128 スティージュの女王様
コルキューテを発って三日。
私たちは今、
「ダメだ、通さぁん!」
バルミラードのお城に入れてもらえずに、とっても困っている。
筋肉ムキムキの兵士さん二人組が、手にした槍をクロスさせて城門前に仁王立ち。
何を言っても通してもらえない。
「あのさ、さっきから何度も言ってるでしょ? 私は勇者で、スティージュの女王様とは顔見知りなの。ギリウスさんもいるんだよね? いいから呼んできてよ。あの人に聞けば一発だから……」
「ギリウス殿は現在、大事な会議の真っ最中である! 呼びには行けぇん!」
「……ていうか、私勇者だよ? 勇者キリエだよ? なんであんたら、顔知らないわけ……?」
「お前のようなヤツは知らぁん!」
「そもそも勇者の顔も知らぁん! そんなモノより筋肉だと、国王陛下も言っておられる!」
あ、ダメだこいつら。
きっと元バルバリオの親衛隊なんだろうな、バルバリオっぽいし。
門番ならもっと知的な筋肉にまかせてほしかった。
こんな時に限ってジョアナのヤツ、どっかにふらっと消えちゃうしさ……。
「お姉さん、気を確かに持つのです……」
「なんつーか、大丈夫なのかい? この国……」
片手で顔をおおってたら、トーカとメロちゃんになぐさめられてしまった。
見かねたリアさんが懐から書状を取り出して、
「私はリア。コルキューテのセイタム王の名代として参った。国王陛下にお目通り願いたく——」
ていねいに自己紹介してくれたんだけど、
「魔族は通さぁん! タルトゥスのスパイという可能性がある!」
このザマだよ。
「いやいや、スパイが書状持って正面から来るかよ……」
思わず横からツッコミを入れちゃった。
この調子じゃ、ジョアナが戻ってきても手に負えないかも。
それこそ女王様自らお出まししてくれないと……。
ギギギギィィィ……。
なんて思ってたら城門が開いて、重そうなドレスを着たピンク髪の女の子がツカツカ歩いてきた。
ジョアナと、メイド姿のペルネ姫もいっしょに。
「ちょっと、あんたら何やってんの! その人たちの言ってること全部ホントだから! 今すぐ通しなさい!」
そして怒られる番兵さんたち。
ジョアナのヤツ、こっそりお城に忍び込んでストラを呼びに行ってたのか。
相変わらずいい仕事するね。
無事城内に通された私たち。
ストラとペルネ姫に案内されて、お城の廊下をみんなで歩いていく。
大体の事情は、ジョアナが話しておいてくれたみたい。
リアさんとビュートさんのことも、ストラはしっかり把握してた。
「しばらくぶりだね。だいたい一月くらい?」
「そんくらいかな。……よかった、ストラってば元気そうだね」
私たちがスティージュを出発した時、リーダーが死んだと思って塞ぎ込んでたからね。
すっかり元通りの、肝っ玉母さんみたいなストラに戻ってて安心した。
「……っ、……っ!」
ベアトもこくこくうなずいてる。
きっと私よりもずっと、ストラのことを気にかけてたんだろうな。
ベアトは優しいから。
「まぁね、あの時は心配とご迷惑かけました。ベルのおかげで、色々とふっ切れたんだ」
「ふふっ、女王様の支えになれたのなら光栄ですっ」
「なれてるよ、支え。ベルがいてくれて、ホントに色々助かっちゃってるんだから」
顔を見合わせて笑い合う二人。
見ない間にすっかり仲良くなってるな。
ストラとペルネ姫が親友同士、ちょっと意外なようなそうでもないような……。
(……どうしようかな、リーダーが生きてるって伝えるの)
すっかり立ち直ってるし、教えると逆効果かも。
記憶が戻る可能性は低いんだもんね。
ギリウスさんだけに、こっそり教えておこう。
「ところでストラお姉さん。あたいらどこに案内されてるんです?」
「会議室だよ。対タルトゥスの作戦会議をね、両国のお偉いさんが集まって、ここんとこずーっとやってるんだ。一向に進んでないんだけどね!」
お偉いさん……、つまりバルバリオやカミルも参加してるってことだよね。
うわぁ……、なんて言うか、うわぁ……。
「だからリアさんとビュートさんが来てくれて、ほんっとに助かった! ありがとう! これで話が進む!」
片手ずつで二人の手をにぎって、涙目でお礼言ってるし。
ホントに大変だったんだろうな……。
「え、えぇ……。女王陛下のお助けになれたのなら、喜ばしいことです……」
「あ、あははー……」
あまりにフランクな女王様の態度に、リアさんたちも困惑気味だ。
素のストラでいるの、私たちといっしょなせいだよね?
