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208 あきらめません!




 神官ソーマ。

 いつも誰かといっしょに襲ってきたこの人が、今日は堂々と一人だけです。

 さっきの攻撃、まさかこの人が……?

 おばあちゃんもバルジさんも、みんなやられちゃったんですか……?


「邪魔なバルジは消し飛んだみたいですねぇ。勇者殿も勇贈玉ギフトスフィアになった頃合いでしょう。……くくっ。もはやっ、もはや私をはばめる者は誰もいないっ!」


「……っ!?」


 そんな、キリエさんまで……?

 ……いえ、信じません。

 あの人が、そんな簡単に死んじゃうわけないです。


「この野郎……、アタシらは眼中にないってか……!? いくら【機兵】がないからって……っ!」


「バルジがそう簡単にくたばるかっ! いくよ、トーカ!」


「おうさ!」


 グリナさんも、バルジさんが死んだなんて信じてません。

 長柄の斧を振りかざして、ガントレットをつけたトーカさんといっしょにソーマへ攻撃をしかけます。


「無駄なことを……。大人しくベアト様を引き渡せば、命までは取りませんよ?」


 先陣を切って突っ込んだトーカさん。

 ガントレットに練氣レンキをまとって、思いっきり殴りかかりました。

 ですが……。


 ブオンッ!


 頭を殴り飛ばした、と思った瞬間、ソーマが一瞬で背後に回ったんです。

 まるで、瞬間移動でもしたみたいに。


「な……っ!?」


 早すぎて、私の目では動きが見えなかっただけなのでしょうか。

 それとも、本当に瞬間移動を……?

 一つだけ確かなのは、トーカさんもまったく反応できなかったということ。


「トーカ、下がってろ! うぉりゃああぁぁぁっ!」


 続いて、同じく練氣レンキを斧にまとったグリナさんが斬りかかります。

 ですが、トーカさんの時と同じようにソーマが瞬間移動して、攻撃はからぶり。

 刃を叩きつけられた石畳が、粉々に砕けるだけに終わりました。


「ムダだと言っているでしょう。満月が輝く限り、私は絶対に倒せません。ましてや、あなたたち程度の力では……ねぇ?」


「このっ……」


「まだまだぁ!」


 今度は二人同時にかかって、それでも攻撃はまったく当たりません。

 ソーマの姿が一瞬ごとに、まったく違う場所に現れます。

 あんなふうに瞬間移動を連発できるなら、どうして私を捕まえたときは時間をかけていたのでしょうか……。


「……そうだ、なにやってんだボクは。早く兄さんを助けなきゃ……!」


「……っ?」


 ケルファさん、何かをつぶやきながら立ち上がりました。

 そして、崩壊したおばあちゃんのお店の方へ走っていきます。


「お、おいケルファ、どこいく気だよ!」


「……決まってる、兄さんを助けるんだ」


 ラマンさんが止めようとしますが、聞く耳を持ちません。

 でもケルファさん、我を失っている感じではないんです。

 目にはしっかりと光がともってて、強い意志を感じます。


「助けるって……。どうやって助けるつもりだよ、そんな小さな体で」


「そう思うならラマンも手伝ってよ。デカい図体ずうたいしてるんだからさ」


「うぐっ……、わ、わかったよ……!」


 ケルファさんに正論をぶつけられて、ラマンさんもいっしょについていきます。

 そうです、こうしてぼんやり座っていてもなんにもなりません。

 おばあちゃんが生き埋めになって、助けを求めてるかもしれないんですから!


「……っ!」


「ちょ、ベアトお姉さん!?」


「べ、ベアトさんまでついていくッスか!?」


 止めないでください。

 ソーマは今、完全に遊んでいます。

 いつでも私をさらえるって、油断しているんです。

 だったら今のうちに、バルジさんを助けだすべきなんです。


「……あぁなったら聞かないですよ、ベアトお姉さん。こうなったらあたいらも行くです!」


「は、はいッス……! リフちゃんとランゴくんも、ジブンらから離れないで!」


「う、うん……」


「ふぇ……、ひぐっ……」


 メロさんとクイナさんも、リフさんとランゴさんを連れて、いっしょにきてくれました。

 ガレキをどかしはじめてるラマンさんと、小さなカケラを投げ捨てるケルファさんに、私たちも加わります。


「こ、こいつぁ骨が折れそうだぞ……!」


「あたいの土魔法でぶっ飛ばしたら……、リーダーさんたちも危険ですか」


 危険ですよ。

 地道にどかしていくしかないみたいですね。


「おーっと、そうはさせませんよ?」


「……っ!?」


「うぉわっ、出たぁ!!」


 いつの間にか、ソーマが私たちのすぐそばに来ていました。

 ラマンさんが驚きのあまりひっくり返りそうになります。

 戦ってたはずのトーカさんとグリナさんは……!?


