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14 奇襲、待ち受ける罠




 今はだいたい朝の九時くらい、かな。

 そろそろ時間のはずだ。

 私たちは今、王都を出て東にちょっと行ったとこ、狩り場へと続く道で待ち伏せをしている。

 ネアールの乗った馬車に、襲撃をかけるために。


 私の格好は、長袖にマフラー、ショートパンツに黒ストッキング。

 帽子はかぶってない、一目で女だと、私だと分かる格好。

 なんせ、勇者が生きていてレジスタンスに加わってるって知らしめなきゃいけないからね。


 私を殺そうとしたことがおおやけになれば、ブルトーギュにダメージを与えられる。

 だからアイツは村ごと焼く無茶をしてまで、私を秘密裏に抹殺しようとしたんだ。


(これはチャンスなんだ。しっかり私の存在アピールしないと)


 他に襲撃メンバーは三十人。

 ほとんど知らない顔だけど、そのうちの二人、リーダーの親友であるレイドさんと、一番信用されてる古参のおじさんカインさんは、事前に紹介されてる。

 顔見知りでは酒屋さんとジョアナ、リーダーってとこだ。


 私以外のみんなは、顔を布とかで隠してる。

 普段の生活があるからね、顔がバレたら大変だ。

 名前も呼ばないようにって、念を押されてる。


 みんな木の影や茂みの影に隠れて、それぞれ武器を持って、息を殺したままじっと待つ。

 リーダーは剣とソードブレイカーの二刀流、レイドさんは魔法の杖を持ってるのが見えた。


 どのくらいたっただろうか。

 王都の方から、馬の足音と馬車の車輪の音、それと護衛の兵士たちの足音が聞こえてきた。


(……来たっ!)


 全員に緊張が走る。

 作戦はいたってシンプル。

 リーダーの合図で全員が飛び出し、両側から挟み打ちに。

 奇襲に混乱する間にネアールを討ち取り、私の存在をアピール。

 その後、護衛の兵士たちの中で立ち向かってくる者は殺し、逃げる者は追いかけない。

 私が生きてるって、王に村を焼かれたって知らせて、生きて帰さなきゃいけないからね。


(で、もしも失敗した場合は素早く撤退。脅しだけでも十分な効果はあるってさ)


 まあ、だいたいそんな感じ。

 さて、馬車はゆっくりと近づいてくる。

 護衛の数は十五人くらいかな。

 馬車は十人くらい入れる広さだけど、中にいるのはネアールとその従者が二人くらいと予想されてる。

 戦力差は約二倍、これなら失敗するわけないよね。


 とうとう馬車が、隠れてる私たちの目の前にさしかかった。

 リーダーが、右手を上げて合図を下す。

 その瞬間、


「うおおおおぉぉぉぉぉぉおぉぉっ!!!」


「ネアール、覚悟ぉぉぉぉっ!!!」


「祖国の、家族の仇ぃぃぃぃっ!!!」


 レジスタンスの面々が、口々に叫びながら突撃をしかけた。

 私も負けじと、馬車を目指して真っ直ぐに突っ込む、んだけど……。


「来たぞ、情報通りだ!」


「陣形崩すな! 迎え撃て!」


 ……あ、これってまずいんじゃ。

 敵さん、全然驚いてないって言うか、知ってた感じだ。

 とっさにリーダーの方を振り向く。

 やっぱり、青ざめてるよ。

 これヤバいパターンだ。


「全員、退け! 撤退だ、襲撃は中止だ!」


 リーダーが声を張り上げて指示を飛ばしたけど、もう遅い。

 勢いに任せて先陣を切った十人くらいが、兵士と交戦状態に入った。

 そして、馬車の中からは。


「ひひっ、こいつらか。美味しそうじゃねえか」


 やせてて姿勢の悪い、両手にナイフを持った男が出てきた。

 そいつの後ろから、騎士も十人くらい飛び出す。

 ネアールは乗ってない。

 神経質そうな中年の男なんて、どこにもいない。

 この襲撃、完全に読まれてた。

 罠にかかったのは、私たちの方だ。


「楽しませてくれよぉ」


 やせた男は、ちょっと人間じゃ考えられない速度で、兵士と戦うレジスタンスメンバーの中を突っ切った。

 なにしたんだ、全然見えなかったぞ。


「ひひっ、なんだこんなもんか」


 ペロリとナイフを舐める。

 その刃には、べっとりと赤い血が。


「ぐあっ!」


「ぎゃっ!」


「ぎえっ!」


 三人。

 一瞬で三人が、深手を負って倒された。


「久々の派手な仕事だってのによぉ、もっと歯ごたえのあるヤツはいねえのか?」


「コイツっ——」


 このまま暴れられたらまずい。

 そいつの相手をしようとした、その時。


「貴様の相手はこのわたしだ、逆賊めっ!」


 赤い髪の女騎士が私に向かって、手にした騎士剣で斬りかかってきた。

 腰のソードブレイカーを抜いて、峰で受け止めようとするけど。


 ガギィン……ッ!


