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196 再びの聖地




 この大陸のいたるところから、エンピレオを信じる者たちがやってきて、この道を通っていく。

 北へ北へと進んで、ようやく見えた白磁はくじみやこに感動を覚えるのだろう。


「……見えたな、クソッタレ」


「うん、見えたね。クソッタレの巣がさ」


 ま、私がそれを見ていだく感情は、憎しみ、怒り、闘志、あるいは殺意だけどね。


 夜明けとともにサウスピレアの町をって、まだ人通りの少ない街道を北へ北へと進んでいって。

 太陽が頭の真上にさしかかろうかってところで、行く手にとうとう聖地ピレアポリスの大神殿が見えた。


 リーダーたちにとっては、自分たちをさらった憎き相手。

 ベアトにとっては、生まれ育った故郷。

 みんなそれぞれ思うところはちがうんだろう。

 リフちゃんも、白い大神殿が見えたとたん半泣きで私にしがみついてくる。


「……怖い?」


「う、うん……」


 ごめんね、こんなトコまで連れてきちゃって。

 怖い人たちから必死に逃げてきたのに、そんな場所に今度は自分から行かなきゃいけないんだもん。

 不安なのは当たり前だよね。


「……っ」


 もう片方の空いてる腕を、ベアトがギュッと抱きしめてきた。

 力いっぱい、おもいっきり。

 ベアトって全然力がないから、ちっとも痛かったりはしないけど。


「ベアトも怖い……?」


「……っ」


 ふるふる。

 首を横にふるけど、強がらなくてもいいよ。

 すぐにここを怖い場所じゃなくしてあげるから。

 あの白い闇に潜む、まだ見えない敵の正体をあばいて、引きずり出して、ブチ殺してやる。

 絶対にベアトを守るんだ。




 街の中は、前に来た時と変わらずすごいにぎわい。

 王都ディーテとも比べものにならない、間違いなくこの大陸でいちばん活気がある街だ。

 そんな街中を、全員がフードで顔を隠した巡礼者スタイルで進む。

 きっと敵にはもう侵入を知られてるんだろうけど、それでもないよりマシだからね。


白磁はくじみやこピレアポリス。来るのは二度目ですけど、三度目こそは観光ルンルン気分で来たいのです……」


「任せとけ、魔術師の嬢ちゃん。俺らで全部片づけて、すぐにでものんびり観光させてやらぁ」


「さっすがリーダー、頼もしいねぇ……」


 メロちゃんをはげましたリーダーに、グリナさんが拍手をおくる。

 さわいで目立つわけにはいかないから、控えめに。


「な、なあトーカちゃん? 本当においらたちの力になってくれる人がいるのかい?」


 力になってくれる人とは、ズバリクレールさんのこと。

 リーダーたちが聖地で使ってたアジト、敵の襲撃を受けて壊されちゃったんだって。

 宿に泊まる手もあったけど、警備が心配。

 だから今回も、あのおばあちゃんを頼ることにしたんだ。


「いるさ。ちょっと驚くような店にいるけどね……、っと、こっちだ」


 歩いてる途中で、前と同じように裏道へ。

 私も、あの店を最初に見たときはおどろいたなぁ……。

 リフちゃんとかランゴくん、泣き出したりしないだろうか。


 白いカベが汚く黒ずんだ路地裏を通って、黄ばんだ汚いお店の入り口へ。

 この時点でもう、何人かがザワついてるよ……。

 とにかく、トーカが変な音のするトビラをあけて、私たちは変なニオイのする薄暗い店内へ。


「ばあさん、いるかい? アンタの孫娘が帰ってきたよー!」


 お店の奥にむかってトーカが呼びかけるけど、誰も出てこない。

 留守だったりするのかな。

 そもそも、ベアトはじっさいにはクレールさんの孫じゃないんだけど。


「……っ」


 ベアトが私から離れて、つかつかとカウンターへ。

 呼び出しベルを遠慮なく、チリンチリンと連打すると……。


「なんだい騒がしい……」


 白髪で目つきの悪いおばあさんが顔を出した。

