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201 敵の正体




 裏口からこっそりと抜け出して、人目につかないように路地裏を行く。

 人通りの多い中央の大通りまで出れば、そこは人の波。

 まぎれてしまえば、フードをかぶった私は目立たない。


 道の先には、沈みかけた夕日に照らされて赤く染まる、純白の大神殿。

 高台の上にあるあの大きな建物は、いつからそこに建っているのだろう。


(……あそこに、いるんだよね。ベアトを狙う何者かが)


 そいつの正体を突き止めることが、今回の最低限の目的。

 で、あわよくばぶち殺す。


 とにかく目的もふくめて、今の敵はわからないことだらけだ。

 人工的にカミを造る計画と、ベアトがどう関係してるのかもさっぱりだし。

 そこまで全部突き止められれば、上出来ってところかな。



 大神殿のある高台のふもとにつく頃には、太陽はすっかり沈んでいた。

 空にはまんまるお月様。

 今夜は満月か……。


 長い階段をのぼって、のぼって、ひたすらのぼって。

 ホントはジャンプでひとっとびだけど、そんなことしたら死ぬほど目立つからね。

 一段ずつ、地道にのぼってようやく大神殿の入り口にたどり着いた。

 さて、まずはどこから攻めようか——。


「キリエさん、お待ちしておりました」


「い……っ!」


 おもわず、悲鳴を上げそうになっちゃった。

 だって、さっそく変装がバレたんだよ?

 とりあえず、声を押し殺して平常心で私を呼んだソイツの顔を確認する。


「あれ……?」


 だけど、その人の顔を見て緊張は一気に抜けた。

 青い髪の、温和そうなシスターの女の人。

 前に会ったことがある、名前も知ってる信用のおける人だ。


「ベルナさん……?」


「お久しぶりです。あの子のために、いろいろと頑張ってくださっているとか。リーチェ様から聞き及んでおります」


 ペコリと頭を下げて、お礼を言われちゃった。

 それはいいんだけど……。


「あの、ここじゃ目立っちゃうから……」


「あら、そうですよね。ではお話は、私の部屋の方で。ご案内させていただきますね」


 私の方の事情、すぐにさっしてくれたみたい。

 ベルナさんのあとについて、私も大神殿の奥へ。

 ……それにしてもこの人、まるで私が来ることを知ってたみたいだった。

 知ってて、待ちかまえてたような……。

 いや、さすがに考えすぎかな。



 大神殿の四階あたり、ベルナさんの私室まで連れてきてもらった。

 ローブやベール、『至高天の獅子』のおかげで、まったく怪しまれずにここまで来られたよ。


「どうぞ、お座りになってください。今、紅茶をいれますね」


 ガチャリ。


 ベルナさんがカギをかけて、ポットとティーセットを取りにいった。

 お言葉に甘えて、私もテーブルの前のソファーに腰かける。

 リーチェの部屋よりは小さいけど、それでもベルナさんの部屋、なかなかの大きさだ。

 家具の質も王都ディーテのお城よりすごいかも。


「お待ちどうさま。熱いので気をつけてくださいね」


「あ、ありがとうございます……」


 私の前に紅茶の入ったティーカップが置かれて、むかい側にベルナさんが腰かける。

 ベアトの乳母うばさんで血はつながってないはずだけど、青い髪に青い瞳。

 こうして見るとどことなくベアトに似てるな……。

 とりあえず必要なくなったフードとベールをとっぱらって、カップを手に取る。


「あつ……っ」


 思ったよりずっと熱い、ほとんど熱湯だ。

 さわっただけで手がひっこんだ。

 こりゃしばらく飲めそうにないか。


「ふふっ、少し熱すぎたかしら。まるであなたの【ギフト】みたい」


 そ、それって冗談なの……?

 なんて言えばわかんないし、どんな顔していいのかもわかんないよ?


「冷めるまで少しお話しましょうか。あなたも、いろいろと知りたいことがあるでしょうから」


 にこやかに笑いながら、ベルナさんはそう言ってくれた。

 知りたいことなんて山ほどあるし、それに答えてくれるならありがたいんだけど……。


「ベルナさんは、知ってるんですか……? 私が知りたいことも、その答えも……」


「ええ、知っていますよ」


 ……ホントに?

