばその限りではありませんが……」


「わかってる。その根源、見つけだして必ず叩き潰すつもりだから」



 ●●●



 はるか地底に築かれた狂信者たちの巣穴、その一室。

 ノプト、トゥーリア、そしてセリア。

 呼びつけた三人の前に、ジョアナは神託者のローブを身に着けて姿を現した。


「はいはーい、お待たせ~。神託者ジュダス、このたび神からのお告げをお持ちしましたー。パチパチパチ~」


「お姉さま、お告げとは……?」


「神託者は勇者の生存を知ることができる。これはご存じでしょう?」


「知ってるの……。カミサマからのお告げで教えてもらえるの……」


 トゥーリアの回答を受け、満足げにうなずく。


「そう。あの子って勇者(ご飯係)とつながってるものね、ご飯供給システムで。クスクスっ」


 そして、勇者という存在そのものを小馬鹿にしたようにおどけて見せるジョアナ。

 自らの発言にセリアの眉がピクリと動いた瞬間を目にして、彼女は口元をわずかに歪めた。


「うふふっ、今の私の本体・・はあの子と直接つながっているでしょ? だからこの機能もパワーアップしててね。わかっちゃうのよ、キリエちゃんの細かな居場所がハッキリと、ね」


「……で、どうするつもり?」


「もちろん。孤立したところを叩くのは作戦の初歩でしょう? 大規模行動を起こす前に、最大の邪魔者にはご退場願いましょう。都合のいいことに、今のあの子はお仲間たちと離れて魚人の国に行ってるわ」


「魚人の国……。もしかして、『海神わだつみの宝珠』もあわよくば……って考えてる?」


「ご名答。さすがは騎士勇者サマ。アレを手に出来れば、私たちの技術はより完全なものになるものね」




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― 新着の感想 ―
[良い点] ベアト復活は文句なしにめでたい!…んですが、回復禁止かあ…。正直、今後襲ってくる連中を思うと回復役が減るのは厳しいですね。 しかも、とことんキリエ達に都合の悪いことが重なるもの…もうあんた…
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