 ぶつかったのは、ギザギザの部分じゃない。

 平らな、なにもない部分だ。

 私が何を狙っているのか理解して、振り下ろす軌道をコントロールしたんだ。


「我が名はイーリア・ユリシーズ! ペルネ姫に仕えし近衛このえの騎士! いざ、推して参る!」


「あぁそうですか、私はキリエ。不本意ながら勇者やってるよ」


「なに……っ?」


 あ、驚いた。

 私の顔と名前、なかなか効果あるな。

 てかコイツ、近衛の騎士ならなんでこんなとこに出てくるんだ、ワケわかんない。

 大人しくお城で姫様守っとけよ。


 やせた男は、リーダーとレイドさんが二人がかりで相手してる。

 大丈夫って信じるしかないよね、ここは。


「勇者様が、レジスタンスに……? 信じられんが、たしかにその顔と名前は……」


「勇者様はね、クソみたいな能力だからって殺されそうになったんだよ。あんたらの王様に! 死ななきゃ次の勇者が出現しないからって!」


「ま、まさか……!」


「そのまさかなんだよ。しかも殺そうとしたのが家臣や国民にバレたら困るからって、野盗の仕業に見せかけてさ。村は焼かれて家族も親友もみーんな殺されましたとさっ!!」


「……っ、だ、だからって、なぜレジスタンスに入ったんだ!」


「簡単だよ、復讐のため。あんたらの王様ぶっ殺さなきゃ、仇討てないでしょ。レジスタンスとは、勇者としての私の立場に利用価値あるからって、利害の一致で手を組んでるの」


 はい、全部伝え終わりました。

 出来るだけ大きな声でしゃべったから、周りの騎士にも聞こえてるよね。

 うろたえてる騎士も結構いるみたい。

 さて、驚いてもらったところで私の目的も達成。

 この作戦については大成功、さあ逃げよう。


「復讐……、そんなことをして何になる」


「……は?」


 何だって?


「復讐など、更なる破壊と混沌をいたずらに招くだけだ! そんなことのために命を使おうとするよりも、もっと——」


「……ねえ、あんた何言ってんの? 上から目線で知った風な口利いて、お説教?」


「違う、わたしが言いたいのは——」


「大事な人が殺された時の気持ち、あんたにわかんの? ねえ。わかんないで言ってんならさ」


 前言撤回させて。

 さあ逃げようって部分。

 訂正するわ。


「ふざけんな」


 殺そう、こいつ。

 いつまでも剣で押し合ってんならちょうどいい。

 右手を柄から離して、顔面につかみかかる。


「——っ!?」


 あれ、後ろに飛びのいて距離を取られちゃった。

 私の右手は空振りだ。

 何かヤバそうだって感じたのかな。

 それとも私にビビった?


「今の悪寒おかんは、一体……」


「あんたにも大事な人いるんでしょ。さっき言ってたペルネ姫だっけ、その人は大事?」


「……大切なお方だ。我が命よりも」


「そっか、じゃあそのお姫様ぶっ殺せば、私の気持ちも分かるよね、きっと」


「……っ! 貴様……、姫には指一本触れさせん!」


 お、怒った。

 ちょっとは私の気持ちわかったかな。

 大切な人を殺すってほのめかしただけでこれ。

 やっぱコイツの言ってることは中身のない、上っ面だけのキレイゴトだ。

 それにしても、姫には指一本触れさせん、かあ。

 女の子なら一度は言われてみたいセリフだね。


「安心してよ、姫様が死んでも生きてもあんたには関係ないから」


 振り下ろされた剣を、またまた峰で受けようとする。


 ガキィ……ッ!


 また外されて、剣は刀身の根元辺りに。

 私の使い方も悪いのかも。

 ただ待ちかまえてるだけじゃ、軌道を変えられちゃうのか。


「関係ない、とはどういう意味だ……!」


「そのままの意味だよ。あんたはここで死ぬんだもん、死んだあとのことなんて関係ないでしょ」




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