さすがに普段からこんな調子じゃないよね?
「リア様、申しわけございません。普段はもう少し、しっかりしてるのですけれど……」
ペコリと頭を下げて謝るペルネ姫。
よかった、いつもはちゃんと女王様やれてるんだね……。
さて、どうやら会議室の前に到着したみたい。
扉の前で立ち止まって、ストラがへにゃへにゃだった表情を引き締める。
ペルネ姫が軽く苦笑いしながら、会議室の扉をノック。
「国王陛下。ストラ様、ならびに勇者キリエ様、そしてコルキューテよりの客人がお見えになりました」
「おう、入れ!!!」
中から聞こえてきた無駄にデカい声、ありゃバルバリオだな。
今はバリオ・バルミラードって名乗ってるんだっけ。
扉が開いて、会議室の中へ。
部屋の真ん中には大きなテーブル、その上に大きな地図が広げられていて、色んな形ののコマがいくつも置いてある。
中にいる面々は、バルバリオとカミル、それから……誰だっけ、あのおじさん。
どっかで会ったことある気がするんだけど……。
あとは見覚えのない、たぶんバルミラードの騎士さんたちに、見覚えのあるスティージュの騎士さんが何人かと、最後にギリウスさんだ。
「キリエ、ベアトにメロも、よく無事で戻ったな。大体の話はジョアナから聞いている」
「ギリウスさん、久しぶり。積もる話もあるけど、今は会議中だよね」
大柄でゴツい騎士さんと、がっちり握手。
けど、再会をよろこんでるヒマはないよね。
「旅の土産話、あとでじっくり聞かせてもらおう」
ギリウスさんは早々に話を切り上げると、すぐにリアさんたちのとこへ行って、うやうやしく頭を下げた。
「コルキューテの将軍、リア殿ですね。ご勇名、かねてより王国にまで轟いておりました」
「かく言うあなたはデルティラード最強の騎士、ギリウス殿とお見受けする」
「最強などと。最前線に顔を出さなかった、名ばかりの男です」
「ご謙遜を。最強なればこそ、国元に置かれていたのでしょうに」
にこやかに言葉を交わしたあと、リアさんはバルバリオとストラのとこへ。
少しだけピリピリしたものを感じたのは、きっと気のせい。
「バリオ陛下、ならびにストラ陛下。コルキューテ国王セイタムの名代としてまかり越しました、リアと申します。こちら、王よりの書状となります。お納めください」
「おう、受取っておくぞ!!!」
「たしかに受け取りました。リアさん、長旅ご苦労さまです」
懐から取り出した二通の書状をそれぞれ差し出して、二人がそれぞれ受け取った。
バルバリオは問題外としてストラ、今さら女王様ぶってもリアさんには手遅れだよ。
「よし! お前らも軍議に加われ!! 王都ディーテへの攻撃作戦会議だ!!」
「やっぱり僕は、釣り出し作戦がいいと思うな。王都の前までみんなで行って、タルトゥスに出てこいって挑発するんだ!」
「さすがだな、カミル! 俺は真正面からぶつかる策がいいと思うぞ!!」
「……ねえ、ストラ。つっこみ所満載なんだけど、ずっとこんな感じ?」
「ずっと。ずっとこんな感じ」
同情するよ、ホント。
バルバリオとカミルが好き勝手やりはじめて収拾がつかなくなり始めた時、ギリウスさんが机をダン、と叩く。
ビビったカミルが飛び上がって、バルバリオは興味が移って、それぞれ黙ってくれた。
「……では、作戦会議を始める。まずはそれぞれの戦力の把握から始めよう」