216 シャットアウト
「ソーマの反応を私ごと、でっかい氷のドームで囲ってほしいんだ。だいたい五十メートルくらいの大きさのヤツで。できる?」
「可能だ……。だがそこまでの巨大さ、長くはもたないぞ……」
「少しで十分だよ。少しの間だけあれば、なんとかできるから」
「……わかった、やってみよう」
小声の相談を終えて、私たちはすぐに離れる。
あんまりコソコソしてたら作戦を読まれちゃうかもしれないし、攻撃が再開しそうだし。
でっかい光の柱が消滅して、地面には百メートルくらいのクレーターができた。
魔物が出てきそうな大きさの、立派なクレーターだ。
「リーダーとトーカは……」
……ダメだ、土煙が舞い上がって姿が見えない。
音を頼ろうにも、爆発の轟音で耳がガンガンする。
おまけに、五個くらいの小さな光の玉が私のすぐそばに現れた。
まわりをふよふよと浮かんで、いそがしく動き回ってる。
(……なにこれ)
とかのん気なことを思っているヒマもなく、そのうちの一つが光線を発射してきた。
「うわっ!?」
とっさに体をのけぞらせて回避。
光線は私の腕をかすって、地面に小さな丸い穴をあけた。
この光の玉、撃ったあとも消えないまま、次の光線を撃ってくる。
他の玉も光線を撃ち始めて、私は一気に光線の雨にさらされた。
「この、ちょこまかと……!」
小刻みに移動していろんな方向から襲ってくる光線は、直撃を避けるだけで精一杯。
私の体に浅い傷がどんどん増えていく。
ディバイさんにはこの攻撃、行ってないみたい。
私さえ殺せばどうにかなると思ってるからか。
ナメやがって、後悔させてやる。
光線を避け続けて防戦一方のふりをしながら、教えてもらったソーマの位置を目指す。
バック転、側転、横っ飛びを繰り返し、なんとか自然に三十メートルくらいまで距離を詰められた。
ソーマがまだ動いてないかどうか、ディバイさんにアイコンタクトで視線を送る。
すると、コクリとうなずいた。
(よし……!)
準備完了、合図の意味でうなずき返すと伝わったみたい。
ディバイさんが魔力を高め、私のほうにむけて両手を突き出した。
「はぁっ……!」
気合いの声とともに魔力を放出。
一瞬で、私とソーマを中心とした五十メートルくらいの範囲が分厚い氷で覆われる。
(私の考えが正しければ、これで……)
ソーマの方へ急いでふりかえると、何も見えなかった空間にぼんやりと人の影が見えた。
私のまわりに浮かんでいた光の玉も、力を失って消滅。
「……くくっ、おそれ入りました」
いい加減うんざりしてる笑い声のあと、人影にだんだんと色がついて、ニヤついた笑みを浮かべたソーマが姿を見せた。
「光の屈折、その原理をあなたが知っていたことに驚きですよ」
分厚い氷を通して満月の光を乱してしまえば、コイツは姿を隠していられなくなる。
私の推理は当たってたみたい。
【月光】が力を発揮するのは満月の夜だけ。
きっと満月の光じゃなきゃダメで、何かでさえぎられると光の加減が変わっちゃうんだ。
でも、それだけ。
この一手じゃ、こいつを殺すことはできない。
「ですが、残念でしたねぇ。この程度なら、少々時間はかかりますが瞬間移動で外に出てしまえます」
だからもう一手。
こいつが草原で襲ってきた理由を突いて、完全に力を封じる。
ソーマが瞬間移動をする前に、私は地面に手をついて大量の魔力を流しこんだ。
「遠隔噴火!」
ドームの外に溶岩龍を作り出し、さらに地面を溶かして作ったマグマを氷のドームの周りから噴き出させる。
氷の外壁に張り付いたところから、溶かしちゃう前に魔力コントロールを解除。
マグマは急激に冷えて、ドームの形に固まっていく。
「こ、これは……!」
このドームは光を遮断するためのモノじゃない。
岩のドームを作るための、ただの型。
型がないと、きれいな形に作れないからね。
氷が大量の溶岩と触れ合っても、全部が一瞬で溶けないことは知ってる。
いろいろと自分の力を試す時間はあったからね。
熱が氷の全部に伝わるまで時間がかかるせいだと思う。
だから、すぐにマグマを冷やしてやれば氷のドームは簡単には溶けない。
「まさか、あなた……!」
「あせってるね、ソーマさん。うれしいよ、アンタのそんな顔が見られてさぁ」
冷えかたまって黒くなったマグマのカベが、全方位、月の光をシャットアウト。
ただ一つ、マグマの届いてないてっぺんの部分からまんまるお月様が顔を出しているけど、
「ふさいじゃって、溶岩龍!」
ビシャァァッ!!
