189 最終目的
ケルファって子、言いたいことだけ言ってメロちゃんとトーカを呼びに施設の奥へと行っちゃった。
なんかモヤモヤするな。
言いたいことがあるならハッキリ言えばいいのにね。
ケルファに教えられた部屋に行くと、廃材再利用の木製テーブルに朝食が並べられてる最中だった。
こんがり焼けた食パンにベーコンエッグと、思ったよりちゃんとしたメニューだ。
干し肉とかの保存食でやりくりしてた私らと、どうしてここまで差がつくのか。
それはそれとして、あいてる席に適当に座る。
当然ながらベアトは私のとなり。
そのまたとなりにクイナさんって並びになった。
正面に座ってるリーダーが、さっそく声をかけてくる。
「キリエちゃん、聖女の嬢ちゃん、それにクイナちゃんだったか。おはようさん、昨夜はよく眠れたかい?」
「おかげさまで」
「……っ!」
「ジブンは、それなりッスかね……」
「そうか……。ま、昨日よりは元気そうで安心したぜ」
「だね。あとリーダー、聖女の嬢ちゃんって呼び方いろいろとまずいでしょ。前みたいにベアトちゃんって呼んでいいよ」
「……っ」
「おう、そうか。そういや、その子も俺を知ってんだよな。俺は覚えてねぇってのに、まったく変な感じだぜ」
他に部屋にいたのは、リーダーの仲間三人と、初めて見るこどもが二人。
一人は金髪のおさげ髪とだっこしたクマのぬいぐるみが目を引く、小さな女の子。
耳がとがってるしエルフかな。
もう一人は魚人の子供。
同じ魚人のラマンさんについて回って、私たちとは目を合わせようともしない。
たぶん人見知りするタイプだ。
「ねえりーだぁ、このひとたち、だれ?」
エルフの女の子が、リーダーのそでをクイっと引きながら質問。
「そっちの二人は昔の俺の知り合いだ。つっても、今の俺はよく知らねぇんだけどよ」
「うーん? よくわかんない……」
「あー……、なんて言やぁいいかな……。お前らに会う前の俺と会ったあとの俺は少し違うんだ」
私からしてみたら、びっくりするほど変わってないけどね。
根っこの部分がリーダーのままだって、これまで何度も思ったもん。
「とりあえずあいさつしてきな。これからしばらく世話になるんだ」
「うんっ」
女の子は元気よくうなずくと、イスからぴょんっと飛び降りて、とてとてと私たちのところに走ってきた。
「えっとっ、リフですっ。よろしくおねがいしますっ」
そして、元気よくペコリ。
よくできた子だね。
私たちの自己紹介を待たずに、言うだけ言って戻っていっちゃったけど。
「お待たせ、兄さん。連れてきたよ」
リフちゃんが自分の席にもどったタイミングで、トーカたちを連れたケルファがもどってきた。
ってか、今リーダーのこと兄さんって呼んだ?
「おう、戻ったか。ケルファの分はもう用意できてるぜ。腹減ってんなら先に食いな」
「いいよ、兄さんといっしょに食べる」
やっぱり、兄さんってリーダーのことだったんだ。
リーダーのとなりに座って、無表情だった顔をすっかりゆるめてる。
意味深なコト言ってたから不気味に思ってたけど、案外こどもっぽいトコあんのかもね。
でも相変わらず、男か女かわかんない。
「なんですかアイツ、リーダーさんの前だとぜんぜん態度ちがうですよ……」
「メロとちがって落ち着いてるし、装置のことも詳しかったろ? なにが不満なんだ?」
「それはその……、アイツに対するトーカの態度が……」
「アタシの態度が……?」
「な、なんでもないですっ!」
顔を赤くして、メロちゃんも着席。
……きっとトーカがケルファに優しくしたか関心したかで、やきもち妬いちゃったんだろうね。
「はい、お待たせ。おいらの料理は絶品だぜ?」
「料理といい薬といい、作る分野は大したもんだよな、ラマンってさ」
「引っかかる言い方だぜ姐さん!」
魚人のラマンさんが最後のお皿を運んできて、席につく。
全員そろったところで、ようやくの朝食だ。
このごはん、どうやらラマンさんが作ったらしい。
食材の方は、ディバイさんの氷魔法による冷凍保存だって。
なるほど、氷の魔法さえ使えれば新鮮な食材を持ち運べるのか。
私たち、誰も使えないけど。
さて、おいしく食事をいただきながら、さっそくリーダーに質問だ。
