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211 おねえさん




 キリエさんがのばした手をつかむため、私も精一杯でのばします。

 でも、指先が触れ合うことなく景色は変わって。

 月明りがさす森の中、青みがかった金属質の建物の前にいたんです。


「……っ!? ……、……っ」


 キョロキョロと辺りを見回しても、キリエさんも他の皆さんもどこにもいません。


「おやおや、不思議そうにしていますねぇ。ベルナ、あなたが説明してあげたらどうです。不思議がってる娘のために、母親らしく、ねぇ?」


 そばにいるのは、私の腕をつかんだソーマと、気を失ったクイナさん。

 それから、ソーマに足をどかされて立ち上がった、お母さん。

 そうです、お母さんです。

 本当のお母さんではありませんが、おばあちゃんと同じように、私はお母さんって呼んでます。


「……っ」


 そんな大事なお母さんを蹴っ飛ばして踏みつけるなんてひどいです。

 キリエさんみたいな顔はできませんが、めいっぱい怖い顔でソーマをにらみます。


「おっと、失礼。いつまでもご無礼は働けませんな」


 すると、私から手を離しました。

 ひるんで自由にした、という感じじゃありません、ニヤニヤ笑ってますし。

 自由にしても、どこにも逃げられないってことがわかっているのでしょう。

 じっさい、ここがどこかもわからないのに、瞬間移動できる相手から逃げようがありません。


「ベアト……。あぁ、ベアト、ごめんなさい……」


 お母さん、なぜだかあやまってきました。

 お話をしたくて羊皮紙の入ったカバンに手をかけますが、そこまでは許されるのでしょうか。

 チラリとソーマの顔を見ます。


「……その程度ならばかまいませんよ。なにせ、残り少ない母娘おやこの時間だ。ただし、歩きながらでお願いします。時間が惜しいのでね」


 許可は出ました。

 ですがソーマは、どうやら急いでるみたいです。

 早く歩けと言いたげに急かしてきます。

 私たちには言うことを聞くしかできません。

 くやしいけど、逆らう力なんて無いんです。

 キリエさんが助けにきてくれることを願って、左右にスライドする不思議なドアから建物の中へと入っていきます。


 ……それにしても、そんなに急いでいるのなら、どうして施設の奥に直接ワープしなかったのでしょうか。

 わざわざ歩くより、よっぽど早いはずなのに。

 それともう一つ、気になっていることがあります。

 さっきまでは気にする余裕もなかったのですが、施設の中からおねえさんの気配を感じるんです。


 聖女の力に目覚めてから、感じられるようになったおねえさんの存在。

 大神殿から動けないおねえさんは、当たり前ですがずっと大神殿から動きませんでした。

 まさか、おねえさんも狙われていたのでしょうか。

 だとしたら、助けないといけません!


 優しくて何でもできて、とっても頼れるおねえさん。

 双子なのに、辛い聖女のお役目を押し付けてしまって、私はずっと負い目を感じていました。

 助けになれることがあるなら何でもしたいって、ずっとそう思っていたんです。




 不思議なライトがともった、神殿の地下と同じような薄緑色の廊下。

 よく分からない材質のつるつるなカベと床。

 私たちを地下深くまではこんだ、上下に動く四角い小部屋。

 こんな技術、いったいどうやって手に入れたのでしょうか。


『おかあさん、ここはなんのしせつなんですか? しんでんのちかとにています』


「……ここは、人造エンピレオを製造する施設です」


「……っ!?」


 人造エンピレオ。

 バルジさんたちが存在をつきとめた、あの恐ろしい計画です。

 まさか神殿じゃなくて、こんなところで作られていたなんて……。


「ベアト、あなたは知っていますか? パラディの大司教に代々継承される、『星の記憶』のことを」


「……?」


 星の記憶……。

 たしか聞いたことがあります。

 でも勇贈玉ギフトスフィアとかと同じで、深いところまでの知識はありません。


『大司教になるぎしきでさずけられる、とてもたいせつなもの。大司教のあかしですよね?』


 知ってるのはこれだけです。

 おばあちゃんやお母さんに、聖女や教団とはあまり関わらせてもらえませんでしたから。


「……星の記憶とは、かつて『赤い星』とともに、星の海からこの地に降り来たったと伝わるもの」


「……っ!?」


 赤い星って、つまりエンピレオですか!?

