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249 新しい大司教




「今回も空振りだったな、キリエ」


「はぁ……。いい線いってたと思ったんだけどね。湖になってた巨大クレーター」


 聖地ピレアポリスへと飛ぶ魔導機竜ガーゴイルの背中の上、私の口からふかーいため息がもれ出した。


 あの戦いから一か月、私はパラディ国内の大きなクレーターをつぶして回っていた。

 勇者としての本来の仕事、とかではなくて、ベアトのためにエンピレオを探すことを目的として。


「おっきくて澄んだ湖だったです……。水着持ってくればよかったですね」


「魔物がうじゃうじゃいる場所で泳ぐ気か、お前は」


「……っ、……っ!!」


 メロちゃん、それはムチャだと思うよ。

 トーカはもちろん、ベアトまで身振り手振りで危ないですよってアピールしてるし。


 ひときわ巨大な数キロのクレーターに、長年かけてたまった水や染み出た地下水で出来た湖。

 大きさからして期待大だったんだけどね。

 結局、湖の中心に沈んでいたのはただの大きな赤い岩だった。

 フィクサーのヤツは、たしか『獅子の分霊わけみたま』とか呼んでたっけ。


「これでパラディ領の、地図にも書いてあるようなおっきいクレーターは全部まわったわけだけど」


「見つかんないですねー」


「教団が長年探して見つかんないんだ。もしかしたら、普通の場所には無いのかもな」


「……普通の場所には無い、か」


 トーカの一言、なかなかいい線いってるかもしんない。

 たとえばクレーターが多い亜人領の、地図にものってない秘境とか。

 それかもう、いっそのこと海の底とか地の底とか?




