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160/373

160 らしくない




 ベアトと二人で城内をブラブラと歩いてたら、一階と二階をつなぐダンスホールに出た。

 あの革命の日、この場所で第二王子コーダと戦ったんだよね。

 なんだか遠い昔のことみたいで、不思議な気分だ。


「……?」


 物思いにふけってたら、ベアトが何かを見つけたみたい。

 ホールのすみの方をじーっと見てる。


「なにかあった?」


「……っ」


 私の言葉にベアトが指をさす。

 その先にはメロちゃんとトーカの姿。

 あの二人、こんなところにいたんだ。


「声、かけてみる?」


「…………、……っ」


 なぜかかなりの間があったあと、コクリとうなずくベアト。

 私たちはホールの階段を降りながら、二人に声をかける。


「二人とも、なにしてるの?」


「お、キリエお姉さん、それからベアトお姉さんも。あたいらは宴会抜けだして、お城の造形や美術品とかいろいろと見て回ってたですよ」


「さすが天下に名高いデルティラード王国の王城。スケールも建築技術も素晴らしいの一言だぞ」


 ホールの手すりをなでながらホクホク顔のトーカ。

 この二人らしい楽しみ方だな。

 私はそういうの、あんまり興味ないから。


「メロちゃんたち、パーティー抜けだしてきたんだ。どうして?」


「どうしてって、顔出してたらわかるはずだけど。もしかしてまだ覗いてないのか?」


「パーティーに顔出すような気分じゃなくてさ……。こうしてベアトとお城の中を散歩してる」


「……なるほど。だったらこのまま行かない方がいいと思うぞ。忠告はしたからな」


「あのノリはちょっと、ですよね……」


「……っ?」


 なんだろう。

 二人して意味深な発言を。

 ベアトも不思議そうに小首をかしげる。

 そういえばさっき、パーティーのことを宴会とか言ってたような……。


「それにしても、お元気そうでなによりです。さっきまで死にかけてたとは思えないですよ」


「ベアトのおかげだよ。この子が来てくれなかったら、本当に死んでたかも」


 メロちゃんたちにもいらない心配かけちゃったみたいだね。

 神託者の口車に乗らずに、みんなにも行き先を話しとくべきだった。


 ……ダメだな、私。

 いまだにジョアナと神託者のことを別人として考えてる。

 心がまだ、事実を事実として受け入れられてない証拠だ。


「それで、仇は討ったんだよな。逃げられたりしてないよな」


「……うん、神託者は仕留めたよ」


「そっか……。うん、よかったな」


 トーカにポン、と肩を叩かれる。

 体は小さくても、見た目は子供でも、トーカはお姉さんだ。

 アイツと同じ、頼れる年上のお姉さん。

 あぁダメだ、またアイツのこと……。


「……どうした、暗い顔して。悩みがあんならお姉さんが相談に乗ってやるぞ」


「……大丈夫、なんでもないよ。私が悩むようなタマだと思う?」


 そうだよ。

 こんな風にウジウジ悩むなんて、私らしくない。

 これまでずっと、目的のために迷わず進んできたじゃんか。

 今の私の目的は、パラディからベアトを守ること。

 そしてこの世界のどこかにいるエンピレオを見つけ出すことだ。


「ホントか? ならいいんだけど、ムリだけはすんなよ」


「……むむっ、トーカ、もしかしてコレじゃないですか? キリエお姉さんの悩みって」


 メロちゃんがなにかに気づいた様子。

 あごに指をそえて、私の腰にぶらさがった剣の無いからっぽの鞘をジロジロと眺めまわす。


「あ、あぁ、そうだった。実は神託者との戦いで失くしちゃったんだ。ごめんねトーカ、せっかく打ってくれた剣なのに」


 真紅のソードブレイカーは、今ごろ神託者といっしょに地の底。

 トーカにきちんと謝らなきゃ。


「……いいさ、仇討ちのために必要なことだったんだろ? それにさ、アタシも気になってたんだ。あの剣の元になった赤い鉱石のこと」


 鉱山の奥にあった、魔物を生み出す赤い石。

 かつて赤い星が降ってきた時、世界中に飛び散ったもの。

