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187 バルジの仲間たち




「人造生命体研究所……? なにそれ」


「詳しくは知らねぇが、資料にそう書いてあったからな。ま、読んで字の通りだろ」


 人工的に生命体を生み出すための研究所、か。

 なんか、魂を魔導機兵ゴーレムに閉じ込められてたゼキューを思い出すな。

 イーリアといっしょに戦った、あの大男。


「で、こんなトコにいて危険はないわけ?」


「元々は放棄された施設だったからな。俺らがここにいるたぁ夢にも思わなかっただろう。入り口もしっかりガレキで塞がれてたしな」


 入り口の辺り、やけにガレキが散らばってたのはそういうわけね。

 埋もれてたのをリーダーたちがどかしたのか。

 さすがにこんな場所を、誰でも入れる状態むき出しで放置しないよね。


「だが、俺たちがここにいるって、さっきの敵さんには間違いなくバレた。知られた以上は、早えぇうちにおさらばするべきだろうな」


 たしかにソーマの野郎、ここは当然知ってるだろうね。

 奴らが戦力をととのえてまた襲ってくる前に、さっさと行方をくらますべきだ。


「ま、そんな話はあとでいい。それよりも、先にコイツらにあいさつしな」


「……そういえば、この人たちは?」


 つい後回しにしちゃったけど、いろんな種族の亜人さんがいる。

 私以外、そのことに対して特に疑問を抱いてないみたいだし。


「こいつらは大神殿の地下で実験台にされてた奴らだ。俺が助け出してから、協力してくれるようになってよ。ま、平たく言やぁ仲間だな」


 なるほど、リーダーの仲間か。


「キリエちゃんはずっと気を失ってたから知らないだろうけどよ、神官野郎に捕まった嬢ちゃんを助けたの、こいつらなんだぜ? こいつらが機転を利かせてくれなきゃ、今頃その嬢ちゃんはここにはいねぇ。礼でも言っときな」


 そうだったの?

 ソーマのクソが瞬間移動したあたりから記憶がないんだけど、てっきりリーダーがなんとかしてくれたんだと思ってた。

 私の大事なベアトを助けてくれたなら、しっかりお礼しないとね。

 まずは話しかけやすそうな、オーガの女の人から。


「えっと……、ありがとう。この子はすっごく大事だから、とっても感謝してる」


「おう、当然のことをしたまでさ」


 ちょっと不愛想な言い方かな、と思ったけど、オーガのお姉さんはニカッと笑ってくれた。

 握手を求めて差し出された手をとって、がっちりにぎり合う。

 種族特有のものかな、手が大きめでゴツゴツしてた。

 私も似たようなものだけどね。


「わたしはグリナ。勇者のお嬢ちゃんだね、話はリーダーから聞いてるよ。ま、仲良くやろうぜ」


 見た目通りの豪快そうな人だな。

 白い歯を見せて笑いながら、握手した手をぶんぶんと上下に揺られた。


 次は魚人さんの前へ。

 この人、なんだかオドオドしてるような。


「あなたも、ベアトを助けてくれたんだよね」


「お、おうさ。おいらはラマンだ。実はちょっと製薬の心得があってね。キミが飲んでた解毒薬、おいらのお手製なんだぜ?」


「あの恐ろしい効き目の薬?」


「恐ろしいって、なんか人聞き悪いな……。魚人族は製薬技術が高くてさ、だいたいの難病なら治せるんだ。ただ、気難しいヤツが多くてね……」


 そういえば、対ブルトーギュの亜人連合軍にも魚人は参加していないんだっけ。

 西の果ての辺境に住んで、外界との接触を絶っている種族。

 謎に包まれた存在だって本で読んだけど、こうして接してみると別に普通だね。


「おいらの製薬技術も、故郷のヤツらにくらべたらぜんぜん未熟でさ……。でも、おいらの薬が役に立てたならうれしいよ」


「うん、とっても助かった。ベアトだけじゃなくて、私の命の恩人でもあるね。ありがとう」


 グリナさんと同じように握手。

 ただ水かきがあるせいで、ちゃんと握れなかった。


 そして最後に、ずーっと黙ったままの男の人。

 黒い髪で、片目が長い前髪に隠れてる。

 この人も、リーダーの仲間……なんだよね?


「あの、あなたも……」


「ディバイ」


「えっ」


「ディバイ、俺の名前だ……」


「えっと……」


 そ、それで終わり?

 これ以上話すことは何もない、と言わんばかりに黙ってしまった。


「ディバイはちょっと気難しくてな。ま、悪いヤツじゃないんだ。勘弁してやってくれ!」


 グリナさんのフォローが横から飛んできた。

 私もあんまり愛想よくないし、とやかく言う資格ないか。


 ……そういえばリーダー、前に子供も助けたって言ってたけど。


「他にはいないの? 三人だけ?」


「他には、ガキが三人いる。だが、助け出せたのはそれだけだ。一人助けるごとに、どんどん警備も厳しくなっていってよ。しまいにゃ情報を盗むだけで精いっぱいになっちまった」


