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242 バケモノ退治




「キ、キリエさん、この剣知ってるんスか……!? なんか突然出てきて……!」


 何がなんだかわからないって感じで、赤い剣を手に慌てふためくクイナさん。

 うん、私だってワケわかんないよ。

 ジョアナといっしょに地中深く沈んだはずの剣が、いきなり出てくるなんてさ。

 もしかしたらジョアナも自由の身に、なんて最悪の想像が頭をよぎるけど、考えるのは後回し。


「クイナさん、その剣貸して!」


「え……っ、わ、わかったッス……!」


 右手ににぎった【機兵】の剣で触手を弾きながら、クイナさんに左手をのばす。

 にぎり馴れた柄の感触が手に伝わった瞬間、


 ズバズバズバシュッ!!


 赤い剣閃をひるがえし、私の前にいた触手をまとめてブッた斬る。

 さっきまで刃が立たなかったのがウソみたい。

 まるで草でも刈るみたいに簡単に、何本もの触手が千切れ飛んだ。


『いたあ いた いたい』


 不気味な悲鳴が広間の方から聞こえる。

 今の斬撃、しっかり効いてるみたいだね。


(……やっぱり、本物だ。にぎり心地も何もかも同じ。トーカに作ってもらったヤツで間違いない)


 コイツなら、この剣ならあのバケモノ(フィクサー)をブチ殺せる。

 命の危機を感じ取ったのか、リーダーたちを襲っていた触手が大急ぎで引っ込んでいった。

 私に切断された触手たちは、切られたトカゲのしっぽみたいに床の上をうねうねと跳ねまわってる。

 ……正直、少し気持ち悪い。


「キリエちゃん、助かったぜ。……と言いたいとこだが、その剣はいったい——」


「お、お前、それってアタシが打ったヤツじゃないか!」


 リーダーの声をさえぎって、トーカがびっくり声を上げる。

 そうだね、コイツはトーカが打ってくれた剣だ。

 たっぷりの怒りとか恨みとか、そういう想いをこめて。


「ど、どうしてソイツがここに……」


「わかんない」


「いや、わかんないって……」


 ホントにわかんないし、仕方ないじゃん。

 いきなりクイナさんの手元に出てきたんだし。


「ま、まあとにかく、その剣があるならもう大丈夫だな」


 トーカの言葉に、私は力強くうなずいた。

 これさえあれば、あんなバケモノごときに負けるわけない。

 ……と、こんなやり取りをしている間に、


『ゆるさ ゆるさなな ない』


 不気味な声を上げて、バケモノが大量の触手を私たちにむけた。

 触手の先のエネルギーがみるみるうちに膨れ上がっていく。

 これ、まずいんじゃないか?

