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120 【水神】の片鱗




「ルーゴルフっ! 覚悟するですよっ!」


「ぁあ?」


 小さな女の子の声に、ルーゴルフが私への蹴りを中断してそっちをにらみつける。

 目線の先には、大量の石を浮かべて、杖を敵へと向けるメロちゃん。

 私を助けようとしてるんだろうけど、無茶だよ。

 そんな魔法が当たるわけない。


「メロちゃ……っ、ベアト、連れて、逃げてっ!」


「逃げないです! あたいもベアトお姉さんも、あなたを置いて逃げたりしません、絶対にっ!」


「……チッ、ぅっせぇなぁ。お仕置きのジャマすんじゃねぇよ……」


「お姉さん、受け取ってくださいっ! ロックラッシュ!!」


 石の弾丸が発射されて、ルーゴルフにむかって飛んでいく。

 気持ちはうれしいけどさ、メロちゃん怖いのガマンしてるんだよね?

 だって、狙いが逸れてあっちこっちに石の弾丸が散っちゃってるもん。

 ほとんどが地面や壁にぶつかって、ルーゴルフまで届いてないじゃん。


「はぁ……? なんのつもりだよ、コイツ……。満足に狙いもつけれてないじゃんかよ……。これだから凡人は……」


 ……いや、違う。

 メロちゃん、少しも怖がってない。

 だったらこの攻撃にも、なにか意味があるはずだ。


神鷹眼シンヨウガン……っ!)


 消えてた練氣レンキを再発動して、視力を強化。

 どんな意味があるのか、はっきり見極めなきゃ。

 狙ってる場所に関係が?

 いや、まったくのバラバラだ。

 だったら……。


(あれ? 私の方に飛んでくるあの石……)


 小さくて青い玉が、石の表面にはめ込まれてる。

 はめ込める形に魔力で加工してあるんだ。

 その石は、私の目の前でバウンドして、手元にコロコロと。


(……そっか、そういうことだったんだね。受け取ったよ、メロちゃん)


