194 思い出せない
リーダーたちの話し合いの結果、聖地への出発は1日延期になった。
それと、少人数での行動も危険だからピレアポリスに滞在中は外出も買い物も禁止。
ってなわけで、今日はこの町で必要なモノを買い貯めすることになった。
買い出しのメンバーは、まずは体の大きなラマンさん。
担当は荷物持ちと薬剤、食材のセレクト。
「いいなあ、あの湖。泳ぎたいなぁ……」
この人、町の真ん中にある湖がやたらと気になってるみたいだ。
さっきから何度も話題に出してる。
「むしろ魚人さんって、水に入ってなくても平気なんスね。なんだか意外だったッス」
次にクイナさん。
担当は服とか雑貨。
この子、意外とそっちに強かった。
それから私。
担当は荷物持ちとみんなの用心棒。
そして私がいる以上は、
「……っ!」
当然ベアトもついてきてる。
コクコクうなずいて、クイナさんの魚人に対するイメージに同意してるみたい。
そして、最後にもう一人。
「おねえちゃん、おててごつごつしてるっ」
「あー、ごめんねリフちゃん。にぎり心地悪いよね」
「んーん、おかあさんたちもこんなんだったの。だからおねえちゃんのおてて、すきだよっ」
エルフの女の子、リフちゃん。
昨夜、あの事件があってからすっかりなつかれてしまった。
今も私と手をつないで、ニコニコ笑顔でとなりを歩いてる。
「魚人っつっても空気で呼吸するからな。他の亜人や人間とほとんど変わらないさ」
「いっつも水の中に住んでて、家も海の中ってイメージだったッスよ」
「……っ、……っ」
「そんなん溺れちゃうって……。海辺に町があって、そこでみんな暮らしてるんだけどな。魚人って他の種族と交流を断ってるから、変なイメージ持たれやすいのか……」
魚人のイメージと現実とのギャップに、ラマンさんがカルチャーショックを受けている。
ごめんねラマンさん。
私も今の今まで、ベアトたちとおんなじイメージ持ってたよ。
「な、なんか申し訳ない気分ッスね……」
「いや、いいのさ……。おいらたち魚人についての正しい知識、しっかり持ち帰ってくれればさ……」
「知識もいいけど、必要な物資もちゃんと持ち帰ろう。まずはどこから行く?」
会話に入って、話を買い物の話題にむりやり修正。
まとめ役のガラじゃないけど、ラマンさんはもっとむいてなさそうだし。
このままじゃダラダラ雑談しながら散歩してるだけで終わっちゃいそう。
「食べ物はかさばるし重いからな。まずは雑貨から行っとこう」
「ジブンの出番ッスね! はりきってセレクトさせてもらうッス!」
よし、方針決定。
はりきってるクイナさんを先頭に、私たちは商店のならぶ方へと歩き出した。
△▽△
キリエさんたち、ホントにいい人たちッスよね。
山道で行き倒れになってた見ず知らずのジブンを拾ってくれて、何も思い出せないのにこんなに親身になってくれて。
正直に言うと、最初はキリエさん、ちょっと怖いかなって思ってたんスけど……。
ずっと怖い顔してましたし、男の人だと思ってましたし。
でも、今はちゃんとわかってるッスよ。
「おねえちゃん、このおはなさんきれー」
「どれどれ? ホントだね。この髪飾り、リフちゃんに似合うかも」
「……っ」
「ベアトもそう思う?」
「……、……っ」
リフちゃんにあんなになつかれて、ベアトさんに心から信頼されてる人が、怖い人なわけないッス。
ホントは優しい人なんスよ。
……いや、ベアトさんのアレは信頼を通り越してるッスね。
今もリフちゃんとつないでない方の腕を抱きしめて、体を思いっきり寄せてるッス。
キリエさん、あの人の気持ちに本気で気づいてないんスかね?
