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151 ネタばらし




 何を言い出すかと思ったら、ジョアナが神託者ジュダスだって……。

 いやいや、そんなわけないでしょ。


「面白くない冗談やめてよ。早く神託者のところに案内してってば」


「……あら、信じてくれないのね。ちょっと信用させすぎちゃったかしら」


 信じないもなにも、ジョアナが神託者なわけないじゃん。

 だって、この私が誰よりも信頼してる相手だよ?

 うたぐり深くてひねくれてる私が、誰よりも頼りになるって思ってる相手だよ?


「ねえ、だからさ、そんな冗談ちっとも笑えないって」


「ま、いいわ、信じてくれなくても。ここからはお姉さんのネタばらしターイム!」


「……まだ続けるの? さすがに怒るよ?」


「全ての始まりは、ブルトーギュが起こした戦争だったの」


 ……なんか始まったし。


「神託者とは、聖女の体を経由して送られてくるエンピレオの言葉を聞くことができる存在。私以外にもたくさんいるわ。だけどね、あの子が本音を話してくれるのは私だけなの。もっと食べたい、もっと人間の魂が食べたいって」


「……人間の、魂?」


「ねえキリエちゃん。勇者が魔物や人を殺すと、その強さに応じて強くなるの、どうしてだか考えたことある?」


「どうしてって、そんなの、そういう仕組みだからとしか……」


 誰かを殺すと強くなる。

 勇者の特性であり特権。

 そういうものだってずっと思ってて、疑問を持ったことなんてなかった。


「答えはね、エンピレオからのご褒美。おいしいごちそうをありがとうって、力を与えてくれるのよ」


「……ごちそう? 魂を食べるって、じゃあ、勇者ってまさか——」


「自ら動くことのできないエンピレオに代わって、命を刈り取りごはんを送り届ける係。それが勇者の正体よ。キリエちゃんはずっと、あの子においしいごはんを与え続けてたってわけ」


 ……ごはん?

 私が殺した相手の魂は、みんなエンピレオにむしゃむしゃ食べられてるってこと?

 カインさんも、とっくに魂を喰われて?


「あら、イイ顔になってきたわね。絶望感がただよってて、中々そそるわよ?」


 なんだそれ、ふざけんな……。

 私のせいでカインさんの魂が食われて消滅してただなんて、リーダーになんて顔向けすればいいんだよ……。


「けどね、あの子はいい子だから、ずーっと長い間、魔物の魂でガマンしてたの。この世界にやってきたその日から、自ら生み出したまがいモノの魂である魔物で、健気に自給自足してたのよ」


「生み出した……って、魔物もエンピレオが生み出してるっていうの……?」


「その通り。赤い星の伝承は知っているでしょう? ずーっと昔、どこか遠い遠い場所から、あの子はこの大地にやってきた」


 赤い星。

 はるか昔に天から落ちてきて、その直後から世界に魔物があふれ返った。

 魔物に苦しむ人々に救いをもたらすため、カミを名乗るエンピレオがとある若者にギフトと呼ばれる力を与えた。

 それが勇者の始まり、と言われてる。


「魂を食糧とするエンピレオだけど、ある程度高度な生物の魂じゃないと食べられない。本来なら人間を殺して食べるとこだけど、あの子は優しかったの」


「優しかった……?」


「あの子は動植物をコピーして食べられるレベルまで魂のレベルを上げた生物、モンスターを生み出した。それを勇者に討伐させて、倒された魂をエンピレオが食べて、全てが丸く収まってたの。ブルトーギュが現れるまでは」


 ……狂ってる。

 どこが丸くおさまってるんだよ。

 自ら生み出した魔物をこの世界にあふれさせて、これまた自分で作った勇者にそれを倒させる?

 とんだ自作自演じゃないか。


「戦争に勇者を利用して、勇者は戦場で人を殺し続けた。エンピレオの元に人間の魂が大量に送り届けられたの。これまでも勇者が人間や亜人を殺すことはあったけど、それはレアケース。あの子もたまのごちそうって感じだったみたい」


 たまの、ごちそう……。

 ルーゴルフのじいさん以外にも、勇者が討伐した悪人の話はいくつか残ってる。

 けど、確かにそれはレアケース。

 めったに起こらない事例だし、年代もバラバラだ。


「だけどね、戦争がおきて、勇者が人を殺し続けて、送られてくるおいしい魂を毎日のように食べ続けたから、あの子ったら舌が肥えちゃって、魔物の魂じゃガマン出来なくなっちゃったのよ。あの子もブルトーギュの被害者ってことよね、かわいそうに……」


「……ねえジョアナ? この情報どこで手に入れたの? すごい情報ばっかりだけどさ、神託者になりきって話すのは面白くないよ? やめようよ……」


 信じたくない。

 ウソだって言ってほしい。

 ジョアナが神託者だって信じたくないのに。

 私の気持ちを知ってて踏みにじるように、『神託者』は話を続ける。


「人間との戦争が終わって、ブルトーギュは矛先を亜人へむけた。そこであの子は知ったの。鍛え上げた強い人間や亜人の魂は、より旨みを増すってことを。今度は質を求めだしたのね。……でも、ただの勇者じゃ強者相手に殺されちゃうかもしれない。新たな勇者は強くなるまでに時間がかかる。だから、とっても欲しかったの。殺人に特化した強烈なギフトが、ね」