マグマの龍が天井に張り付き、形を崩して冷えかたまって完全に光をふさいだ。
その直後、型としての役目を終えた氷のドームは消滅。
ディバイさんが限界をむかえたのか、それとも完成したのを確認したからかな。
とにかく、これでソーマと満月は切り離した。
光をさえぎっても、ドームの中は別に真っ暗にはなってない。
地面に魔力を流した時、この中の地面を何か所かマグマのプールにしてある。
そこがライト代わりになって、この中はけっこう明るいんだ。
ただし熱い。
「……さぁて、これでアンタは元通り、貧弱な運び手サマに逆戻りだね。どうする? 遺言あるなら聞いてあげるけど?」
こんなことを言いつつ、警戒はゆるめないよ。
だってあの野郎、
「クッ……、ククッ、クククククッ……」
なんか不気味に笑ってるし。
勝ち目が消えて壊れたのか、それとも……。
「くはははははははっ!! お見事、お見事ですな! ですが惜しい、惜しいっ!」
やっぱり、まだなにか手を残してやがるのか。
「月の光をさえぎらえてしまいましたなぁ。これでは月の光と同化する瞬間移動も、月の光をかためて放つ裁きの矢も使えません」
アレ、裁きの矢っていうのか。
お前が裁かれろ。
「ですがっ、私にはもう一つ、手が残されているっ! 私の基礎戦闘能力が上昇したことに、疑問はありませんかな?」
「……不思議だね。ラマンさんのタックルで吹っ飛ばされるような貧弱野郎だったのにさ」
「そうでしょう、そうでしょう。【月光】は月の光を体内にためて、自らの力に変換する能力もありましてな」
ニヤリと笑みを浮かべて、ソーマの姿が消えた。
瞬間移動じゃない。
高速で移動したんだ、私の背後まで。
鉄の刃が三本ついたカギ爪で、私の首を裂こうとしてる。
「コイツ……っ」
ブオンっ!
体をかがめて回避しつつ、後ろ蹴りを食らわせる。
「おぉっと!」
でも、今度は食らわない。
またも高速で移動して、今度は元の位置へ。
「おわかりになりましたかな? この通り、溜め込んだ力は月と離されても使えるのです。もちろん、使えば使うほど減っていきますがね」
「……練氣、月影脚」
「この力が尽きぬ限り、私の勝ちの目は消えていない。あなたの攻撃をかいくぐって、この程度の岩壁を破壊することは十分に可能です」
「練氣、金剛力」
「逃げに徹しさえすれば、すぐに元の力をとりもどぼぉぉっ!!!!」
話が長かったから、思いっきり顔面にグーパンを入れてやった。
練氣で強化した脚力で助走をつけて、練氣で強化した腕力で思いっきり。
ソーマは鼻の骨が折れて、鼻血を出しながら吹き飛んでいく。
「ねえ、忘れてない? 私急いでるの。早くベアトを助けなきゃいけないの」
これ以上、コイツと戦ってるヒマものんびりいたぶってるヒマも無いんだ。
コソコソ隠れて汚いマネしかできないクソ野郎が真っ向勝負をいどんだ時点で、もうお前は負けてんだよ。