 聖地の上空にさしかかると、なんだか街はお祝いムード。

 いっつもにぎわってるけど、今日は様子がちがって、祭りの後とでも言うのかな。

 三日前、ここを飛び立った時とは雰囲気が変わってる。


「なんだろ。なにかあったのかな」


「……、……っ!」


 ベアト、心当たりがあるみたいだ。

 羊皮紙を取り出して字を書こうとしたけど、風で紙が飛ばされて顔面にはりついた。

 手をバタバタさせてて、とってもかわいい。

 かわいいけどかわいそうだし、すぐに取ってあげた。


「飛んでる間は、紙出さないほうがいいよ……」


「……っ」


「ま、なにかあったんなら誰かに聞きゃわかるだろ。着陸するぞー」


 魔導機竜ガーゴイルは大聖堂の中庭上空へ。

 ゆっくり羽ばたきながら降りていって、トーカがメロちゃんを、私はベアトを抱えて飛び降りた。

 役目を終えたガーゴイルが砂鉄になって、中庭の土にかえっていく。


「勇者様、妹君様、お帰りをお待ちしておりました」


 中庭には三人の神官がいた。

 私たちが降りてきた時にはもう一列に並んでて、着地と同時に深く一礼をする。

 みんな『至高天の獅子』の首飾りを下げてるの、なんだかソーマを思い出しちゃうけど、この人たちはごく普通だよね。

 そろそろ慣れないと。


「大司教猊下(げいか)がお待ちです。こちらへどうぞ」


「大司教……?」


 嫌な記憶を引き出すワードだよ。

 今大司教とか聞いても、怪物になったあのオバサンしか思い出せないや。


「げーかってなんです?」


「宗教の偉い人を指す言葉だぞ。陛下とか閣下みたいな感じ」


 ……そうなんだ。

 トーカによるメロちゃんへのレクチャーをこっそり聞いて、私はまた一つ賢くなった。


「しっかし大司教か……。フィクサーなワケがないよね。新しく誰かに決まったの?」


「…………」


 神官さんたち、答えてくれないんだけど。

 無言でスタスタと大神殿の中に入っていっちゃった。


「なんと不愛想……」


「勇者サマに聖女の妹君だろ? 恐れ多くて言葉を返せないとかじゃないか?」


「必要最低限のこと以外話しちゃダメとか、そんな決まりがありそうな気配です」


 あー、そうか。

 普段意識なんてしないけど、私もこの子も大変なポジションだもんね。


 ちなみにベアトの肩書は、トーカの言う通り聖女の妹のまま。

 聖女は前と変わらずリーチェだ。

 そのリーチェだけど、ずっと自分の部屋でぼーっとしたままどこかを見つめてる。

 完全に心が壊れてしまったみたいに。

 聖女は象徴的な存在だから、あんな状態でもなんとか務まってる。


「ところでベアト、さっき何か書こうとしてたけど。もしかして新しい大司教が誕生したからそのお祝いをやっていた、って言いたかったのかな」


「……っ、……っ!」


 ベアトがにっこり笑顔を浮かべながら、何度もコクコクとうなずく。

 言いたかったコトが伝わって嬉しいんだろうな。

 それからいつものように羊皮紙を取り出して、その瞬間に突風が吹き抜けて。


「……っ」


 また、ベアトの顔にはりついた。



 〇〇〇



 神官さんたちに連れられて、大神殿の最上階、大司教の自室までやってきた私たち。

 まるで王様の部屋みたいな、とっても立派な両開きのトビラだ。


「勇者様方、どうぞ中へ。お供の方はここまでに」


「お供ってあたいらです? 門前払いなのです!?」


「ま、まあ仕方ないだろ。大司教じきじきの、大事な話だろうしな」


 不満タラタラのメロちゃんをたしなめるトーカ。

 さすがお姉さんだよね。

 サイズはメロちゃんと大して変わらないけど。


「し、仕方ないのです……、引き下がるとするですよ……」


「物分かりがよろしくて結構。じゃあな、お二人さん」


 二人がその場を立ち去ると、なんと勝手にトビラが開いて、私たちは中へと通される。

 大司教のお部屋は内装も、デルティラードの王の部屋とタメを張れる豪華さだった。

 こんなところで暮らしてたベアトって、改めて考えるとお姫様みたいなものなんだよね……。


「いらっしゃいましたね、キリエさん。お待ちしておりました」


 またまた勝手にトビラが閉まって、部屋の奥から現れたのは私たちがよーく知ってる人だった。

 ベアトの顔も、とたんにパーッと明るくなる。


「ベルナさん……?」


 そう、中にいたのはベルナさん。

 着ているものが豪華なローブに変わって、頭に冠とベールをつけているけど、紛れもなくベルナさんだ。


「新しい大司教って、もしかしてベルナさんなの?」


「ええ。僭越せんえつながら、私が選ばれました」


『すごいです、おかあさん!!』


 じつの母親の大出世に、ベアトも大喜びだ。

 大司教が選ばれるシステム、たしか十数人の司教が集まって合議するんだったか。

 一番ふさわしいのは誰かって。


 フィクサーが死んでヤツの息のかかったお偉いさんたちはどうしたかっていうと、ほんの一部がどこかへ逃亡、行方をくらました。

 そして残った大部分だけど、すっかり大人しくなっちゃって、事件を収めた立役者の一人であるベルナさんの肩を持つようになったみたい。

 ま、奴らも生き残るため、長いモノに巻かれろ思考なんだろうね。


「きっとキリエさんのおかげですね」


「わ、私はなんにもしてませんって……」


 私を怖がって、奴らはベルナさんを持ち上げるようになった、って言いたいんだろうけどさ。

 それ以前に、大司教の筆頭候補に名前が上がったのはベルナさん自身の力だよね。

 だからこれは、ベルナさんがすごいんだよ。


「ところでベルナさん、呼び出したのは大司教になったから?」


「それもありますが、あなた方に伝えておかなければならないことがあるのです。エンピレオを倒す、キリエさんはそう決意しているのですよね?」


「うん。ベアトのために、必ず殺すよ」


「なればこそ、あなたは知らなければならない。そして、私も伝えなければなりません。エンピレオという存在が、どういったものなのかを……」




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― 新着の感想 ―
[一言] 「勇者様方、どうぞ中へ。お供の方はここまでに」 勇者様方と言っているのにお供の方はここまでって、勇者様方の様方って、誰?
[良い点] パラノイアBBAと(元)腹黒性女サマが権力を握ってた状態の方が、考えてみればおかしかったんですよね。ベルナ大司教万歳!パラディも百合お母さんを頂点に生まれ変わることでしょう! と、ここで遂…
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