 メロちゃんの気持ち、しっかり受け取った。

 いっしょにメロちゃんの故郷の、フレジェンタの仇を取ろう。


 折られてない左腕をのばして、石を拾い上げる。

 手に取ってにぎりしめ、ギフトをコントロール下に。

 コイツでなにが出来るのかはわからないけど一つだけ、不思議とはっきりわかる。

 この戦い、私の勝ちだ。


「……ぃい加減さぁ、うっとうしいんだけど? 勇者より先に、お前が死んどくか?」


「お、脅しには屈しないですっ! お前なんか、さっさとキリエお姉さんに殺されちまえっ!!」


「はっ、勇者ぁ……? 死にかけのゴミに一体なにができるってんごばっ、ごぼぼぼっ!!?」


 ありがとう、メロちゃん。

 私が石を拾ったあとも攻撃をやめないで、アイツの注意をひきつけてくれて。

 おかげでアイツを捕まえられたよ。


「がぼっ! がばばぼっ、ごぼばばっ!!」


 メロちゃんが届けてくれた【水神】の勇贈玉ギフトスフィア

 コイツを使って私は、ルーゴルフの足下を中心に水の玉を作った。

 全身をすっぽり飲み込む大きさの水球を。

 それだけじゃ泳いで出られちゃうから、暴れても出られないように、表面をぶにぶにの膜で固めて。

 もっととんでもないコトができる気はするんだけど、ボロボロな今の私じゃ、この程度が精一杯かな。


 ついでに水の流れを操作して、口の中にどんどん突っ込んでやる。

 肺に入ると即死しちゃうから、行き先は胃袋だけどね。

 だってさ、こんなゴミを即死させるなんて、私の気がおさまらないもん。


「げほ……っ、ごほっ……。よぉ、ゴミ野郎……。よくも散々いたぶってくれたな……」


 チクショウ、ボッコボコにしやがって。

 右腕ぷらぷらしてるし、アバラも何本折れてんだ、これ。

 今にも気絶しそうだけど、気力で意識を保ち続けて、溺れてるルーゴルフに近づいていく。


「ごぼばっ! ばぼっ!!」


「覚悟はいいよね……? こんなボコボコにしてくれて、ベアトにまで手を出しやがってさぁ……。泣いて謝るまで、殺してあげないから……」


 さぁて、まずは【水神】と【沸騰】の合わせ技だ。

 あれは私の魔力で作られた水、つまり私の魔力がたっぷり入ってる。

 触らなくても、『煮えたぎれ』と心の中で命令するだけで。


 こぽっ、こぽこぽ、ぼこぼこぼこっ。


 ほら、沸騰がはじまった。


「ぼばっ!! ばぼぼぼばっ!! ごばばぼばぼぉっ!!!」


 煮えたぎる熱湯の玉の中で、手足をバタバタさせて苦しむルーゴルフ。

 苦しそうだね、熱そうだね。

 あー、いい気味。


「聞こえてるかわかんないけどさ……、この程度ですむと思ったら大間違いだからな……」


 重い体を引きずって、やっと水球の前に到着。

 まずは【使役】の勇贈玉ギフトスフィア、没収させてもらおうか。


 ソードブレイカーすら重たくて、持ち上げるのも大変だけど。

 ゆっくりと水球の中にさしこんで、ゴミ野郎の左手にぴったり刃を当てる。

 そこから力を入れて、切断スタート。


「うごぼっ、ばぼぉぼぼっ!! ばぼばばぼぼぅ!」


 ごめんね、テメェがズタボロにしてくれたからさぁ、気持ちよくスッパリ行く余力がなくて、のこぎり引くみたいになっちゃうけど。

 自業自得だし、ちっとも心が痛まないや。


 刃が肉を裂いていって、骨までさしかかった。

 透明だった水球の中が、血で赤く染まりはじめる。

 ここから大変だな、骨を切るって苦労しそう。

 グッと力を込めて、刃に体重を乗せる。


 ズバッ!!


「あぼばばっばばぼぉおっ!!」


 はい、切断成功。

 これでもう、【使役】で悪さできないね。

 ……おっといけない、水中じゃ血が止まらない。

 このままじゃ失血死しちゃう。


 バシャァッ!!


 水球を解除すると、全身茹で上がったルーゴルフが無様に転がった。


「あぎゃひぃっ!! あづっ、あづぅぅぅぅっ!! おまえ゛っ! この僕にこんなっ!」


「うっさいなぁ、汚い声で叫びやがって……。ローテンションであくびでもしてろよ……」


 わめいてるわりに反撃してこない辺り、心が折れかけてるのかな?

 体重をかけて両足を踏みつけ、心といっしょに足の骨もしっかり砕き折る。

 さっきの腕のお返しだ。


「ぎえ゛えぇああぁぁっ、ひっ、ぎあ゛ぁぁああぁ゛ぁぁっ!!」


 きったない悲鳴が上がったけど無視して、ついでに残った右の手首も切り落としてやった。


「はい、終わり……っと。もう自分で動けないね……、天才さん……。今どんな気持ち……?」


「ぎああ゛ぁぁぅ、うっぎがああぁぁぁぁっ!!」


「うん、いい返事……」


 さてさて、失血死の危機は去ってないね。

 もーっと苦しんでもらうためには、血を止めないといけないな。


「……これでいいか」


 メロちゃんが渡してくれた、【水神】の玉をはめ込んだロックラッシュの石つぶてを使わせてもらおう。

 勇贈玉ギフトスフィアはどうやったって壊せないから、このまま石を溶かしても大丈夫。


「溶解しろ……!」


 魔力をそそいでマグマに変えて、宙に浮かべながら勇贈玉ギフトスフィアだけを吐き出させる。

 手のひらの上に落ちてきた青い玉は、マグマの影響をまったく受けてないんだろうな、触っても熱くもなんともない。


「さ、応急手当といこうか……」


「なっ、なにする気だっ……! まさかっ、やめろっ……!」


「はぁ……? やめるわけないじゃん、バカなの……?」


 転がったままおびえるゴミを見下ろしながらマグマを操作して、まずは右腕の切り口へ。

 ギュッと押しつけて、傷口を焼いてやった。


 ジュウウゥゥゥゥッ……。


「ぎああ゛あぁぁ゛ぁぁああ゛ぁぁぎゃああ゛あぁぁぁぁぁ゛ぁぁ゛ああ゛ぁっ!!!!」


 焼きふさいで、止血完了。

 この調子でもう片方もふさいであげなきゃね。



 両腕の止血を終えた頃には、ルーゴルフは苦痛のあまり気を失っていた。

 なっさけないヤツだな、このゴミ。


 さて、あとはリアさんのとこに連れてくか。

 あの人も今ごろ、正気に戻ってるはず。

 拷問部屋でタルトゥス謀反むほん言質げんちを取ってもらってから、コイツをブチ殺させてもらおう。


(リアさん、といえば……、トーカと、ジョアナ……、大丈夫か、な……)


 あ、ダメだ、人の心配してる場合じゃない。

 目の前がぐにゃぐにゃして……。


「キリエお姉さんっ!」


「……っ!!」


 私の体が倒れる前に、走ってきたベアトが支えてくれた。

 そのまま私の体を抱きしめて、癒しの魔力をそそいでくれる。


「ベアト……、ありがとう……」


「……っ」


 傷の痛みと身体の疲労、それからすさんだ心まで、ベアトに抱きしめられて、全部が癒えていく。

 あぁ、やっぱり私、とことんこの子に依存してるんだな。

 この子がいなきゃ、いろんな意味でダメになりそうだ……。




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