聞きたいことが山ほどあるんだから。
「ねえ、リーダー。私たちのことはトーカから聞いたんでしょ?」
私がベアトに治療されてる間に、こっちの事情はトーカから話してあるらしい。
だけど私たちは、リーダーたちのこれまでを何も知らないまま。
「リーダーたちのことも聞かせてよ。小さい子がいて話しづらいなら、後でもいいんだけど」
「……いや、こいつらもれっきとした当事者だ。おおかたのことは聞かせてある。なにが起きているのか正確に知ってねぇと、かえって危険だしよ」
そっか、この子たちも教団にさらわれた被害者なんだよね。
「で、なにが聞きたい。全部話せってんならかなり長くなるが……」
「……じゃあとりあえず、ヤツらがベアトを狙ってる理由とか目的。どんな小さなことでもいいから、心当たりがあるなら教えてよ。潜入して、いろいろと探ってたんだよね?」
「奴らの目的、か……。ベアトちゃんと関係あるかはわからねぇが、なんとかそれらしい情報は拾ってるぜ」
おぉ、さすがはリーダー。
私たちじゃさっぱりわかんなかった敵の目的を、しっかりつかんでたなんて。
「結論から言うと、奴らはどうやら神を造るつもりらしい。エンピレオに代わる神を、人の手でな」
「人の手で、神を造る……!?」
その目的、ちょっと私の想像を軽くこえていた。
おもわずリーダーの説明をそのまま繰り返しちゃうくらいに。
「……っ!?」
ベアトも同じく、口元を両手でおおって驚いている。
あの子からしても、想像だにしない内容だったみたい。
「そんなことが、可能なの……?」
「詳しいことはわからねぇがよ。人工的に勇者を生み出す実験と、人工的に魔物を生み出す実験。この二つを追っていたらたどりついちまったんだよ。その計画の存在を、掴んじまった」
たしかに、勇者も魔物もカミが——エンピレオが生み出したモノだ。
カミの創造物を人工的に作る、その研究の到達点がカミそのものでも、なんとなく納得できる。
「だがコイツは、敵さんにとっても最重要の情報だ。知られたとわかったとたん、奴ら本腰を入れて俺たちを追い始めてよ。ピレアポリスにゃいられなくなっちまったんだ」
「それでリーダーさんたち、この村にある地下施設まで逃げてきたですか」
「おう。ここの存在自体は、潜入調査の過程でつかんでたからな。廃棄されて長く、聖地からも遠い。隠れ家にはうってつけだ。……だが、それも昨日奴らにバレちまったんだがな」
「……あの、ちょっといいッスか?」
会話に入ってきたのはクイナさん。
えんりょがちに小さく手を上げて、リーダーに問いかける。
「結局のところ、この施設はなんなんスか? どうしてジブンの故郷の地下に、こんな施設が……」
「どうしてここにこんな施設が、って疑問には、悪いが答えられねぇ。だが、もう一つの方は割れてるぜ」
クイナさん、泣いちゃうくらい混乱してたもんな。
部外者ではあるけど、ここまで巻き込んじゃったんだし知る権利はあるよね。
……ただ、クイナさんが口を開いてからケルファがかなり怖い顔してるのが気になる。
「この施設は、人造生命体の研究施設だったらしい。人工的に生物を造る実験場ってことだろうな。……マジで神様にでもなったつもりなのかね、教団の連中はよ……」
「人造、生命体……」
クイナさん、それっきり黙っちゃった。
昨夜みたいなショックを受けてるっていうよりは、じっくり考えてるって感じかな。
「ともかくだ、そんなワケで俺らの居場所は今や敵に筒抜けだ」
話を戻したリーダーが、三人の仲間をぐるりと見回す。
そして、両手で机を軽くたたきながら提案をぶち上げた。
「一日でも早く拠点を移すべきだと思うが、どうだお前ら」
「引っ越しかい。いいねリーダー、次はもっとキレイな場所にしよう」
「おいら的には水辺が近いとうれしいな! ランゴもそう思うだろ?」
グリナさんもラマンさんも乗り気みたい。
ラマンさんが同意を求めたのは魚人のこども。
とつぜん話をふられてオドオド戸惑ったあと、
「う、うん……」
オドオドしながらうなずいた。
「おいおいお前ら、真新しい新居に移るんじゃねぇんだぜ?」
「はは、冗談だよ。で、どこに移るつもりだい? アテはあんのか?」
「もちろんあるぜ。行き先は敵の本拠地、ピレアポリスだ!」