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268 立ち入り禁止




 魚人の国の大体の場所はラマンさんから聞いている。

 パラディとコルキューテを結ぶ街道の分かれ道、西の辺境へと続く道をまっすぐ進んで、他国との国交を断絶しているさまざまな亜人の国をこえた先。

 西の果ての海岸線に面した、とある入江にあるらしい。

 詳しい場所は教えられないらしかったけど、空からだったら見つけ出すのは簡単だよね。


「トーカ、それらしい街はみつかった?」


「おう、見てみろアレ」


 操縦席に行って聞いてみると、トーカは進行方向に見える入江を指さした。

 二本の弧を描いた岬が外海にむかって突き出して、まるで三日月みたいな形になっている。

 その二つの岬のちょうど真ん中、入江に面した陸地に、岩をくり抜いて作られたような建物がならぶ街並が見えた。


「ラマンさんから聞いてた特徴といっしょだろ?」


「うん、間違いない。きっとアレが魚人の国だよ」


 本当なら、王都からここまで軽く一か月以上はかかるんだろう。

 そんなトコまで本当に一晩で来られちゃうなんて、いまだにちょっと信じられない。

 改めてすごいな、この新型魔導機竜(ガーゴイル)


「おっし、いい感じの場所見つけて着陸するか。少し揺れるかもしんないから、お姫様についててやんな」


「お姫様じゃないよ、ベアトは。パラディの聖女の妹だし、たしかにお姫様みたいなもんだけど」


「……いや、そういう意味じゃない。そういう意味じゃないんだが……、まあいいか」


 なんか今、めんどくさくならなかった?



 客席にもどって、着陸の衝撃で転がらないようにベアトに覆いかぶさる。

 もちろん苦しくないように、かるーくおさえるくらいで。

 ……この子の意識、まだ戻らないままだ。

 このままずっと目が覚めなかったら、なんて嫌な想像が一瞬だけよぎって、すぐに振り払った。


 魔導機竜ガーゴイルがゆっくりと旋回しながら減速して、高度を下げていく。

 着陸できる場所をみつけたみたいだ。

 機体がナナメになってるのか、マドから森や海面が見える。

 地面スレスレまで高度を下げ、スラスターの炎を逆噴射して空中にホバリング。


 それから、折りたたんでた足を展開したのかな。

 垂直に降下して、とうとう着陸した。


「おっけー、無事に着陸。どうだ、アタシの操縦技術は!」


「……うん、すごいと思う」


「だろ? もっと褒めてもいいんだぞ!」


 操縦席から客席までやってきて、鼻高々なトーカ。

 なんかテンションおかしくないか……?

 夜通しガーゴイルを操縦してたし、集中力も魔力も限界まで使ってたんだろうから、無理ないか。


 荷物をまとめて、マットとシーツを丸めて背負って、それからベアトをお姫様だっこで抱え上げる。


「準備できたよー」


「よーし、ドアを開けるぞ!」


 トーカが魔力を操作して、客席と操縦席の間にあるトビラがオープン。

 地面までは私の身長くらい。

 どうってことない高さだし軽く飛び降りる。

 もちろんベアトに負担がかからないように、ひざを曲げてクッションにしつつ。


「……っと」


 降り立ったのは小高い丘の上。

 昇りきった朝日に背中を照らされながら、少しずつ明るくなっていく大海原が一望できた。

 そして、海に面した魚人の街も。


 ……それにしても、海風がキツイな。

 さっさと街まで行かないと、ベアトの体が冷えちゃう。


「トーカ、早く降りてきなよ」


 のんびりしてられないってのに、トーカはちっとも降りてこない。

 しびれを切らして、機内へ呼びかけてみる。

 ところが返事はナシ。


「……トーカ?」


 背伸びして中をのぞくと、なんとトーカは大の字で倒れたまま寝息を立てていた。

 魔導機竜ガーゴイルは着陸したまま、ハッチも開いたまま。

 魔力コントロールを手放す余裕もないまま力尽きたのか……。


「……ま、いいか。寝かせておいてあげよう」


 それに私はいつでもこの子が最優先。

 一刻も早く、ベアトを誰かに診てもらわなきゃ。

 悪いけど放置させてもらって、丘の下にある、街へと続く両脇をガケに挟まれた道を進み始めた。



 〇〇〇



「ならぬ、帰れ!」


 街の入り口までやってきた私を出迎えたのは、これ以上ないほど強い拒絶。


「神聖なるルイ・ウの街を、汚れた他国の者に踏み荒らされるわけにはいかぬ!」


「他国の血は汚れた血! 一歩たりとも立ち入らせぬぞ!」


 ギリウスさんよりもおっきい、筋肉ムキムキの魚人の門番が二人。

 それぞれに持った三つ又の槍で行く手をふさぎながら、私を門前払いしようとする。

 当たり前だよね、もう二千年近く他種族との交流を断ってる国なんだ。

 でも、私としてもこのまま引き下がるわけにはいかない。


「この子、危ない状態なんだ。お医者さんに診てもらうだけでも——」


「ならぬ!」


「だったら、ここにお医者さんを呼んで。国には入らないから、せめて——」


「ならぬと言ったらならぬ!!」


 ……どうしよっか。

 わからず屋の門番を力ずくで黙らせるのは簡単だ。

 けど、そんなことしたら絶対にベアトを助けてもらえなくなる。


「じゃあラマンさんって人、知ってる?」


「ラマン……?」


「ラマンだと……? まさかアイツのことか……?」


 お、苦しまぎれに知り合いの名前を出したら、なんだかいい反応が。


「あの掟やぶりめ……! この人間に国の場所を教えたのか……!」


「魚人の身でありながら、掟に背いて他種族と交わろうとする愚か者が……!」


 ……と、思ったけど。

 どうやらラマンさん、あんまり評判よくないみたいだ。

 嫌われてるのかな。


「巫女様の弟子でなければ、この手で八つ裂きにしてやるものを……」


「肉片をばら撒いてサメのエサにしてやれぬのが口惜しい……!」


 嫌われてるどころか、殺意まで持たれてるし。

 どうしよう、このままじゃ……。


「……お?」


 その時、門番たちにふさがれた門の奥、道の先から見覚えのある魚人さんがひょっこりと顔を出した。


「ラマンさん?」


「おぉ、やっぱりお前らだったか!」


 私とベアトの顔を見て、ラマンさんが大きな体をゆらしながらのっしのっしとこっちに歩いてくる。

 心底うっとうしそうな表情の門番たちを押しのけ、私たちのすぐ目の前へ。


「やっぱり、って……私たちが来たことわかってたの?」


「それがだな——」


 そのまま世間話モードに入ろうとして、門番二人の刺すような視線に気づいたみたい。

 てか視線だけじゃなくて、持ってる槍で本当に刺してきそうな雰囲気だぞ。

 大丈夫なのか、これ……。


「こ、ここじゃなんだし、ちょっと遠くまで離れよう! ほら、散歩日和のいい天気だしな!」


「ちょ、ちょっと……!」


 ラマンさん、私の背中をグイグイ押して逃げるように街とは反対の方向へ。

 なんとか医者を呼んでもらえるように口利きしてもらいたかったのに。

 まあ、あの様子じゃそれも無理そうだし、予定通りにラマンさんと出会えただけよしとするか……。




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― 新着の感想 ―
[良い点] トーカさん、頑張りすぎですよ…恩人という関係ではありますが、ここまでキリエのために動いてくれる人がいるのはありがたいことですね。…うん、放置は仕方ないんや、何ができるじゃないし(苦笑) 漸…
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