 だとしたら、どうしてこの人が……。


「まず、あの子を——ベアトをずっと守ってくれたことに、お礼を言わせてください」


「いえ……、あの、私が勝手に守りたかっただけだから……」


 深々と頭を下げて、お礼を言われた。

 そう、ずっと気になっていたことの一つがそれ。


「……そもそも、どうしてベアトは狙われてたんですか? 生け贄にささげるためってのはウソなんでしょ?」


「ええ、それはまったくのデタラメです。あの子を聖女として覚醒させる、彼女たちの狙いはそれだった」


「聖女の力を……? なんのためにそんな……。聖女が必要ならリーチェがいるのに……」


「ベアトの体には、聖女の力を封印する術がかけられていた。封印を解くために必要なモノは、危機に陥った時、強く力を求める本人の想い」


 私の疑問には答えず、ベルナさんは淡々と話を続ける。


「エンピレオの生け贄にすると告げ、精神的な負荷をかける。食事を抜いて地下牢に閉じ込め、肉体的な負荷をかける。彼女たちのやり方は乱暴で、とても見ていられなかった」


「もしかして、ベアトが逃げ出すための手引きもあなたが……?」


「母に協力を取りつけて、あの子を逃がしました。その後、王国の者に捕われてしまったのは計算外でしたが……」


 さっきからたびたび出てる、彼女たちって言葉。

 間違いない、この人は黒幕が誰かってことも知っている。


「その……、知っているなら教えてください。ベアトを狙っているのは、いったい誰なんですか」


「……」


 少しの間があって、ベルナさんはとうとうソイツの名を口にする。


「……大司教フィクサー・ストールス。二千年前から伝わる『星の知識』を継承する、エンピレオ教団の大司教です」


「大司教フィクサー……、そいつが……っ」


 これまで謎につつまれていた敵の正体が、ついに見えた。

 こうなれば話は簡単だ。

 ソイツさえブチ殺せばいいんだから。


「彼女の目的、それこそが人工的にエンピレオを造る計画、機械仕掛けの神(ピレアエクスマキナ)


 リーダーから聞いた計画だ。

 やっぱりそこに、ベアトが関係してるんだ。


「機械仕掛けの神の器にエンピレオの力をコピーすることで、エンピレオと同等の力を持った神を造りあげる。そのためには、エンピレオとリンクしている聖女を生体パーツとして組み込む必要があるのです」


「生体パーツ……?」


 そんなことのために、そんなくだらないことのために、ベアトを苦しめて怖がらせてきたってのか。

 大司教フィクサー、絶対に許せない。

 たった今ソーマを抜いて、ブチ殺したいランキング一位に躍り出たよ。


「でも、聖女が必要ならリーチェでいいんじゃ……」


「彼女ではダメです」


「どうして——」


「ダメな理由があるのです」


 妙だな、急にガードが固くなった。

 リーチェに関して、何か隠しておきたいことでもあるのか……?


「この計画は神託者ジュダス——エンピレオの狂信者には到底受け入れられない話でした。新たな神が生まれたとき、聖女とエンピレオのリンクは遮断しゃだんされるのですから」


「……だから、アイツは私を利用して、カロンの屋敷からベアトを助け出した」


 そしてそのあとも、私を使ってフィクサーの手からベアトを守り続けた。

 フィクサーが手回ししたタルトゥス軍の幹部を私に各個撃破させたのも、エンピレオへのエサやりだけじゃなくて、この計画への妨害でもあったんだ。


「……ふぅ」


 なんか、一気に情報が来て疲れちゃったな。

 そろそろ冷めただろうし、紅茶を飲んで落ち着こう。

 カップを手にとって、口にふくむ。


 ……うん、ちょうど飲み頃でおいしいな。

 さて、テーブルの上にもどして話の続きを——。


 ドクン。


「……っぐ!」


 な、なんだ……!?

 急に胸が熱くなって、息が苦しく……。

 私の体がソファーから転がり落ちて、テーブルの下に倒れこむ。

 そんな私を見下ろしながら、ベルナさんはまるで人形のような表情で言い放った。


「飲みましたね、【劇毒】入りの特製紅茶を」




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― 新着の感想 ―
[一言] 「飲みましたね、【劇毒】入りの特製紅茶を」 敵の本陣に来て、毒を全く疑わないんだ。
[良い点] キリエ、貴女って娘は…いや、ジョアナさんに裏切られたからって誰も信じられなくなったら、それはそれで負けた気になりますから、その純粋さは美点なのですが…。 しかし、なんで割と正しい情報与える…
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