「なら買ってあげようかな……。いろいろあるけどリフちゃん、どの色がいい?」
「んーとねー」
雑貨屋さんの店内で、お花の髪飾りを選ぶリフちゃんと、そのとなりにしゃがんで目線を合わせてるキリエさん。
ほほえましいッスね。
まるで本当の姉妹みたいで……。
「リフちゃん、あんなに楽しそうに笑って……。よかったなぁ……」
「うわっ、ラマンさん泣いてるッスか!?」
滝のように涙を流してるラマンさんに、思わずギョっとしてしまったッス。
なんでこの人、腕を組みながら仁王立ちで号泣してんスか。
「そりゃ泣くさぁ……。だってあの子、リーダーに保護されてからずっと一人で暗い顔してたんだぜ……?」
「一人で……、ッスか?」
「そうさ……。両親を戦争で失って、教団が運営する孤児院に入れられて、実験体として売り飛ばされて……。そりゃもうあの子の心はズタズタだったろうさ。毎日夜中に起きて泣きわめいて、見かねた姐さんがくまのぬいぐるみをプレゼントしたらちょっと落ち着いたんだけどな……」
「……」
思わず、言葉を失ってしまったッス。
あの小さな女の子に、そんな過去があっただなんて……。
「だから、あんな風にっ、楽しそうに笑って……っ、ふぐすっ!」
事情はわかったッスけど、それはそれとして絵面がヤバいッスね。
大柄な魚人が女の子三人をながめて号泣してるって……。
「と、とりあえずラマンさん。邪魔しちゃ悪いですし、今のうちにジブンたちで必要なモノ買っておくッス」
「お、おう、そうだな、っぐす。あんまり時間かけて、リーダーに心配させちゃ申し訳ないもんな」
「ッスね。ラマンさんは薬の材料、ジブンは包帯やタオルなんかを」
「ほい、了解!」
ラマンさんが駆け足で、乾燥トカゲや根っこが並ぶあたりへ。
あの一角に並んだ商品、異様な見た目で異様なニオイを放ってるッスけど、大丈夫ッスかね……?
まあ、そこは薬の専門家にお任せッス。
さて、ジブンも急がないと……。
「……これでよし」
買い物かごに包帯とタオルをつめこんで、買いもらしが無いかをチェック。
……うん、完璧ッス!
あんまり役に立てないぶん、こういうトコで皆さんを支えていけたら——。
「ちょっといいかな?」
「え……?」
だ、誰ッスか、突然……。
ふりむくと、そこには鎧を身に着けた女の騎士さんが。
長い金髪、りりしい目をしたその顔、どこか見覚えがあるような……。
「あ、あの、ジブン……、あなたとどこかで会ったことが……?」
「……あなたはそのままでいいの。用事があるのはあの方であって、あなたじゃないの」
意味わかんないッス。
この人、いったい何を言って……。
「だから少しだけ、お話させてね」
「え、あの……っ」
怖い、気味悪い、わけがわからない。
恐怖で一歩も動けないまま、この人の人差し指がジブンのおでこにゆっくりと近づいてきて、指先が軽くトン、と触れて。
「……あれ?」
ジブン、今までなにしてたッスか?
ここは雑貨屋さん、手にはたっぷりの包帯とタオルが入った買い物かご。
えっと……、たしかキリエさんたちと買い物にきて、ラマンさんと手分けして、包帯とタオルを買い物かごに詰めて、それから……。
「それから……?」
それからが、どうしても思い出せないッス……。
「クイナさん、いた! 何してたのさ!」
「あ、キリエさん、それに皆さん……」
頭をひねって必死に思い出そうとしていたら、いっしょに来ていた皆さんがジブンの方へ駆け寄ってきたッス。
とっても心配そうな表情で。
「もう……、ちっとも戻ってこないから、心配したんだよ?」
「え……? ジブン、そんなに長い間いなくなってたッスか……?」
「おいおいクイナちゃん、疲れてるんじゃないかい? おいら特製スタミナドリンク飲んで元気だしな」
「い、いや、それは遠慮しとくッス……」
何が入ってるんスか、それ……。
ともかく、どうやらジブン、それなりの時間ぼんやりしちゃってたみたいッスね。
ちょっと気味悪いッス。
「そこまで拒否されると傷つくなぁ……。ま、必要なモノはもう持ってるみたいだし、さっさと金払って次行こう」
「ッスね。次は食材ッスか……」
皆さんの役に立ちたかったのに、ムダに心配させちゃったッスね……。
それにしてもあそこまでぼんやりしちゃうなんて、ちょっとジブンが心配になるッスが……。
うん、きっといろいろありすぎて、疲れてるだけッスよね。