 たぶんあと数秒で、ディバイさんの結界をブチ破ったビームが来る。


「ディバイ、なんとか防げるか!?」


「ダメだ……。先ほどの結界も全力で張っていたのに、たやすく破られた……」


 つまり、防ぐ手段はもうないわけだ。

 この通路は崩壊寸前。

 さっきみたいな衝撃を受けたら、確実に全員生き埋めだ。

 だったら私が取るべき行動は……。


「お前ら、ここから逃げるぜ! トーカはベルナさんを連れていけ!」


 リーダーも同じことを考えて、私とは違う結論を出したみたい。

 崩れる前にみんなを連れて、このアジトから脱出するって結論を。

 さすがリーダー、ベストな判断だと私も思うよ。

 クイナさんたち戦えない人間が三人もいるし、敵には攻撃が通じないんだし。


「に、逃げ……っ!? バルジさん、ベアトは——」


「もちろん、私が助ける」


 トーカの疑問に答えながら、答えを待たずに走り出す。

 リーダーも、私ならそうするって思ってたみたい。


「コイツを持ってきな」


 すれ違う瞬間、私に薬の入った小袋を投げ渡してくれた。

 突入前に私が渡しておいたヤツだ。


「体力回復の方、使わなくてよ。まだ残ってんだ。俺らにはもう必要ねぇからな」


「ありがと、助かる」


 ベアトと私、どっちに使うにしろありがたいな。

 短くお礼を言って、さっとポケットに突っこむ。

 触手のチャージもそろそろ臨界寸前だ。


「ってなわけだ! お前ら、ずらかるぜ!」


 リーダーの指示を背に、私は広間へと駆け込む。

 リーダーたちは、私とは反対側の方向へ、通路の先へと走っていった。


「……っ、キリエ! 絶対にベアトを連れて帰ってこいよ!!」


 トーカの声を聞きながら、壊れたトビラの部分を越えて広間の中へ。

 その瞬間、大量の触手から破壊光線が発射された。

 ソーマの月光ビームにも匹敵するような極太の光線が、何本も。


 特に狙いはさだめてなかったのか、カベを、床を雑に削り散らして、通路が崩壊しながらガレキに埋もれていく。

 この空間もガレキがあちこち散らばって、もう崩落寸前って雰囲気だ。


 みんなは無事だよね。

 うん、リーダーの判断は早かった。

 無事に決まってるよ。

 今はそれよりも——。


「ベアト、もう少しだけ待っててね」


 人造エンピレオの花弁、顔だけ出して銀色の液体に埋もれたあの子に語りかける。

 ベアト、私の一番大切な人。

 あの子を助けるために、私はここまで来たんだ。

 なんとしてでもそこから引きはがしてあげるから。


『ぶれい かみ わたっ かみ なので』


「黙れバケモノ、カミサマ気取りもいい加減にしろ」


 耳ざわりな声出してんなよ、さっきから。

 アイツはカミサマなんかじゃない。

 ましてやフィクサーでもない。

 人造エンピレオとフィクサーの意思がぐちゃぐちゃに混じって、ひたすら暴走するただのバケモノだ。

 バケモノ退治なら、昔から勇者の仕事と決まってる。


「今すぐお前をブチ殺して、私の全て(ベアト)を取り戻す。覚悟しろ」


『ぶれ ふけい ころっ ます』


 金属質の触手が、私にむかって殺到する。

 さっきまでなら弾くしか手はなかったよ。

 けどね、今ならこの程度、


「殺してみろよ」


 糸くず程度にしか思えない。

 練氣レンキ鋭刃エイジンを発動し、切れ味を強化した刃で一閃。

 たったひと振りで、二十本近い触手をぶった斬ってやった。

 斬られた触手はすぐに再生していくけど、


『そのけん そのちから きけん きけ』


 バケモノの声に、ほんの少しの怯えを感じる。

 ヤツは触手をいっせいに引っ込めて、本体のまわりをアミみたいに囲んで守りを固めた。

 心臓みたいに脈動していた元フィクサーも、体の中にしみこんでいく。

 そしてヤツは、最悪の行動に出やがったんだ。


『かんぜん かんせ いそぐ いそっ』


 花弁に満ちる銀色の液体が、とつぜんに盛り上がる。

 そして、頭だけ出ていたベアトを全身丸ごと包みこんだ。


「ベアトッ!!」


 さっきまでのリーチェみたいに、ベアトは銀色の大きな丸い塊にしか見えなくなった。

 それだけじゃない、ベアトをつつんだ塊は花弁の中に少しずつ沈んでいく。


「お前……っ、ベアトになにすんだよッ!!」


 正直、ここまでの怒りを感じたのは久しぶりだ。

 怒りで目の前が真っ赤に染まって、もう何も考えられない。

 考えるより先に人造エンピレオに突っこんで、ヤツを守る大量の触手を一瞬で斬り刻む。

 そして、千切れた痛みにもだえる触手を足場にして、人造エンピレオの花弁に飛び乗った。


「ベアトっ!! 返せ、返せよっ……!」


 銀色の塊に手をのばすけど、沈んでいくのを止められない。

 とうとう完全に花弁に飲み込まれ、ベアト入りの塊はクキを膨らませながらどんどん根っこの方へ動いていく。


「この……っ、返せって言ってんだろ!!」


 怒りにまかせて、足元の花弁を斬りつけた。

 まるで血みたいに、銀色の液体が切り口から噴き出す。


 このあとの行動なんだけど、もしも沈んでいったのが他の誰かなら、私はもっと冷静だったと思う。

 考えなしに追いかけずに、いろんな可能性を探っただろうな。

 だけど、ベアトだよ?

 冷静でいられるわけないじゃん。


 だから私はまよわず飛びこんだんだ。

 自分で斬りつけた傷口からバケモノの体の中に、ベアトを追いかけて。




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― 新着の感想 ―
[良い点] そもそものエンピレオが実態は邪悪な欠食児童なのに、それと権力に狂ったおばさんの悪夢のコラボレーションですからね…割となろう史上に残るレベルの醜悪なバケモノといって良いかと。 遂に愛剣(材質…
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