 じっと、私の方を見て。

 ジョアナが目を細め、舌舐めずりをした。


「【沸騰】。人体に触れれば即死させられるギフト。お姉さん感動しちゃった。この勇贈玉ギフトスフィアを勇者に持たせれば、強敵相手でも殺し放題だって。持ち主がただの村娘だったから、本人に活躍してもらうつもりはなかったんだけどね」


 やめてよ。

 もうやめて。

 それ以上続けたら、きっと私は。


「だから、私が、ブルトーギュに、キリエちゃんの村を、皆殺しにするように、入れ知恵したの。あなたを、殺すために」


 一つ一つ、いちいち区切って強調するみたいに。

 ハッキリと、ジョアナはそう口にした。

 知ってるはずなのに。

 私の触れちゃいけない部分、知ってるはずなのに。

 その部分に土足で上がって、踏み荒らした。


「まっ、結果は大化けだったんだけどね〜。復讐心に取り憑かれたバケモノになっちゃったから、これまでさんざん魂集めに利用させてもらったわ」


「……」


「あっはははははっ! ねえ、今どんな気持ち? 家族を殺した、殺すべきにっくき仇がずっとそばにいたのに、まんまと信用しちゃってたのってどんな気持ちなのかしら?」


「……す」


「けどダメね、さすがに強くなりすぎよ。このままじゃ私の力も越えかねないでしょ? おまけにベアトちゃんのためにあの子を殺そうとするし……。というわけで、制御不能になる前に死んでもらって、勇贈玉ギフトスフィアになってもらうわ」


「……ろす」


「あ、わざわざここまで来たのは、他のみんなに知られないためよ? 新しく生まれる勇者もしっかり復讐心をあおって、あなたみたいなバケモノに育てないといけないでしょう? その時またみんなを利用するために、ジョアナお姉さんは信用されてないといけないのでーす」


「殺すッ!」


 私の中で、なにかが切れた。

 ソードブレイカーを抜いて、一瞬でジョアナの前へ。

 助走の勢いを乗せて、その腹部を一気に貫く。


「ごばっ……!」


「殺すっ! お前はっ、殺すっ!!」


 血を吐き散らして倒れたジョアナに馬乗りになって、腹に、胸に、喉元に、顔面に、体中に何度も何度も刃を突き立てる。


「死ね、死ね、死ねっ死ねっ死ねぇっ!!」


 ドスっ、ズドっ、バドっ、グチャっ!


 返り血を浴びながら、何度も突き刺す。

 何度も何度も何度も。

 裏切られた悲しみと、仇への怒りと、まだ心の中に残ってるジョアナへの信頼。

 いろんなものがごちゃ混ぜになって、勝手に涙があふれてきて、それでもひたすら刺し続ける。


「……はぁ、はぁ、はぁ」


 口と鼻と目から血を流して、瞳を上向きにしたジョアナの死に顔。

 少しずつ頭が冷えてきて、本当にこれでよかったのか、なんて思ってしまう。

 本当に、コイツが神託者だったの……?

 私の仇討ち、本当にこれで終わったの……?


「…………どう? ちょっとはスッキリ出来たかしら」


「……っ!?」


 ぎょろりと、白目をむいていたジョアナの瞳がこっちを見て、口元をニヤリと歪める。

 驚くヒマもなく、ジョアナが左手を突き出して風の刃を放った。

 とっさに体を大きく反らして、ギリギリの距離を刃がかすめる。

 そのまま飛び退いてバック転を打ち、間合いを離した。


「……っはぁぁぁぁ、痛かったわぁ。けど、やっと信じてくれたみたいね。私が神託者ジュダスだって」


 血まみれの顔を手でぬぐって、ジョアナが笑う。

 体中をズタズタにされたはずなのに、傷も全部ふさがってる。


「……その再生能力。まさか、【治癒】?」


「はい、ご名答。あの日、キリエちゃんのお尻ポケットからこっそり抜き取って、ずーっと持ってたのよ」


 つまり、コイツのもつギフトはそれだけ。

 再生能力と風魔法程度で、この私を殺せるとでも——。


「……がっ!? あぐっ、がっ……!」


 な、なに……?

 急に、息ができない……!

 ヤツが右手をかざしたと思ったら、急に……!


「私の持ってるギフトが【治癒】だけだと思って油断したでしょう。はい、ざんねんでしたー」


 どういうことだ……?

 ずっと風魔法だと思ってたのは、風魔法じゃなくてギフトだったってこと……?


「私はジュダス。神託者にして、人工勇者実験の成功例第一号。宿したギフトの名前は【風帝】よ」




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