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198 失われた狂気




 逃げる敵を追って、クレールさんのお店の屋根へと一気に飛び上がる。

 さあどこまで逃げやがった、とか思うまでもなく。


「ケヒヒッ、来たな勇者キリエ……!」


 なんとコイツ、堂々と屋根の上で腕組んで待ってやがった。


「……おどろいた。もしかしてアンタ自殺志願者?」


 それとも、エンピレオにむしゃむしゃされることを至上の喜びとする変態かな。

 どっちでもいいし、どっちにしろ情報引き出してから殺すけど。


「とんでもない、俺はお前を殺すつもりでいる……。さぁ、来るがいい……」


 ……なーんかザコっぽさしか感じないんだよな。

 見た目も黒いローブとフードで特徴ないし。

 ま、いっか。


「一瞬で終わっても恨まないでね」


 剣を抜くまでもない。

 拳をにぎって、一気に間合いを詰め——。


「そこだぁ!」


「……ん?」


 詰めようとした瞬間、真後ろから声を上げて斬りかかるもう一人の男。

 見た目は黒フードにローブでそっくり同じ。

 二人いたのかよ、面倒だな……。

 つーか声上げんな、奇襲になってないじゃん。

 足を止めて、斬撃をよけながら回し蹴りをあびせる。


「よっと」


 バキャッ!


 骨が砕けて上半身と下半身が内臓をまき散らしながらお別れした。

 一撃でコレって、やっぱりこいつら大した敵じゃない。


 ボンっ。


「……え?」


 半分にちぎれた死体が、軽快な音を立てて煙みたいに消えた。

 なにこれ、今のヤツ人間じゃなかったってこと?


「むむむ……、我が【分身】による奇襲をかわすとは、なかなかやる……」


 はい、説明ご苦労さん。

 自分の能力を自分で白状するのかよ。

 なんなんだよ、この敵は。


「だが、今度はそうはいくまい! 百人分身——」


 ガシッ!


 なんかわめいてたけど、もう付き合ってらんない。

 今度こそ一気に近づいて、なにかする前に顔面をわしづかみにする。


「んぐむっ、むむむぅうぅ!!」


「……ねえ。私、遊んでるヒマなんてないんだけど。このまま脳みそ沸騰されて、バケモノのエサになってみる?」


 ミシミシ、メキメキメキと、頭がい骨にヒビが入る音がする。

 かなり力入れてつかんでるからね、砕けない程度には。


「むぅぅぅぅ!! むぅぅぅぅうぅぅぅぅ!!!」


 こいつ、情けなく涙流しながら首をブンブン横にふってる。

 思わず殺したくなる情けなさだけど、殺したらなんにも聞き出せない。

 このまま気絶させて、あとでゆっくり拷問インタビューかな。


 ——ヒュッ!


「……っ!」


 その時、私の耳が拾ったのは超高速で風を切る音。

 肌で感じたのは、これまで何度も浴びた殺気。

 内心うんざりしながら、名前も知らない敵から手を離して後ろにとびのいた。

 その直後。


 ズバッ!!


「な……っ」


 肉が断たれる音、吹き上がる血しぶき。

 真っ赤な血が薄汚れた白い屋根を濡らす。

 もちろん、斬られたのは私じゃない。

 あの分身する敵が、一撃で首を跳ね飛ばされたんだ。


「……勇者」


 急ブレーキをかけて停止し、鉄仮面の下から私をにらんだこの女に。


「アレス……。いや、もうレヴィアでいい? こうして会うのはもう何度目かな」


 コイツがあのザコを殺した理由、一見不可解なようでいて、いろいろと思いつく。

 口封じとか、私に殺させることでの強化阻止とか。

 まあ、あんなん殺してもほとんど強さは変わんないだろうけど。


 それと、最大の理由が勇贈玉ギフトスフィアの回収だろうな。

 あの女の手ににぎられた、黄色の玉がはめ込まれた『至高天の獅子』。

 ヤツの持ってたアレを、首を斬った一瞬でしっかり回収してやがる。


「レヴィア……? 誰のことだ? ボクはアレス、それ以外の誰でもない」


 ……あれ?

