24 襲撃
突然襲いかかってきた三人の男たち。
どいつも軽装、全身真っ黒でナイフを持ってる。
何者なのかはさっぱりだけど、私を殺そうとしてるのは確かだ。
だったら、容赦はいらないよね。
「死ねぇェェッ!! 勇者アアァァァッ!!」
はい、先頭の男の叫びで身元バレ確定。
ちょっとまずいんじゃないの、これ。
どこでバレた。
「な、なんなんですかぁ、この人たち!」
涙目で叫ぶメロちゃんを背中にかばって、まずは一人目。
ナイフを突き出した手首を、あっさりとつかんでやった。
遅いよ、カインさんの突きに比べたら止まって見えるくらい。
沸騰の魔力をそそいで、手首の血管を破裂させる。
「あぎゃっ!!」
悲鳴を上げてナイフを落とし、丸腰になった相手の顔面に触れて、
「弾け飛べ」
パアァァァァァン!!
頭の中身を噴水みたいにブチ撒いて、まずは一人あの世に送る。
二人目はジョアナが相手をしてくれてる。
こいつら大したことなさそうだし、任せてもよさそうかな。
「ひ、ひっ! なんだ今の……!」
「おっと、私の力までは知られてないんだ」
不幸中の幸いだ。
怯んで足を止めた三人目に突っ込んで、手首を弾けさせる。
「あ、づいいぃぃぃぃっ!?」
ボトリと、ナイフを掴んだままの手首が落下した。
拾えないように、左の肩を掴んで沸騰させる。
「いぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」
痛いね、熱いね、名前も知らないおじさんかわいそう。
でもね、自業自得だから。
ジョアナが相手をしてた男は、格闘の末に首を短剣で掻き切られて死んでた。
メロちゃんはというと、青ざめて涙目でガタガタ震えてる。
……私とこいつら、どっちが怖かったのかな。
「メロちゃん、ちょっと目をつむって耳ふさいでて」
ここからは、十歳ちょっとの女の子には見せられない光景だ。
ジョアナに目で合図を送ると、メロちゃんの体を抱きしめて視線をさえぎってくれた。
さて、拷問の時間だ。
「なんだごれっ、肩が、溶けてぇぇぇっ!?」
なっさけない声出して、足をバタバタさせてる男の髪をつかんで、上半身を引き起こす。
「あんたら、ブルトーギュの刺客? どうして私のこと分かったの?」
「ひっ、仲間がっ、森での戦いっ、見でっ!」
「仲間? 誰」
「カインとっ、待ち合わせ、森の中でっ、仲間ぁっ!!」
あぁ、あれ見られてたんだ。
てか、カインさんやっぱりブルトーギュの部下に会いに行ってたのか。
……これってかなりまずいんじゃないか?
あのあと私、普通に武具店に帰ったし、そもそもリーダーもあの場にいたし。
「リーダーのこと、知られた……?」
ジョアナと顔を見合わせる。
だとしたら、こんな雑魚にかまってるヒマないじゃん。
「話しだっ、話だがらだずげでっ」
「うん、もう黙っていいよ」
「ぎゃぴっ」
頭を破裂させて、脳みそを石畳にブチ撒いてやる。
ごめんね、この辺に住んでる人。
路上に汚いもの垂れ流しちゃったけど、急いでるから許して。
メロちゃんをジョアナに抱えてもらって、東の噴水広場を目指して走り出す。
リーダー、ストラ、そしてベアト、どうか無事でいて!
○○○
噴水広場に続く路地から、ジョアナが頭を出してそっと様子をうかがう。
なんだか最初にここに来た時みたいだ。
私も一緒になって、のぞいてみる。
「……いるわね」
「取り囲まれてるね、店の前。でも、さっきの男たちと同じ感じだ。騎士とかはいないみたい」
男たちが、だいたい十人。
さっきの奴ら程度の実力しかないなら好都合だけど、その中にやせた黒服の男がいた。
アイツには見覚えがある。
確かリキーノとかいったっけ。
ネアール襲撃の時にいた、リーダーたちと戦ったアイツだ。
「王都での汚れ仕事なら、騎士や兵士よりも彼らの方が向いてるってことでしょうね。さすがにここで野盗のふりは、無理があるから」
「なんにせよムカつく」
今の私は、非常に不快な気持ちだ。
あの夜を思い出して、すっごく腹が立ってる。
店の中にはベアトもいるのに、アイツら、あの夜みたいに、私の家族みたいに……!