 いや、いるじゃん。

 アレじゃないと出てこないのか、この人は。


「おぉ、ベアト! また来てくれたのかい? ……と、これはまた団体さんを連れてきたね」


 うわ、リーダーたちを見たとたん、孫に会えた喜びが一瞬にして消え去った。

 クレールさんってば、ものすごく面倒くさそうな顔してる。


「あー、ばあさん。すまねぇな、だが長居はしねぇつもりだ。詳しい話は奥で——」


「ぬうおおおぉぉぁあぁぁぁぁあっ!!? こ、これはっ!!?」


 リーダーの声をさえぎるように、店内に響きわたる絶叫。

 ふりむけば、ラマンさんがお店の商品を見てテンションを天井知らずに上げていた。


「間違いない! 三日三晩天日干しにし、その後三日三晩弱火であぶり続けたマンドラゴラの根っこ!」


「……ほう。まさかソイツが理解ワカるヤツがいるとはねぇ……」


 クレールさんも、機嫌直っちゃったよ。

 ニヤリと悪そうな笑顔を浮かべてる。


「当たり前さ! この冬虫夏草も、このグリフォンの骨も、特一級の秘薬の原料じゃないか! おいらにとって、まさに宝の山だよ!」


 わかる人にはわかるんだね。

 この店になじんでるベアトですら、ここの商品にはドン引きしてるってのに。

 高すぎる魚人の医療技術でないと、価値がわからないほどの代物だったってことか……。


「……気に入った。特別に一つだけゆずってやるよ」


「ほ、ほんと!? ど、どれにしようかな……」


 大喜びで棚の中をあさりはじめるラマンさん。

 あっけに取られる私たちに、クレールさんは親指でお店の奥を指し示した。


「ほら、あんたたち、いつまでボサっとしてんだい。さっさと奥に来な、営業妨害だよ」



 ●●●



 ベアトが聖女の力に目覚めた時、リーチェはエンピレオを介して彼女とリンクした。

 この奇跡は血のつながった双子だからこそか、聖女が二人になった結果なのか。

 いずれにせよ、リーチェにはベアトの位置が手に取るようにわかる。

 ベアトが近づけは近づくほどに、より正確に。


 妹がこの街の門をくぐった時、聖女リーチェはすぐに大司教フィクサーと、神官ソーマに呼び出しをかけた。

 計画に深く関わっている自らの乳母うばと、その懐刀ふところがたなである二人を。


 そして今、聖女リーチェは二人に対し、妹の到着を告げる。

 いつも通りの、穏やかな微笑みの仮面を貼り付けたまま。


「……来ました。とうとうベアトが、このピレアポリスに」


 もはやベアトは目と鼻の先。

 その位置どころか、一挙手一投足までをも感じ取れることに、リーチェ自身も驚きを感じていた。


「あぁっ、とうとうこの時が……。聖女さま、いよいよ我らの神が完成するのですね……」


「して聖女サマ、ベアト様は今どこに?」


「……クレールの家ですね。今はテーブルについて、何か話し合っているようです」


 ベアトの乳母であるベルナの母、クレール。

 ピレアポリスで妹が頼るならそこだろう、と当たりをつけてはいたが、まさにその通り。

 ここまでは計算通り、至って順調だ。


「まあ、クレールのところに。いかがしましょうか、ソーマ?」


「くくっ、お任せあれ。すでに仕掛けは終わっていましてな。今宵の月が沈まぬ間に、ベアト様は我らが手中に落ちましょう」


「さすが、頼もしい限りですね」


「では私は、最後の一押しといきましょう。お二方、お先に退出する無礼をお許しくだされっ」




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― 新着の感想 ―
[良い点] この「双子特有のリンク」って狡いですよね。リーチェは基本的に自分で動かないから位置はずっと変わりませんし、ベアトの方は彼女を信用しきってますから…。 クレールさん家での(主にラマンさんの)…
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