222 地の底へ
トビラは無事にひらいた……っていうかぶっ壊した。
あとは中に入って、ベアトを助ける邪魔するヤツらを皆殺しにするだけ。
壊れたトビラを踏みつけて、さっそく中に突入だ。
「気をつけろよ、キリエちゃん。ぜってぇ罠が待ってるぜ」
「承知の上だよ。なにが来てもぜんぶ踏みつぶす」
リーダーたちもあとに続いて、四人全員建物の中へ。
明かりがついてなくて、中の様子はよくわからないけど——。
ガシャンッ!
とか思ってたら、パッと明かりがついた。
同時に入り口にシャッターがおりて、逃げ道がふさがれる。
ガシャン、って音は、私たちを取りかこんだ量産型の魔導機兵たちが、腕についた筒をいっせいにむけた音だ。
ズドドドドドドドドッ!!
そして放たれる、魔力弾の雨あられ。
私たちはいっせいに散らばりながら、それぞれの武器を手に立ち向かう。
私の武器はもちろん沸騰……じゃなくて、ミスリルの剣。
いくらなんでも、こんなザコにマグマの沸騰を使ってたら魔力が持たない。
「練氣・鋭刃!!」
練氣をまとって切れ味を強化、まずは五体くらいの胴体をまとめてぶった斬る。
どうやらここにいる敵は、ザコのゴーレムだけみたい。
中途半端な実力者を私に殺されて、パワーアップされるのを防ぐため、ってところかな。
おかげでかなり余裕がある。
戦いながら今いる場所を確認できるくらいに。
まずこの空間、広さは外から見た建物とだいたい同じくらい。
中には階段が一つと、両開きのとびらが一つ。
思った通り、地上の部分はハリボテ同然だ。
ベアトはきっとあの階段のずっと下、地下深くにいる。
「なあキリエちゃん、話があるんだが」
長剣とソードブレイカーに練氣をこめてゴーレムを斬り刻みながら、リーダーが話しかけてきた。
「なに? 戦闘中に話なんて」
「大事なことでよ。時間も惜しいんで、いそがしいだろうが聞いてくれ。まず、俺たちはこの施設のことを何も知らねぇ」
うん、そうだね。
情報収集するヒマなんてなかったし、そもそもヒミツのアジトだし。
「地下空間がどれだけ広いのか、想像もつかねぇ。どこになにがあるのか、ベアトちゃんが捕まってる場所、クイナちゃんやベルナさんの居場所もさっぱりだ」
「たしかにな。すみずみまで探し回ってたら時間切れだぞ!」
トーカも会話に参加。
【機兵】のバスターガントレットを両手に装備して、ひじのブースターで威力を増したパンチがゴーレムたちを粉々に吹っ飛ばす。
「キリエちゃんの目的は、もちろんベアトちゃんだろ?」
「聞くまでもないよ、そんなの」
「だったら二手にわかれようぜ。俺とディバイであとの二人を助け出す。ディバイも、それでいいか!?」
「バルジがベストだと判断するなら、俺は従うだけだ……」
ディバイさんのブリザードが、大量のゴーレムをまとめて凍り付かせる。
そこにリーダーが斬りこんで、二刀の乱舞で敵を殲滅。
粉々になった冷凍ゴーレムの破片が、キラキラと舞い散った。
「……決まりだな。だが、この作戦にはリスクも大きいぜ。敵はなりふりかまわず、俺たちを本気で殺しにかかってくるだろうからな」
今ので量産型ゴーレムたちは全滅。
剣をさやに納めながら、リーダーが心配ごとをつぶやいた。
「そんなの、いっしょにいてもリスクはいっしょでしょ?」
その心配、必要ないと私は思うよ。
「強敵と戦うなら、命の危険は当たり前。みんないっしょにいても、一度に戦える人数なんて一人か二人だろうし、それに……」
きっとリーダー、責任ある立場だからって慎重になってるんだ。
だったら私が背中を押してあげないと。
「それにさ、私とリーダーが負けるわけないし」
「……へっ、違いねぇ。つまりこの作戦、リスクはゼロってこった」
白い歯を見せてニヤリと笑うリーダー。
今の、勇気づけるためだけに言ったわけじゃないよ。
レヴィアは間違いなく私を狙ってくるし、ほかのヤツが相手ならリーダーが本気出せば楽勝でしょ?
