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176 目指すは故郷




「はぁ……、はぁ……、や、やっと抜けた……」


「見直したですよトーカ。やればできる子です」


「悪いッスねトーカさん、ジブンよりずっとちっちゃいッスのに」


 両肩にメロちゃんとクイナさんをそれぞれかついで、息も絶えだえのトーカ。

 普通の人じゃ歩けないような岩場を抜けたところで、崩れ落ちるように二人を解放した。


 クイナさんを拾ったことで、運ばなきゃいけない子が一人増えて。

 ベアトを片手で抱えるなんて雑な扱い死んでもゴメンな私は、元々右肩でメロちゃんを担いでたトーカにクイナさんの運搬うんぱんを押しつけた。

 うん、正直なところ大変申し訳ないと思ってる。

 まあ、頼れるお姉さんに任せとけ、とか言ってドーンと胸を叩いたトーカもトーカだし、別に気にしなくてもいいか。


「はひ、はひ……、ちょっと休憩……」


「よーしよし、がんばったですね。いいこいいこしてあげるです」


「やめろ……、マジで……、つかれ、てんだ……っ」


 土下座姿勢でぐったりするトーカの頭を、雑にわしゃわしゃするメロちゃん。

 あの子、ホントトーカに対して遠慮がないよね。

 私とベアトはちゃんと年上扱いしてくる分、よけいにそう思う。

 それだけ仲がいいってことだろうな。

 ……さてと、短い休憩の間にクイナさんへ質問だ。


「クイナさん、パラディ出身だよね。山脈をこえたあと、まずはクイナさんを故郷に送ろうと思うんだ。おうちでゆっくり休んでいれば、きっと少しずつ記憶を取り戻せると思う」


「なんか悪いッスね。みなさん急ぎの旅っぽいッスのに、ジブンのために寄り道なんて……」


「気にしないで。詳しくは言えないんだけど危険な旅の真っ最中だし、いざという時守らなきゃいけない人数は少ない方がいいって打算もあるんだから」


「それでもありがたいッスよ。ただでさえ命の恩人なんスから、キリエさんには感謝の気持ちでいっぱいッス」


「……感謝なら、ベアトにしてあげて」


 だって私、ベアトがいなかったら普通に見捨ててただろうから。


「もちろん感謝してるッス。ありがとうッス、ベアトさん」


「……っ」


 お礼を受けて、私にお姫様だっこされたままのベアトがにっこり笑う。

 それにしても、クイナさんの記憶が消えていたのは好都合だったな。

 パラディの一員ってことは、秘密にされてるリーチェの顔も知ってた可能性だってあるし。


「で、クイナさんが住んでたとこの、詳しい場所なんだけど……」


「ジブンが生まれ育ったのはロッカの村。山脈東側のふもとにあるリーノの村から、北に一日くらい行ったとこッス」


「なるほど、じゃあまずはリーノの村か。ふもとってことは近いんだよね」


「近いッスよ。なんせこの山脈を越えたところ、山道の終点ッスからね」


 だったら好都合か、余計な寄り道しないですむし。


「……よし。トーカ、休憩終わり。急ぐよ」


「うぇぇ……、りょーかい……」





 翌日のお昼すぎ、私たちは山越えを終えてとうとうパラディに入国した。

 目的地のピレアポリスまでは、まだまだ距離があるけどね。


 山道の終点・リーノの村は、木造の建物がならぶのどかな山村さんそんって感じ。

 パラディの入り口の一つには違いないんだけど、東ルートが危険すぎるせいで、ちっともにぎわってない。

 他の村よりちょっとだけ旅人向けの施設が多いかなって程度だ。

 ただ、亜人と人間が普通に共存してるのは永世中立国パラディならではの光景かな。


 もう日が傾きはじめてるし、トーカが体力を使いはたしてグロッキーだし、今日はこの村に泊まることにした。

 目についた適当な宿屋の扉を開けると、


「はい、いらっしゃい。珍しいね、旅人さんなんて」


 出迎えたのは魔族のおばちゃん。

 山脈のむこう側では考えられないけど、パラディじゃ普通なんだよね。


「五人で二部屋、二人部屋と三人部屋でおねがいしたいんだけど、空いてる?」


「そりゃもうガラガラだよ、田舎の宿屋だもんさ。しっかし、二人部屋ねぇ……。むふふ、シーツの替えを用意しなきゃいけないかい?」


 ……なんか前にも似たようなこと言われたような気がする。

 宿屋のおばちゃんって種族を問わずこうなのかな。

 ベアトもなに顔を赤くしてるのかな。


「ところで旅人さんたち、こんな田舎になんの用事かね? めったに使われない登山道以外、本当になーんにもないよ?」


「ジブン、ロッカの村が故郷なんスよ。この人たちに送ってもらう途中なんス」


「あら、そうなのかい。……でもね、行くのはやめといた方がいいよ?」


 ロッカの村の名前が出たとたん、おかみさんの顔からほがらかな笑みが消えた。


「やめとけって、何かあったのか?」


「気になるですよ、そんな意味深な……」


「いやね、もったいぶってるワケじゃないんだけど、おばちゃん驚いちゃって」


 誰も聞いてないだろうに周りをキョロキョロ見回したあと、なぜか手招きして小声で。


「だってあの村、三年前に滅んだだろ? もう廃墟しか残ってないし、危ないよ。悪いこと言わないからやめときな」


「……ほ、滅んだ……ッスか?」


 おばちゃんが告げた情報は、クイナさんにとって衝撃的すぎるモノだった。



 △▽△



「リーチェ様、ベアト様がパラディにお戻りになられたとか」


「ええ。自分からもどってくるだなんて、ベアトは本当に可愛い妹です」


 聖女リーチェの私室にて、神官ソーマは彼女の前にひざまずく。

 リーチェのかたわらに立つのは、側仕えのノア。

 妹の名を口にした聖女は、まるで天使のような笑みを浮かべていた。


「今あの娘は……リーノの村、あたりにいますね。山脈のこちら側に来たからか、おおよその位置はわかります」


「驚きですなぁ……。遠く離れても居場所がわかるなどとは、双子のみに起こる奇跡なのでしょうか」


「聖女のみに起こる奇跡です。あの娘と私、二人の聖女のみに起こせる奇跡。事実、あの娘が目覚めるまでは、このような現象は起きませんでした」


 ルーゴルフとの戦いで、ベアトが聖女の力に目覚めた時。

 あの瞬間、リーチェは妹の覚醒を感じ取り、歓喜にうちふるえた。

 長年の計画が最終段階へ進んだことに歓喜し、同時に失敗を恐怖した。

 もはや手段は選ばない。

 天使の微笑みをたたえた聖女が、神官ソーマに命を下す。


「ソーマ、妹をここに連れてくるのです。あなたに与えた【ギフト】の力で」


「ええ、ええ、もちろんですとも。さしあたっては、アレスを含めて三人ほどお貸しいただけますかな? この距離で私が運べる(・・・)限界の数です」


「もちろん、戦力の出し惜しみなどいたしません。手段も問いません。なんとしてでも妹を生きたままここに連れて来るのです」


御意ぎょいに、聖女様……」


 神官は深く頭を下げ、聖女の私室を退出する。

 その背を見送る聖女リーチェは、まるで貼り付けたかのような微笑みを浮かべ続けていた。




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