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180 頼もしき救援




「よぉキリエちゃん。どうした、あんな攻撃食らいそうになっちまって。らしくねぇじゃねぇか」


「リ、リーダー……?」


 そうだよ、間違いない。

 この人はリーダーだ。

 バルジ・リターナー、レジスタンスのリーダーで、ストラのお兄さん。

 そして、私が会いに行く予定だった人。

 聖地にいるはずのリーダーが、どうしてこんなとこに……?

 ……いや、それよりも。


「リーダー、記憶もどったの!?」


 私を助けてくれたし、今の口ぶり。

 まるで私のことを深く知ってるみたいだったし、もしかして……。


「いや、すまねぇ。あっちにいるドワーフの嬢ちゃんからお前の強さは聞いてたからよ。らしくねぇなと思っただけだ」


 ……そっか、まだ記憶はもどってないんだ。


「で、どうしたんだ。いくら根っこが突然生えてきたからって、あんなふうにけっつまずくなんてよ」


「敵の【ギフト】で毒、食らっちゃってさ。体の自由が効かなくなってきてるんだ……」


「……なるほどな。気休めかもしれねぇが、コイツを使いな」


 リーダーがポケットから小さなケースを取り出して、私に手渡した。

 中を確認してみると、黒い丸薬が五粒くらい。


「そいつぁ強力な解毒剤だ。【ギフト】の毒にゃ完全には効かねぇかもだが、動けるくらいにはなんだろ」


「ありがと、ホント助かる」


 口の中に一粒放り込んで、ゴクリと飲み下す。

 顔が歪みそうなほど苦かったけど、手足のしびれがスーっと引いていく感じ。

 ちょっと怖いくらいの即効性だ。


「……うん、これなら走って飛んでブチ殺すくらいはできそうかな。にしても、よくこんなの持ってたよね」


「ちょっと薬に詳しいヤツがいて、な」


 知り合いに薬師さんでもできたのかな。

 さて、敵さんの様子だけど。

 倒れ込んだ大木が消失して、男の大剣が元通りの大きさにもどる。

 木の根も出してたし、樹木を操る【ギフト】で間違いなさそうだ。


「ユピテル、惜しかったですな。あの男さえ来なければ、勇者殿は亡き者となっていた」


「あぁ、あの男中々やる」


 大剣を背中に担ぎなおして、ユピテルと呼ばれた大男がリーダーをにらみつける。

 そして、計画が大幅に狂っただろうソーマはというと。


「あなたのその顔……、知っていますよ。たびたび大神殿に忍び込んでいたコソ泥だ。いつからか姿を見せなくなりましたが、こんなところに隠れ潜んでいたとはねぇ……」


「へっ、神官サマにツラを覚えていただけてるたぁ光栄だな」


 リーダーを前にして、不敵な笑みを浮かべたまま。

 まだなにか策があるってのか。

 それと、あいつの口ぶりから察するに。


「リーダー、ピレアポリスから離れてたんだね」


「さすがにやり過ぎたようでな。本拠地のお膝元にゃいられなくなっちまった。……と、まあ詳しい話はあとだ」


「……だね。積もる話はアイツらをブチ殺してから」


 水神クレクレ男と脳みそ炎上女も私のことをにらんでる。

 のんきに近況報告してる場合じゃないよね。


「おいおい、そこは逃げるんじゃねぇのかよ……」


「やられっぱなしじゃガマンならないし。……っていうのは半分冗談」


「全部本気にしか聞こえねぇぜ?」


「変装までしてるのに、当たり前のように私を見つけていきなり襲ってきた奴らだ。逃げてもきっとすぐに見つかる。ベアトたちの安全のためにも、ここで一人でも戦力を削っとくべきだ。あと本音を言うなら全員殺したい」


 奴らにあっさり見つかったのには、きっとなにか理由がある。

 ただ逃げるだけじゃ状況が悪化するだけ。

 最低でも戦力を削っておかなきゃ。


「リーダーがダメって言っても、私は戦うよ」


「……へっ、わーったよ」


 リーダーが腰の剣を引き抜いて、ふところからギザギザのクシがついた短剣を取り出した。

 長剣とソードブレイカーの二刀流。

 記憶を失う前と変わらない、リーダーのバトルスタイル。

 きっと体にしみついた、一番しっくりくる戦い方なんだろうな。


「いっちょ、かましてやるか! ……と言いたいところだが、俺の力じゃあいつらのうち一人と互角ってとこだな。残り三人は任せていいか?」


「……あの、リーダーにはベアトたちをお願いしたかったんだけど」


 ソーマがなにか企んでそうで不気味だし、いざという時のためにリーダーについててほしいんだよね……。


「あの嬢ちゃんたちなら大丈夫だ。……俺は一人じゃねぇからよ」


 敵に聞こえないくらいの小声で、リーダーが小さくつぶやいた。

 他に仲間がいる、そういう意味かな。

 ……どうしよう、この人がそう言うなら、少しだけ信じてみようか。

 もちろん、ソーマの動きには常に警戒しなきゃだけど。


(ベアト……)