 そんなものといっしょにって、絶対にロクでもないモノなんじゃ……。


「その宝玉には、まさしく神のような知識が詰まっています。このような建造物を建てるための技術も、人造のエンピレオを造るような手段も、すべて」


 そんなモノが、いったいどこから降ってきたんでしょう。

 夜になると見える、空いっぱいに広がるお星さまの海。

 その果てに、私たちの知らない世界があるのでしょうか。


「初代大司教となった最初の勇者の時代では、その技術を使いこなすことはできませんでした。あまりにも技術レベルが高すぎて、当時の文明ではどうすることもできなかった」


 ……お母さんの話を聞きながら、私たちは廊下をどんどん進んでいきます。

 得体のしれない話と合わさって、なんだかとっても不気味で心細いです。

 キリエさんに、会いたいです……。


「ですが、二千年の歴史の中で教団は技術力を高めていきました。まだ不完全ながら、人体の製造すら行えるほどに……」


 教団の悪い人たちは、その技術を利用してこれまで非道な実験を繰りかえしてきたんですね……。


 廊下もようやく終わりが見えて、大きな両開きのとびらの前に到着です。

 ソーマが扉の横にたくさん並んだボタンを押して、ボタンの上にある画面にコメじるしがいくつも表示されます。

 やがてぷしゅー、と音がして、大きな扉がゆっくりと左右にスライドしていきました。


「さあさあベアト様、ようやく到着しましたよ」


 ソーマにうながされて、扉をくぐります。

 本当は行きたくないですけど……。


 扉の向こう側は、大きな大きな空間でした。

 お外に出たのかと思うくらい、カベが遠くにあります。

 天井だって、見えないくらい高いです。


 ですが一番目を引くのは、広い広い空間の真ん中にあるとっても大きなたんぽぽ。

 正確にはたんぽぽの形をしている、不気味な機械です。

 真っ白い機械でできたクキ、根本に大きな葉っぱみたいなパーツ。

 そのずっと上に丸い形の花みたいな部分があって、床には機械の根っこが触手みたいに張り巡らされています。

 そんなモノが、この空間の真ん中に建っているんです。


「驚きのようですね。あれこそは機械仕掛けの神(ピレアエクスマキナ)。あなた様と永遠を共にする、我らの新たなる神でございます」


 永遠を共にする……?

 それって、いったい……。


「ようやくのご到着ね、ベアト」


 その時、私の耳に届いたのは聞きなれた声。

 とってもなじみのある、血を分けた唯一の肉親の声でした。


「これはこれはリーチェ様、それにフィクサー様も」


 いることはわかっていました。

 ですが、問題なのはソーマが深々と頭を下げていること。

 聖女、リーチェ・ティナリー。

 私の大好きなおねえさん。

 大司教フィクサーを従えて、いつも通りの天使のような微笑みを浮かべています。


「予定より少し遅かったようね。何かトラブルでも?」


「そこにいるベルナが、いやさベルナを操っていたドルマスでしたか。ヤツが勇者の始末をしくじりましてな……」


 ソーマとの会話で、私は確信してしまいます。

 こんなの、もう間違いありませんよね……。

 でも、信じたくなかった。

 おねえさんが、おねえさんが私を狙う黒幕だったなんて。


「……っ!!」


『おねえさん、どうしてここに?』


 もしかしたら操られているのかも、もしかしたら脅されているのかも。

 もしかしたら、もしかしたらっていう可能性にすがって、おねえさんに問いかけます。


「しくじった、ねぇ……」


 ですが、おねえさんは私を完全に無視して。


「……この、役立たずがッ!!」


 パシィン!!


 ソーマに思いっきり、平手打ちをしました。


「勇者を仕留めそこないましたぁ!? そんなの、ヤツが死に物狂いで取り返しにくるに決まってるじゃないの!!」


 ヒステリックな怒鳴り声。

 私の知っている、落ち着いてて妹想いのおねえさんは、どこにもいませんでした。

 その時、私の『もしかしたら』は粉々に砕け散ってしまったんです。




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