 どうしたんだ、こいつ。

 てっきり今度も「勇者ああァァァ!!!」とか奇声を上げて襲ってくると思ってたのに。


「ボクの使命は勇者、お前を倒すこと。だが、今はその時ではないな。退かせてもらう」


「退くって、おい、ちょっと待て!」


「……さらば」


 止めるヒマも、攻撃するヒマもなかった。

 体に練氣レンキをまとった次の瞬間、ヤツの体が一瞬にして消える。

 炎を使わない超高速の移動術、今のは間違いなく【神速】だ。

 どういうこと?

 やっぱりヤツは、人工勇者だったの……?


「……と、こうしちゃいられない」


 見失った敵にいつまでもかまってられるか。

 それよりも、この場所が完全に敵にバレたってみんなに知らせなきゃ。



 〇〇〇



「——ってわけで、私たちの居場所が完全にバレちゃった。ゴメン……」


 飛び出していってからの出来事をみんなに説明して、ペコリと頭を下げる。

 ちなみに今、私のひざの上にはリフちゃんが乗っていて、いっしょに頭を下げてくれた。


「まあ仕方ねぇ。【神速】のヤツに見つかったんじゃ追いかけようがねぇし、もともとバレてたようなモンだ」


「けど、敵は無条件にこっちの位置がわかるワケじゃないのかね。どう思う、ラマン」


「なんでおいらに振るんだよ、姐さん。……けどまあ、わざわざ場所を探しに来たってことは、そうなんだろうな」


 確かに、わざわざ死者を出してまでこっちの居場所を探りにきたんだ。

 思ってたより、こっちの居場所を細かく特定できないのかも。


「それでリーダーさん、どうするつもりだい? 場所を移すとか、今夜の予定をナシにして敵にそなえるとかさ」


「予定は変えねぇ。どの道、居場所は割れてる前提で動いてたんだ。……ただし、大神殿に行くのはキリエちゃん一人になりそうだな」


「お姉さん一人、ですか……。なるほど、確かにリーダーさんまでここを開けたら、戦力的に心細いのです。特に【機兵】を取られたトーカは頼りなむぎゅぅ!」


「一言余計だ、お前は!」


 左右のほっぺをびろーんとのばされるメロちゃん。

 憎まれ口をたたかなきゃ、あんな目にあわないのに。

 そんなにトーカにかまってほしいのかな。


「てなわけだが、クレールさん。あんたはどうなんだ? 厄介ごとに巻き込まれる可能性がグンと上がったわけだが……」


「いらない気づかいだよ! ベアトを見捨ててのうのうと生き延びられるか!」


 おばあちゃん、本当にベアトが大事なようで。

 この子のためならなんでもできるって気持ち、私にもよくわかるけど……。


「……っ」


 ……あれ?

 なんかベアト、少し機嫌が悪い?


「よし、決まりだな! つーわけでキリエちゃん、出発は夕方だ。黒幕の情報、持って帰ることを期待してるぜ」


「任せてよ。リーダーはベアトたちのことよろしく」


 リーダーが残ってくれるのは、心細い反面ありがたいかな。

 この人がいれば、ケルファも無茶なことできないだろうし。


「おねえちゃん、リフもいっしょがいい……」


「……ごめんね。さすがに危ないから、ここでいい子でおるすばんしててね」


 ひざの上に座ったさみしがりのリフちゃんの頭をなでて、できるだけ優しく言い聞かせる。


「ガマンできる?」


「……うぅ。さみしいけどがまんする……」


「えらいね」


 最後にポンポン、として、なでなで終わり。

 さて、さっきベアトが怒ってたような気がするけど……。


「……あれ、ベアトは?」


 リフちゃんを下ろして、立ち上がってキョロキョロしてみるけれど、あの子の姿が見当たらない。


「ベアトお姉さんなら、二階に上がって行っちゃったですよ?」


「ちょっとほっぺが膨らんでたな……」


「ベアトが……?」


 どこに行くにも私といっしょなあの子が、一人でどこか行っちゃうなんて珍しいな。

 ともかく、家の中とはいえ敵に狙われてるベアトを一人にはできないよね。

 早く追いかけなくちゃ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] なんかレヴィアがおかしなことに…いや、おかしくないことになってる?あの執念がなくなったんじゃ大幅な弱体化の気もしますが、明らかに策謀くさいし…むむむ? ベアトったら、ちょっぴり嫉妬モード?…
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