それより気になってるのが、正面の小さなとびら。
取っ手やドアノブがないのはいつものことだけど、カードキーを通す場所が無いかわりに下むきの矢印がついたボタンがある。
「……ねえ。なんだろ、これ」
ためしに押してみるけど、なにも起こらない。
「またマスターキー、使ってやればいいんじゃねぇか?」
それもそうだね。
練氣をこめて蹴りを浴びせると、トビラはさっきみたいに吹き飛んだ。
だけど、むこう側にあったのは部屋じゃなくて縦長の暗い穴。
底が見えないほど深くって、太いワイヤーが上下にのびていってる。
「……なんだこれ。トーカ、わかる?」
「こいつは……。……うん、昇降機のワイヤーだと思うぞ」
「昇降機って、ドワーフの村にあったアレ? ずいぶんと違うみたいだよ」
「かなり進んだ技術で作られてるな。たぶん手動じゃなくて、自動で動く仕組みだと思う。ただ、今は止められてて、使えないみたいだぞ」
つまり、この穴を降りていけば一番下まで行けるんじゃないか?
一番重要な人造エンピレオは、一番奥にある可能性が高い。
人造エンピレオがあるところに、きっとベアトもいる。
……よし、リーダーたちとはここで別れよう。
その前に、アレを渡しておかないとね。
カバンの中から薬の入った小袋をふたつ取り出す。
ラマンさんがくれたヤツと、ランゴくんがくれたからっぽのヤツ。
ラマンさん印の秘薬四つのうち、二つをランゴくんの小袋の方に入れて、
「リーダー、これ」
リーダーに、ひょいっと投げ渡す。
「おっと!」
ナイスキャッチ。
パシッと受け取ったリーダーに、小袋の中身を手早く説明。
「それ、ラマンさんの秘薬が二粒入ってる。いざという時に使って」
「おう、ありがたく使わせてもらうぜ。……コイツをよこしてくれたってことは、さっそく別行動か」
「うん、私たちはこの穴を降りてみる」
「私たちって……あぁ、アタシもか」
そうだよ、トーカもだよ。
あんたもいっしょに地の底まで直行だよ。
「わかった。……死ぬんじゃねぇぞ」
「……うん、リーダーも気を付けてね。また会おう」
短く別れの言葉をかわして、私は真っ暗な穴に飛び込んだ。
「……しかたない、おねえさんも付き合うか」
ため息まじりに、トーカも私のあとに続く。
太いワイヤーを片手でつかんで、私たちは縦穴をすべり降りていく。
「ねえトーカ。そんなに嫌なら断って、リーダーたちについてってもよかったよ?」
「いやな、キリエって年上がついてないと危ないイメージがあってさ……」
そんなイメージあるのか、私。
……もうどのくらい進んだだろう。
底の見えない真っ暗な穴を降りながら考える。
ここまでソーマ以外、私にむけられた敵はゴーレムとガーゴイルだけ。
中途半端に強い魔物や人間をぶつけても、私を強くするだけだもんね。
だから私の力を少しでも削るため、命をもたない機械兵をさしむけてきたんだ。
敵もバカじゃない、そこまでは考えてる。
(だとしたら、私を殺すための本命は——)
敵のうち、最後に残った最大戦力。
間違いなくアイツだ。
さて、いったいいつ、どこから襲ってくるのか。
「……ん?」
今、真っ暗な穴の先にチラリと明かりが見えたような。
底に到着したのかな?
……いや、それなら一瞬だけ見えるなんてことありえない。
だとしたら——。
「……っ! トーカ、離れて!」
その時、私にはハッキリと見えた。
炎をまとって、こっちにまっすぐ猛スピードで上がってくるアイツが。
すぐに剣を抜いて、練氣・硬化刃を発動。
ワイヤーをつかんでた右手を離して両手で剣をにぎり、空中でガード姿勢をとる。
「へ? なに——」
ガギィィィィッ!!
トーカが返事をかえすより早く、炎をまとった女剣士の突き上げるような突進斬撃が私の剣とぶつかり合って、私を大きく上に吹き飛ばした。