 魔物を生み出しているのがエンピレオだっていう神託者の——ううん、ジョアナの話も考えれば、アレは間違いなくエンピレオ由来の物質だ。


「パラディの地下であの石から魔物が生まれるのを見て以来、なんだか気味が悪くてな」


「トーカも引っかかってたんだ……」


「だから気にしなさんな。お姉さんがまた、アレ以上の剣を打ってやるからさ! くよくよしてるなんてらしくないぞっ!」


 バシン、と背中を叩かれる。

 年上のお姉さんのはげましで、少しだけ心が軽くなった気がした。


「……うん、ありがとう。こんなの私らしくないよね。ちょっと祝勝会にも顔出してくるよ。いこ、ベアト」


「え゛っ……、お姉さん、それはやめた方が……」


「あー、止めてやんなメロ。行けばすぐにわかるだろうからさ……」


「……っ?」


 さっきからなんなんだろ、この反応。

 ま、トーカの言う通り行けばわかることだ。

 ベアトの手を引いて、私たちはパーティー会場へとむかう。

 シャツにホットパンツのラフな格好で乗り込んでもいいのかな、と若干の不安を覚えつつ。



 ○○○



 結論から言うと、祝勝会のパーティー会場はラフな格好でもぜんぜん平気だった。

 なぜなら貴族サマが出てくるような堅苦しいのとはかけ離れた、カオスなパーティーだったから。


 鎧姿の兵士さんたちは酒を浴びるように飲み倒し、レイドさんが騎士団のみんなと肩を組んで、たぶんスティージュの漁師さんの歌を熱唱。

 バルバリオとカミルなんて、会場の中心で腰をくねくねしながら踊ってるし。


「どうなってんの、これ」


「……」


 きれいなダンスホールに似合わないバカ騒ぎ、これはもはやただの宴会だ。

 優雅なダンスパーティーを想像してたぶん、あまりのギャップに目まいがした。


「ストラもいないし、ペルネ姫まで見当たらない……」


 それからイーリアとリアさんも。

 この二人はだいたい予想つくけどね。

 それぞれベルとビュートさんに付きそってるんだろうな。


 正直、このバカ騒ぎには入っていく気が起きない。

 トーカとメロちゃんが抜けだしてきてた理由、よーくわかったよ。

 どうしよう、このままこっそりいなくなろうか。

 酔っ払いにからまれても面倒そうだしなぁ……。


「……む? おぉ、キリエにベアト、来てくれたか!」


「ギ、ギリウスさん、機嫌良さそうだね……」


 気さくな感じで話しかけてきたギリウスさんに、少しギョッとする。


「あぁ、そりゃ良いさ。あの日果たせなかったことを、やっと成し遂げたんだからな。今日くらいはハメを外させてくれ」


 けど、根はやっぱり真面目なんだよね、この人。

 麦酒をなみなみ注いだ木のジョッキを片手に、頬をほろ酔い加減に染めてたとしても。


「あんまり外しすぎないようにね」


「あぁ、肝に銘じるよ。……ところでキリエ、最後の仇討ちは、無事に終わったのか?」


「……うん、ヤツは仕留めたよ」


「そうか、何よりだ。後日、主要なメンバーを集めて会議を開く予定だ。詳しいことはその場で聞かせてくれ」


「わかった。……ところで女の子がいないんだけど、私たち、来る会場間違えた?」


 見渡すかぎりおじさんとお兄さんで、非常にむさ苦しいこの宴会会場。

 お城のメイドさんと、ノリのいい女兵士さんくらいしか女性の姿が見当たらない。


「……それがな、この会場のノリが年頃の女の子たちにはどうにも合わないようで」


「わかる、すっごいわかる」


「……、……っ」


 私のとなりで、ベアトも全力でうなずく。


「……そ、そうか。まあ、ムリに参加しろとは言わん。二人とも、今日は頑張ってくれたしな。ゆっくり休むか散歩でもしてくるか、好きにするといい」


「そうさせてもらうね。いこう、ベアト」


「……っ」


 ギリウスさんに軽く会釈えしゃくして、宴会場をあとにする。

 バルバリオとカミルが踊るダンスのキレッキレの腰つきに、若干のイラつきを覚えつつ。


 ……数日後の会議ってヤツで、何があったか全部話そう。

 そしてジョアナのヤツと、本当の意味でお別れするんだ。




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