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171 幕間 二人の女王・それぞれの道へ




 キリエたちが姿を消して数日後、リアさん率いるコルキューテの魔族たちは本国へと戻っていった。

 ガープさんを始めとした多くの仲間の、氷づけにした亡き骸といっしょに。

 やっぱり故郷に帰してあげたいよね。

 遠い異国で戦って、ずっと帰れないままなんてかわいそうだもん。

 ……同じく氷づけにされたタルトゥスの首はまた別だけど。

 アレはきっと城門に晒すためだ。


 バルミラードの方は、バルバリオがみんな知ってた正体を大公表。

 デルティラードの属国になるか、それとも王国に吸収されて飛び地扱いになるかはまだ未知数。

 とりあえず国に戻ってから考えるって、サーブさんが頭を痛めてた。


 そしてあたしたちスティージュ組も、いよいよ明日帰国の旅路に出る予定だ。

 つまりペルネとはもう、これまで通りに会えなくなるわけで……。




「というわけで、来ちゃった!」


「来ちゃったって……。王の寝室に気軽に来ちゃっていいんでしょうかね……」


「いいのいいの、あたしも女王様! だから問題なし!」


 入り口にいたメイドさんも、暖かい目で通してくれたし。

 女王様のお部屋にネグリジェ姿で突撃して、同じベッドに寝っころがる。

 いっしょに過ごせる、これがきっと最後の夜なんだし、このくらいのワガママは許してよ。


「ふふっ、もう……。とことんまで自由な女王様ですね」


「スティージュがユルめなのが悪いのだ」


 持参したマクラを抱きしめて、ペルネの横にゴロン。

 二人で顔を合わせて微笑み合う。

 でも、キリエたちのことを思うと笑ってばかりいられないよね。

 自然と顔が暗くなって、ため息がもれた。


「……キリエ、だいじょうぶかな」


「信じましょう。私たちにできることは全てやりました。あとは勇者様を信じて待つだけです」


「結局のところ、それしかないんだよね」


 物資の支援以外にも、私たちがやれる範囲で手は打った。

 勇者様は西へむかった、いや北だ、東だ、なんて錯綜さくそうした情報を城下で流させたり、そもそも濡れ衣だってウワサまで流してやっている。

 もちろん、出所を特定されないように気をつけて。

 効果があるかどうかはわかんないけど、パラディの目を少しでも誤魔化せて、キリエの名誉を守れたらいいな。


「はぁ、もどかしいなぁ……。女王様って、もっとなんでもできると思ってた」


「なんでもできる人なんて、この世に誰もいませんよ。それこそきっと、神様くらいです」


「神様、かぁ……」


 神様と聞いてまっさきに思いつくのがエンピレオ。

 きっと世界中の人がそう。

 あたしだって、ちょっと前まで本物の神様でこの世の救い主だって思ってた。


「ねえ、神様なんているのかな?」


 キリエが言うには、エンピレオは神様なんかじゃない。

 魔物を生み出してる根本の存在で、魔物や人の魂をエサにして生きているただのバケモノ。

 だったら、本当の神様は?

 あたしたちを生み出したのは、いったいどこの誰なんだろう。


「難しい質問ですね……。エンピレオ以外にも、あちらこちらに信仰されてる神様はいます。しかし、どれも精霊のたぐいだったり過去の偉人を神格化したり、といった感じですね。全知全能の神様なんて、ひょっとしたらいないのかもしれません」


「でも、いるかもしれない。あたしたちが考えたって、答えなんて出ないんだね。はぁ……、ホントなんにもできないしなんにもわかんない。女王様もただの人間だー」


 ぐったり、ふかふかベッドに体をしずめてふかーいため息。


「そうですよ、私たちはただの人間です。だからさみしい時もあるし、泣きたい時もあるんです」


 さみしい時、かぁ……。

 ふと気になって、ペルネに聞いてみる。

 こんなこと聞くの、ちょっと恥ずかしいけど。


「ねえ、ペルネはさみしい? 明日からあたしに会えなくなるの、さみしい?」


「え……?」


 ペルネが目をまんまるくして驚いた。

 そんなカオすると思わなくって、あたしも同じく驚いた。


「……ストラさんはどうなんですか?」


「聞いてるのはあたし。どうなのさ、さみしい?」


 ごまかそうとしてるけど、そうはいかないよ。

 ここはグイグイ攻め込んでやる。


「…………う、うぅぅ……っ」


 こんな顔赤くして言葉につまってるペルネ、なんかはじめて見たかも。


「ねえねえ、どうなのさ。あたしと会えなくなって、さみしいの?」


「……さっ」


「さ?」


「さみ、しいですよ……ぉ」


 ペルネがとうとう白状した。

 真っ赤になりながらしぼり出すような小さな声で。

 なんかいじめてるみたいで、申しわけない気分。

 と同時に、言葉にできない嬉しさもこみあげてきて……。


「……あたしも。あたしもさみしい! だからペルネ、今日はくっついて寝よ! ぎゅーって!」


「ひゃっ!」


 抱きしめてたマイ枕を放して、代わりにペルネの体を抱きしめた。


「ちょ、ストラさん……!」


「……いや?」


「いやじゃ、ないです……。もう、今夜が最後ですから、特別ですからね」


「やったっ!」


 ペルネといっしょの最後の夜は、女王様とくっついて、抱き合って。

 ……でも、これがホントの最後ってわけじゃないから。

 公務のヒマを見つけたら、ぜったいまた会いにいくからね。





 翌日、天気は曇りと晴れの半分半分。

 お城の正門前広場には、スティージュの騎士団員がビシッと整列している。

 率いているのは大兄貴とレイドさん。

 そしてあたしは馬車の出発を待ってもらって、ペルネとの別れを惜しんでいる。


「ペルネ、わざわざ見送りありがとね。忙しいだろうにさ」


「いいんです。ストラさんを見送ることより大事な公務が入ってなかったので」


「ちょっと、そこは『ストラさんを見送るよりも大事な公務なんてありません』じゃないの!?」


「ふふっ。そうやって言われたかったんですか?」


 う、思わぬ反撃が飛んできた。

 昨夜のアレで、調子に乗り過ぎたかも。

 ちなみに小声で話してるから、まわりの騎士さんや大兄貴たちには聞こえてません。

 たぶん。


「ストラ陛下、そろそろお時間です」


「ん、わかった。今行くね」


 大兄貴にかしこまった態度を取られるの、いまだにむずがゆい。

 おおやけの場所だから仕方ないんだけどね。


「……それじゃ、行くね。さみしいけど、きっとすぐまた会えるから」


「ええ、また会いましょう。いつでもデルティラードに来てください、待ってますから」


「ペルネもスティージュに来てよね? 我が国の良いところ、まだいっしょに楽しみ足りないもん」


「考えておきます」


 最後に両手をぎゅっとにぎりあってから、ペルネに背をむける。

 そして、大兄貴とレイドさんがひかえてる馬車の方へ。


「陛下、ずいぶんペルネ陛下と親しいんですね」


「でしょ? レイドさんが知らない間にあたしたち、かなり仲良くなったんだから」


 両国の関係のためになるかもしれないけど、そういうペルネと仲良くなった理由にそういう打算は一切抜き。

 あたしたち、とってもウマが合うみたい。


 馬車にのりこんで、扉がしまって、ゆっくりと動き出す。

 正門を出て、お堀を渡って、大通りを進んで、少しずつ遠ざかっていくディーテのお城。

 ペルネの姿も見えなくなって、あたしはまっすぐ前をむく。


 新米女王様とよくできたメイドさんのお話は、こうしていったん幕を引いたのでした。




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