「キリエちゃん……? すっごく怖い顔してるわよ? 少し冷静になりなさい」
「……大丈夫。私は冷静だよ。ね、アイツ、リキーノって凄腕の暗殺者なんだよね」
リキーノのヤツ、カギのかかった店の扉を開けようとしてる。
アイツが店内に入ったら、ベアトたちが危ない。
「ええ、そうね。ちょっと厄介な相手だわ」
「……メロちゃん、ここに隠れてて」
「は、はい、ワケわかんないですけどわかりましたです」
ごめんね、いきなりこんなことに巻き込んで。
事情は話せないけど、もし一人でも取り逃がして、メロちゃんまでレジスタンス認定されたら大変だから、ここに隠れててね。
「よし、行こう、ジョアナ」
「い? 行こうってまさかあなた……」
「正面突破」
「どの口で冷静って言ったのよ!?」
ベアトやみんながピンチだってのに、これ以上見てられるか。
それに、私は冷静だよ。
だってチラッと、カーテンの影から見えたから。
敵の群れへと一直線に突っ込んでいく。
私の接近に気付いた男の一人が、リキーノに知らせた。
構うもんか、このまま敵の目を引きつけて——。
ガシャアアァアァァァン!!
「ぎあああぁぁぁあっ!!」
武具店の戸が、ガラスを粉砕しながら吹き飛ぶ。
巻き込まれた男が一人、顔面にガラス片が突き刺さりながら絶叫。
残念ながらリキーノには避けられた。
「あんたら、今日はもう店じまいだっての!」
って、リーダーかと思ったらストラのしわざ!?
なんかドデカイハンマー担いでるし。
チラリと窓からリーダーが見えて、私にアイコンタクトを送ったから突っ込んだのに。
「ま、まあいいや!」
店の中からリーダーが飛び出した。
前と後ろから挟み撃ちにされて、混乱の渦に陥った男たち。
今がチャンスだ、皆殺しにしてやる。
戸惑う男の一人の頭をつかんで、脳みそだけを狙って沸騰。
派手に破裂させなければ、能力はバレないはず。
リーダーは剣で一人斬り殺し、ストラは店内に侵入されないよう、仁王立ちでにらんでる。
このまま一気に全滅——。
「テメェら、落ち着けェ!!」
リキーノの鋭い声が響く。
その一声だけで、男たちの混乱は収まってしまった。
でもね、落ち着きを取り戻してももう遅い。
もう一人、二人と、頭の中身を沸騰させてブチ殺す。
リーダーも、もう一人斬り殺した。
「クソっ、襲撃は失敗だ。お前ら、いったんズラかるぞ!!」
あれ、リキーノさん戦わないんだね。
さすが、経験豊富な暗殺者。
勝ち目が消えたと見るや、部下をまとめて逃げていこうとする。
「逃がすかよっ!」
「同感!」
リーダーと二人で、最後尾を逃げる男二人をそれぞれ仕留める。
けど、それで終わり。
リキーノと、四人の生き残った部下たちは、王都の闇に消えていった。
「……クソっ、逃げ足の早い野郎共だ!」
おっさんたちの背中を眺める趣味はない。
追い付けないとわかった私は、すぐにお店の方へ。
「ベアトは? ねえストラ、ベアトは!?」
「いや、あたしの心配しないんかい。大丈夫、あんたのお姫様は無傷だよ」
カウンターの奥から、銀髪の女の子がひょっこりと顔を出した。
よかった、無事だ……。
私の顔を見たベアトは、すぐに走り寄ってきて私に抱きついた。
「……っ!!」
「おうおう、お熱いねえ」
「……違うから。ほら、離れて。服に汚い野郎の血がついちゃうよ」
茶化してくるけどさぁ、違うからね。
ベアトのこと全然なんとも思ってないから。
「……まずいな、ストラ。ここが割れちまった。俺たちの顔と名前もだ。これ以上ここにはいられねえ」
「あーあ、あたしこの店気に入ってたんだけどなー」
リーダーとストラ、ちょっと残念そう。
いつからやってたかは知らないけど、二人の家だもんね。
「つーわけだ、俺らは蜂起の日まで身を隠す。お前らはこのまま、フレジェンタに向かえ」