 最後に大切なあの娘の方へ、チラリと目をむける。

 ベアトはトーカの後ろに守られながら、私をまっすぐに見つめていた。

 信じてます、絶対大丈夫です、って。


(うん。絶対、守るからね……!)


 私を信じてくれてるあの娘のためにも、絶対に負けられない。

 気合いを入れなおして、私からベアトを奪おうとするクソッタレどもをにらみつける。


「さて、ご相談は終わりましたかな? 我々はまだ待てますが、ガマンのきかない問題児がおりましてな」


「勇者……ッ! ゆうしゃぁぁぁ……!!」


「ほれこの通り、今にも飛び出してしまいそうなのですよ」


 肩でフーフー息をしながら、今にも飛びかかってきそうなアレス。

 まるで鎖につながれた狂犬だ。

 ……私も人のこと言えないか。


「待たせてすまなかったな。こっちはいつでもいけるぜ」


「それは結構。では、戦闘再開といきましょうか」


 ソーマが指を鳴らした瞬間、三人の敵がいっせいに動き出した。

 ずっとリーダーをにらんでいた大剣男が、思った通りリーダーへとむかっていく。

 そして、残りの二人はもちろん……。


「勇者ァァァァァッ!!」


「今度こそ【水神】返してもらうかんなー」


 私にむかって迷わず一直線。

 だよね、こいつら最初から私しか見えてない感じだもん。

 うれしくもなんともないし、勘弁してほしいけどさ。


「やっぱりこう来やがったな。キリエちゃん、あいつの相手は俺に任せとけ!」


「……死なないでよ」


「おうさ!」


 リーダーは頼もしく返事を返すと、ユピテルとか言う大剣かついだ男にむかっていった。

 あの人といっしょに戦うの、あの日王都で別れて以来だけど、きっとあの時と同じ結果にはならないよね。

 ……さて、他人の心配はここまで。

 気を抜けば殺される状況は、まったく変わってないんだから。


「殺すッ、貴様だけはぁぁぁ!!」


 アレスの足が炎に包まれて、かかとから勢いよく火が噴き出した。

 まるで、魔導機竜ガーゴイルが加速する時の翼の噴射みたいに。

 奴の体が急加速して、ものすごい勢いで私に突っ込んでくる。


(なるほど、さっきの加速攻撃は【神速】じゃなかったのか……)


 もしかしたら人工勇者かもって思ってたけど、ここまで【神速】を使ってこないってことは、ヤツのギフトは【炎王】一つだけと見てよさそうだ。

 ただ、そうなるとメルクの言ってた人工勇者第二号は私の知らない誰かなのか。


練氣レンキ月影却ゲツエイキャク!」


 ヤツの速度に張り合うために、足に練氣レンキを集めてスピードアップ。

 胴体を両断しようとする高速の斬撃を、地面をゴロリと転がってかいくぐった。


 通り過ぎていくアレスはとりあえず放置して、上昇した素早さを活かしてメルクに斬りかかる。


「また毒漬けにしてやるよー」


「あんな攻撃、二度と食らうかっ!」


 つばぜり合いには持ち込ませない。

 敵が上段から振り下ろした刃を回避し、すれ違いざまに脇腹を狙って斬りつける。


「おおっとー」


 ザシュッ……!


 命中の直前、メルクが体を反らした。

 斬撃そのものは当たったけど、手ごたえが浅い。

 致命傷にはほど遠い、切っ先がかすめただけのカス当たりだ。

 ……ただ、その割には勢いよく脇腹から血が噴き出してるんだけど。


「いったいなー。ひどいことするなー」


 しかもこの血、暗くてよく見えなかったけど、紫色の毒々しい色をしてる。

 血は霧状になって、だんだんとメルクの体を覆っていき、


「もう許さねーからなー。【水神】返しても許さねーぞー」


 全身くまなく紫色のモヤモヤに包まれた、まるでガス状モンスターみたいな姿に変貌した。




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