「そうなんだ。……子供たちも、いっしょに行動してるんだよね」


「……巻き込みたくはねぇんだがな。まさか教団の息のかかった孤児院になんざ預けられねぇだろ。なんせアイツら、その孤児院に売られたんだからよ」


 そっか、ずっと行動を共にしているんだ。

 守らなきゃいけない命があるって、リーダーたちも大変だろうな。

 私と同じように。


「今はもう夜も遅いんでな。すやすや眠ってると思うぜ」


「あ、あの……っ! リーダーさん、もういいですよね? もうあたい、うずうずしちゃって仕方ないです! この施設、思う存分探索させてほしいのです!」


 話に区切りがついたとたん、メロちゃんが激しく自己主張。

 ずっとガマンしてたんだろうね。

 もう辛抱たまらないって感じだ。


「ダメだ。ガキどもが起きちまうから明日にしてくれ。つーかお前もガキだろ、とっとと寝ろ」


「うぅう……、トーカもなにか言ってくれです!」


「メロ、ガキは寝る時間だぞ」


「むっきー!」


 メロちゃん提案の地下施設の冒険、あえなくリーダーに止められてしまった。

 トーカの胸をぐるぐるパンチでぽかぽか叩くメロちゃん。

 二人のほほえましい光景、きっとベアトもにっこり笑って見守ってるんだろうな。


「…………」


 と、思ったけど。

 ベアトはキョロキョロ部屋を見回して、なんだか落ち着かない様子だ。


「どうかした?」


「……っ」


『クイナさん、いません。とってもしんぱいです』


「あぁ、あのメガネの嬢ちゃんか。疲れ切ってた様子だったからな、先に休ませたぜ」


 ベアトのかかげた紙に、リーダーがすぐに補足。

 あの子のことが気になってたのか。

 やっぱり優しいな、ベアト。


「だってさ。私たちももう休もう? いろいろあって疲れちゃった」


「……っ」


 リーダーたちからもっといろいろ聞きたいけど、もう本当にクタクタだ。

 今話を聞いても、頭に入ってくる気がしない。


「そうだぞ、メロ。今日はトーカお姉さんといっしょに休んで、明日改めて探検しような」


「や、約束ですからね!」



 このあと、私たちはグリナさんに案内されて空いてる部屋に通された。

 地下なら風もしのげるし、少しボロボロでも問題ないのがいいよね。

 トーカが背負ってた荷物から毛布とシーツを出して、ベアトと寄りそって眠りにつく。


 思えば長い一日だったな……。

 これからも、敵は全力で私をつぶしに、ベアトを奪いにくるんだろうか。

 どんな手を使ってきても、私は負けない。

 ぜったいにベアトを守り抜くんだ……。



 〇〇〇



「……朝です!」


「……ん? ……んん、なに……?」


「……っ?」


 メロちゃんの咆哮で、私たちは眠りから覚めた。

 ものすごい勢いだけど、なにか緊急事態でも……。


「探索です! この施設の謎を探る探検の時間です!」


「……あー」


 メチャクチャに高いテンションで、パジャマを脱いで着替え始めるメロちゃん。

 トーカも目をこすりながら体を起こして、大きなあくびをする。


「ふぁーぁ……。メロ、うるさいぞ……、何時だと思ってんだ……」


「探求心に時間など関係ないです! イマイチ頼りないですけど約束ですし、トーカもいっしょに行くですよー!」


「誰が頼りないんだ、誰が」


「あてっ!」


 私たちのそばでじゃれ合いはじめてしまったトーカとメロちゃん。

 もう、これじゃ二度寝どころじゃないね。


「……仕方ない。ついて行こうか、ベアト」


「……っ」


 もしかしたら、エンピレオの居場所や教団の目的につながるモノがあるかもしれないし。

 ベアトといっしょに寝床からはい出して、私たちも準備をはじめた。



 そうしてむかったのは、廊下の一番奥のひときわ目を引く両開きの扉。

 私とトーカで片方ずつをこじ開けて、部屋の中へと侵入する。

 まず目を引いたのが、部屋の真ん中に並ぶたくさんの大きな丸いケース。


「うわっ、すごいのですよ、これ!」


 天井知らずに上がり続けるテンションのままに、メロちゃんが駆け寄っていく。

 朝から元気だね、子供って。


「メロちゃん、あぶないよ? 割れたガラス片とか散らばってるし」


「これは……、なにかの培養カプセルでしょうか……。魔導生物生成用のモノに似ているのです……。なるほど、人造生命体研究所、本当のようですね……」


 聞いちゃいないね、すっかり分析モードだよ。


「トーカは落ち着いてるね」


「あたぼうよ。アタシはこの中じゃ最年長だよ? 大人の余裕というモノがだな……」


 さすがはお姉さん。

 でもね、体が小刻みにゆれてるよ?

 ワクワク感が隠しきれてないよ?


「……私たちも、近寄ってみる?」


 この部屋で一番目立つカプセル、まずはアレを調べてみるべきだよね。


「……っ」


 ベアトがコクリとうなずく。

 この子も同感みたいだね。

 ひとまず、培養カプセルとかメロちゃんが言ってた代物に近寄ってみる。


 カプセルの前には、たくさんボタンやランプがついたよくわかんないモノの残骸があるだけ。

 やっぱり私には、さっぱりわかんないや。

 かろうじてわかるのは、カプセルの中の一つ、その台座についたプレートに記された文字と番号だけ。


「実験体、番号917、か……」




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― 新着の感想 ―
[一言] 917……クイナかな? また新たな謎というか不穏な気配ががががが
[良い点] みんなちょっと癖があるけどイイ人たちですね、リーダーの仲間!特にラマンさん、ギフトスフィアの毒すら消し去るのに、これでもまだ未熟とか…あれ?もしかしてこれ、あの「眠り姫」を起こせる可能性が…
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