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167 予期せぬ来客




 翌日の早朝、私とベアトはペルネ姫に呼び出されて、謁見の間にやってきた。

 なんでも大事な来客がくるから、今日の謁見に参加してほしいんだって。

 髪飾りを外してくるように、だなんて注意までされて。


(誰だろ、大事な来客って)


 ペルネ姫が玉座に座って、そのかたわらにストラも腰かけてる。

 なんか女王様が二人いるみたいだな。

 ギリウスさんや貴族連中たちといっしょに壁ぎわで並んでその来客とやらを待っていると、盛大にファンファーレが鳴らされて謁見の間の扉が開いた。


「やあやあ、女王陛下。ご機嫌うるわしゅう……」


 ……ウソだろ。

 謁見の間に入ってきた男を目の当たりにして、私は目を疑った。

 パラディの神官ソーマ。

 ヤツがカーペットを堂々と歩いて、ペルネ姫の玉座の前でひざまずく。

 昨日お城に来たばっかのアイツが、どうして今日ここにいるんだよ。


「……神官ソーマ様、お早いお戻りですね。パラディにお戻りになられたはずでは?」


「ええ、戻りましたとも。ちょいと、あるモノを使ってね」


 ヤツはニヤリと笑いながら、なにかをほのめかす。

 ここからパラディ本国まで、一晩で往復できる手段を持ってるってのか。

 魔導機竜ガーゴイルですら数日かかるのに。


「……そうですか。パラディの秘術をもってすれば、不可能ではないのでしょうね」


「ええ、それはもう。……さておき、大司教様に報告を上げましたのですが、その時ふと気になる事案を耳にしましてねぇ」


 大司教……、たしか聖女に代わって実質的にパラディを取り仕切る人だったっけ。

 それはいいとして、なんだか胸さわぎがする。

 いったいコイツ、なにを聞いてきたっていうんだ……?


「なんでも数か月前、パラディの至宝たる勇贈玉ギフトスフィアの一つが盗まれたとのことで。その勇贈玉ギフトスフィアの名は、【水神】」


 その名前を聞いた瞬間、背中から汗がふき出した。

 なんでコイツ、ここで【水神】の名前を出してくるんだ。

 私がアレを持ち出したって知ってる目撃者なら、あの場で全員始末したはずなのに。


「【水神】……」


「ええ、【水神】です。それを盗んだのが他でもない、勇者キリエ様だというウワサですよ」


 ニヤリと笑いながら、ソーマが私に挑戦的な視線を送った。


(クソ、まずい、バレてる……! でもどうして……)


 髪飾りとして堂々とつけてるのがいけなかったのか?

 でも、勇贈玉ギフトスフィアって存在そのものが隠されてるし、見ただけじゃただの色のついた石、普通の宝石と変わらない。

 青い石なんてありふれてるし、そこから私にたどりつくなんて不可能に近いはず……。


(使ってるところを見られた? でも……)


 おおっぴらに使ったことがあるのは、砦の上でタルトゥスの生首をつつんだ時だけ。

 アレだって、私が水を持ち歩いてることは有名だし、普通に取り出したように見える出し方をしたはずだ。

 魔力の反応で探ろうったって、私の魔力とごっちゃになってわかんないよね……。


(……いや、考えるのはあと。この状況を利用して、次にヤツがしかけて来るのは……)


 ヤツらの狙いはベアト、これは間違いない。

 今はこの子を守るためにできることを考えろ。


「勇者様がパラディに、秘宝を盗みに入ったと? そのようなウワサ、証拠はあるのですか?」


「ええ、そりゃもうありますとも。……アレス、こちらへ」


 ソーマがパチン、と指を鳴らすと、女剣士がヤツの背後に姿を現した。

 どこからともなく、まるで超スピードで現れたみたいに。

 そいつの顔は、頭全体をおおうタイプのフルフェイスヘルムに隠されてわからない。

 けど、顔なんてどうでもいい。

 問題は、ソイツに両手をつかまれて吊るされてる小柄なドワーフだ。


「トーカ……っ!」


 謁見の間が、ざわめきに包まれた。

 ぐったりとしたまま、ピクリとも動かずに吊るされてるトーカ。

 死んでる、のか……?


「あのヤロ……ッ!」


 ガシッ!