「……っ!!」


「トーカっ!」


 悲鳴混じりのメロさんの声。

 トーカさんたち、二人とも倒れたまま動きません。

 そんな、やられてしまったんですか……?


「さあベアト様、もうよろしいでしょう。あなたのために他の誰かがどんどん傷ついていく、お優しいあなたには耐えられないことですよね……?」


「……っ」


 ぶんぶん、左右に首をふります。

 みんなあきらめてません。

 おばあちゃんもバルジさんも言ってくれました、みんな私のためじゃない、自分のために戦ってるんだって。

 だからこれは、私一人のための戦いじゃないんです!


「……はぁ、面倒ですねぇ。あなたたちの隠れ家を吹き飛ばしたあの技、あそこで眠ってるお二人にも放ってさしあげましょうか?」


「……っ!」


「こ、こいつ……! トーカたちを人質にして脅すつもりですか!」


「人質とは聞こえが悪い。私はただ交渉しているだけですよ。ムダな抵抗はやめたらどうですか、と」


 ニヤリと嫌な笑みを浮かべて、ソーマはケルファさんの方へと目をむけます。

 そして、冷たい視線で言葉を投げかけました。


「ねえ。失敗作の人間未満さん?」


 失敗作……?

 なんのことでしょうか。

 さっぱりわかりませんが、底なしの悪意だけは感じます。

 ぞっとするほど冷たくて、人を人とも思わないような。


「……言いたきゃ言えばいいさ」


「……む?」


 ですが、その反応はソーマの期待しているものではなかったようです。

 ケルファさんはソーマをにらみ返して、決然と言い放ちます。


「ボクの素性をバラすなら、今ここでばらまくといい。聖地中に、いや世界中に広めたってかまわない。ボクにはボクの全てを知った上で受け止めてくれる兄さんがいるから。だから世界中がボクをあの目で見たとしても、ボクはもう怖くない!」


 ……ケルファさんの素性、私にはわかりません。

 ですが、とっても立派なことを言ってるのはわかります。

 そんなケルファさんを、ソーマは心底バカにした様子で笑いました。


「ほほほっ、面白いことを言いますねぇ。その兄さんとやら、ガレキにつぶれてぺしゃんこじゃないですか。いいですか、あなたを受け入れてくれる人は、もうこの世のどこにも——」


「——勝手に殺してくれるなよ、神官さん」


 ドガァァァァン!


 その時、とつぜんガレキが吹き飛びました。

 ふりむけば、分厚い氷のバリアを頭の上に展開しているディバイさん。

 その氷の下で、おうちを壊されたからでしょうか、げんなりしているおばあちゃん。

 そして……。


「兄、さん……っ」


「よおケルファ。立派だったぜ、ガラにもなくジーンと来ちまった」


 右の長剣を肩にかついで、ケルファさんに笑いかけるバルジさん。

 三人とも無傷です。

 みんな、無事でした!


「さぁて神官さん? さっそく計算が狂ったみてぇだなぁ」


 左手のソードブレイカーの切っ先をむけて、バルジさんの不敵な挑発です。


「くっ、くくく……」


 それを受けて、ソーマが肩をふるわせてうつむきます。

 くやしがっているのでしょうか。

 ……いえ、この人はそんな人じゃありませんね。


「くははははははっ! あなたたち三人が生きていた、だからなんだと言うのです! この程度でっ、この程度で計算が狂ったなどとっ、愉快、愉快っ!」


 勝ち誇ったソーマが、高笑いをします。

 その背後、連なる屋根の上を飛び渡ってくるシルエットが見えました。

 影だけでも、はっきりとわかります。

 あの人が、キリエさんが戻ってきたんです!

 その時、私は心の底から勝利を確信しました。


 ソーマの余裕が油断ではないことを、まだ知らなかったから。




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