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220 迎撃




 私の腕に、足に、まとわりつく銀色の液体。

 両手両足が完全につつまれて、肌の感覚がマヒしてきています。

 どこからが自分の腕で、どこからが機械のお花なのか、わからないんです。

 私の体、どうなってしまってるんでしょうか……。


「……っ、……っ」


 体を動かそうとしても、手足がピクリとも動きません。

 しかも銀の液体につつまれたところから、服が溶けていっています。

 きっと機械に取り込むために、私以外のものは不要なのでしょう。

 そのせいで、肩から先が銀色になって、どんどん体の方にのぼってきてるのがハッキリと見えます。


「……ぅ!! ……っ!!」


 怖いです、とっても怖いです。

 涙がポロポロあふれ出します。

 でも、怖さよりももっともっとつらいことがあるんです。

 それは……。


「どうかしら、進行状況は」


「現在40パーセントを突破、いたって順調です」


「そう……。いいわ、そのまま続けなさい」


 おねえさんが、この機械に私が取り込まれていくのを喜んでいることです。

 研究員でしょうか、知らない人の声と、とっても嬉しそうなおねえさんの声が聞こえます。


「——っ」


 おねえさんは本当に、心の底から、私を犠牲にして生きることを望んでいる。

 そのために、たくさんひどいことをしてきたんですね……。

 おねえさんの声が聞こえるたび、私は信じたくない現実を現実として突き付けられる。

 心が痛くて苦しくて、いっぱい涙があふれます。


「ふふっ……、もうすぐ、もうすぐよ……。あと数時間もしないうちに、私は死の恐怖から解放されるの……」


 銀色の液体に完全に取り込まれたら、きっと私は私じゃなくなる。

 恐怖と悲しみでいっぱいの心。

 私がすがれるのは、もうあの人だけです。


 キリエさん。

 あの人が、きっと助けにきてくれる。

 折れてしまいそうな心を、あの人を思い浮かべて必死につなぎ止めます。


「ベアトを通じてエンピレオの情報をダウンロード、この機械仕掛けの神(ピレアエクスマキナ)にインストールすれば、そうすれば私は……」


「……おや?」


「……どうかしたの?」


 研究員の不思議そうな声に、おねえさんが反応しました。

 どんな顔をしているのかは見えませんが、きっと不機嫌そうな顔なんだと思います。


「この研究所に飛翔体が迫っています。数キロ先です、魔力レーダーが感知しました」


「ゴルグが魔導機竜ガーゴイルで戻ったのではなくて?」


「確かに反応はガーゴイルなのですが、それに重なって強大な魔力反応がいくつか……」


「……なんですって?」


 怒ったような、少しふるえたようなおねえさんの声。

 たぶん、モニターか何かを確認したのでしょうか、それからしばらくして……、


「……うあっ!! ああ゛ぁぁ゛ぁぁっ!!!」


 まるで恐怖をまぎらわすように、おねえさんが怒りの叫びを上げました。


「ソーマ、ソーマソーマソーマッ!! あの役立たず、失敗した!! 必ず殺すって言ったのに、失敗した!!!」


「せ、聖女様……、いかがいたしましょ——」


 パシィっ!!


「言われなきゃわからないの!? このグズッ!! はやく警報、それからただちに迎撃の準備をさせなさい!!!」


「は、ははっ!!」


 思いっきり顔を張った音、それからヒステリックな早口での指示。

 そのやり取りで、なにが起きたのかわかりました。


「……っ!!」


 キリエさんです、キリエさんが来てくれたんです!