 頭に血がのぼって飛び出しそうになった瞬間、ごっつい手が私の肩をつかんだ。


「ご安心を、皆さま。彼女は気を失っているだけ、命に危害は加えておりませぬゆえ」


「と、いうわけだ。ひとまず落ち着け」


 ギリウスさんに諭されたのと、トーカが呼吸してるのを確認したことで、私は冷静さを取り戻す。

 ここは相手の出方を見ろってことだね。

 ……うん、爆発しそうな殺意、なんとかこらえてみるよ。

 コクリとうなずくと、ギリウスが私の肩から手を放した。


「用事があるのは彼女の命などではなく、彼女が首に下げているコレなのです」


 あの野郎、トーカの首に手をまわして【機兵】の首飾りを外しやがった。

 鎖を持って高々とかかげ、この広間にいる全員に見せつける。


「ごらんください、このドワーフが身につけている首飾りにハメ込まれた、黒い小さな玉! これこそが【機兵】の勇贈玉ギフトスフィアなのです!」


 アレスとかいったっけ、あの仮面剣士が、もう用済みだって感じでトーカの体を床に放り捨てた。


「アイツ……っ!」


 【機兵】の首飾りを懐にしまって、ヤツは再びペルネ姫にひざまずく。


「さて、女王陛下、この事実はご存じでしたかな?」


「…………。……いいえ」


「ストラ陛下は?」


「…………知りません」


 二人とも、とっても辛そうだ。

 いいよ、私は気にしてないし、これっぽっちも恨まないから。

 国のためにはそれが正解だよね。


「でしょうな。ま、もし知っていたとしても、どうでもいいことですが。パラディもあなたたちと(・・・・・・)コトをかまえるつもりはありませんので」


 あの言い方、つまり私とは戦う気満々ってことだろ?

 いいさ、上等だよ。


「……キリエ、これを」


 ギリウスさん、私に小声で呼びかけながら小さな紙切れをこっそり渡してきた。


「……後で目を通しておけ」


 うなずいて、すぐポケットにつっこむ。

 そろそろ潮時ってことだよね。


「ですがっ!!」


 さて、ソーマの主張もクライマックスだ。

 立ち上がって両手を大きく広げながら、私に人差し指をつきつけた。


「あなたは知っていましたね、勇者キリエ。知っていて隠していた。違いますか?」


「……知ってたよ。だからなに?」


「聞けばあなた、普段から翼の髪飾りを身につけているとか。青い石がハメ込まれた髪飾りです。今日はつけていないようですね、思えば昨日も。何故ですかな?」


「回りくどい言い方すんなよ。全部わかってんだろ? ハッキリ言ったらどう?」


 言い逃れなんて出来ないって、とっくにわかってるさ。

 大切な翼の髪飾り、お望み通り堂々と着けてやるよ。

 ベアトに作ってもらった大切な宝物をポケットから取り出して、パチンと前髪を留める。


「神官さん、これで満足?」


 もう隠さない。

 青く輝く光を逆に見せつけてやるみたいに、ソーマの野郎をにらみ返してやった。


「……ふはっ、ふはははははっ! 語るに落ちましたな! ご覧の通りです、勇者殿は聖地ピレアポリスに忍び込み、至宝を盗み出した! そのような者にベアト様を任せられましょうか!!」


 ジョアナを埋めてから、私の心の中のブチ殺すリスト、エンピレオって名前以外空欄だらけだったんだよね。

 今思いっきり刻んでやったよ、ソーマって名前をさ。


「……っ」


 不安げに私を見上げるベアトの小さな手を取って、ギュッとにぎる。

 大丈夫だよ、絶対離さないから。

 ベアトは誰にも渡さない。


「さあ勇者殿、【水神】とベアト様を引き渡してもらいましょう。さすればこの件、特別に罪には問いませぬ」


「……あのさぁ。私のことずいぶん調べてくれたみたいだけど、この状況で私がベアトを渡すと本気で思う?」


「ふふふっ、いいえ。残念ながら微塵みじんも思いませんねぇ」


 だろうね。

 つまりこれから私が取る行動は、パラディの計算通りってわけか。

 むしろソイツが目的か。

 いいさ、乗ってやる。


「ベアト、行くよ。舌噛まないようにね」


「……っ」


 にぎった手をひっぱって、ベアトを素早くおぶる。

 同時に、足に練氣レンキを集めて月影脚ゲツエイキャクを発動。

 一瞬でトーカに駆け寄って、右の小脇に抱え上げた。


 今の私の動き、普通の人にはまったく見えないはずだけど、


「勇者……っ」


 アレスってヤツ、しっかり目で追えてるみたいだね。

 フルフェイスの奥から、ものすごい殺意を感じる。

 だけど一切相手にせずに、入り口の扉まで全力でダッシュ。

 両開きの大きな扉を壊さないように蹴り開けて、廊下に飛び出した。


「逃がすな! 追うのです、アレス!」


 捕まってたまるか、このまま城外まで逃げ切ってやる。

 たとえそれが、英雄となった私を堂々と始末する大義名分を得るための、お前らの思惑通りの行動だったとしても。




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