 〇〇〇



 ノスピスの森。

 クレーターの上にできたっていうこの森は、凶悪な魔物の巣として有名なんだって。

 近くにいくつか村もあるけど、村人は誰も近寄らない。

 入るのは、たまーにやってくる命知らずの冒険者くらいなもの。

 そいつらだって、生きて戻ってくるのは十人に一人くらいらしい。


「……と、つまり秘密の施設を作るにはもってこいの場所ってわけだ」


「ふぅん……」


 リーダーの説明を聞きながら、機竜の背中から夜の森を見下ろす。

 森っていっても見わたす限り一面に続いてて、たぶんハルプの大樹海くらい広い。

 それに魔物のものかな、たくさんのギラギラとした殺気を感じる。

 空から来て正解だったかも。


「興味なさそうだな、キリエちゃん。たいくつしのぎにって思ったんだが」


「興味ないわけじゃないよ。それよりトーカ、なんでスピード落としたのさ」


 今、魔導機竜ガーゴイルのスラスターは収納されている。

 森が見えたあたりから、トーカは全力機動をやめて普通に飛ばし始めたんだ。

 一秒でも早くベアトを助けたい私としてはかなり不満なんだけど、


「ブースター、音がうるさいだろ。それに火をふくから目立つし。敵に見つかったら絶対めんどくさい」


 こう言われたらなんにも言えないよね。

 敵がわんさか出てきたら、もっと時間を食うわけだから。


「ところでディバイさん、まだ見つからない?」


「……今少し、だな」


 研究所を目で見て発見するよりも、ディバイさんに魔力反応を探してもらった方が早いはず。

 夜の森はまっくらで、空から見ても敵のアジトは見つからない。

 パッと見ただけじゃわからないように、カモフラージュされててもおかしくないけどね。

 そう思って、さっきから探してもらってるんだけど、森にすんでる魔物の魔力が強すぎて時間がかかってるらしい。


「……これは」


 その時、ディバイさんが少しこわばった表情でつぶやいた。

 そして、右ナナメ前方、一キロくらい離れた森の中を指さす。


「……あそこから、強大な魔力を感じる」


 敵のアジト、ついに見つけたみたいだ。

 なんだか様子が変だけど。


「大丈夫か? 顔色が悪いぜ?」


「あまりにも強烈な魔力を感じて、な……。この世のものとは思えない、おぞましい魔力だ……」


 強烈な魔力、か。

 たぶんエンピレオのもの、なのかな。

 ベアトを通して、どんどん力が人造の方に流れていってるのかも。


「トーカ、急いで」


「わかってるって。急いで静かに行くからな」


 魔導機竜ガーゴイルがディバイさんのさした方へ頭をむけ、高度を下げて、木のてっぺんスレスレ辺りを音もなく飛んでいく。

 こうして近くで見ると、かなり大きな木がならんでるな。

 樹齢、どのくらいなんだろう。


「……む」


 感知を終えたはずのディバイさんが、また何かに反応した。

 顔を上げて、じっと前をにらむ。


「お、今度はどうした?」


「……どうやら我々の存在は、とうに知られていたらしい」


 視線の先を追いかければ、なるほど納得だ。

 機械で作られた飛竜が大量に、森の中から飛び立ってくる。


「あれって、魔導機竜ガーゴイル……?」


「チッ……、厄介なモン量産してやがるぜ」


 ……そっか、魔導機兵ゴーレムはもともと、【機兵】で作られるヤツを土台に量産が計画されてたんだ。

 フレジェンタの技術者たちが作った、王国軍の技術でも作れるくらいしっかりとした図面をもとにして。

 と、なれば、ただごとじゃない技術を持つ教団の連中なら、ゴーレムはもちろんガーゴイルだって量産しててもおかしくない。


「しょせんは量産型だろ? アタシの魔導機竜ガーゴイルとの格の違いを見せてやるさ」


 量産型ガーゴイルが横一列にならんでホバリングしながら、口を開けて火炎弾のチャージを開始。

 一方トーカは、ガーゴイルの翼の装甲を展開した。


「振り落としたらごめんな、できるだけ拾ってやるけどさ!」


「心配すんな、落とそうとしても落ちねぇからよ。思いっきりやんな!」


「合点!」


 解放されたスラスターが火をふいて、一気に加速。

 発射される火炎弾の弾幕をかわしながら、私たちを乗せた機竜は猛然と突っこんでいく。




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― 新着の感想 ―
[良い点] そも、仮にエンピレオとのリンクが切れても再度復讐モードになったキリエに生涯追いかけ回されるだけですからね、死の恐怖からの解放なんて土台無理なんですよ…ザ・自業自得! 久しぶりのトーカの大暴…
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