118 タルトゥス軍最強の男
「……チッ、直接戦闘なんてごめんだね……」
着地したルーゴルフが、私にむけて左手をかざす。
そしたらまた、頭の中にモヤモヤしたモノが流れ込んできた。
私をあやつるつもりなんだろうけど、タネが割れた手品なんて怖くない。
「っらぁ!!」
気合のおたけびと一緒に、自分の魔力を頭の中で炸裂させて、侵入してきた魔力を消し飛ばす。
それだけで、頭の中がすっきりクリアになった。
召喚する戦力じゃ私は倒せない。
洗脳攻撃なんて効かない。
【使役】のギフト、これにて完全無力化だ。
「やっぱ無駄かぁ……。一瞬のスキすら作れねぇとか……、ダル……」
やっと自分で戦うしかないってわかったらしい。
ため息をつきながら、腰にまいてるベルトに差した短い棒を次々ぬいてつなぎ合わせる。
「ザコを呼んでも疲れるだけだしなぁ……、ふあ〜ぁ……。ま、使いようによるけど……」
完成したのは、棒術で使うような長い鉄の棒。
ブンブン振りまわしながら大あくび。
てかコイツ、相変わらずブツブツ言ってんな。
「ねえ、やる気になったんなら早く始めない? あんたの汚い断末魔、さっさと聞きたいんだけど」
「ぁあ? ちょっと強いからって調子乗りやがって……。僕ぁお前や他のタルトゥス軍のヤツらみたいな、中途半端な強さで調子に乗ってるヤツ見ると、殺したくなるんだよね……。ふわ~ぁ」
「……そんなにブツブツひとりごと言いたいなら」
あくびをした瞬間を狙って、一気に接近。
首を狙って剣を振り抜く。
「あの世で好きなだ——」
ドボォッ!!
「け゛……ほっ!」
お腹に突き刺さる、にぶい衝撃。
致命的なスキをねらったはずなのに、私の剣、アイツの首に届かなかった。
逆にカウンターを受けて、棒のさきっぽがお腹にめり込む。
さらに横っ腹へ、
ドゴォォオッ!!
「あがっ!」
棒を横殴りで叩き込まれた。
踏み込みの強さに地面が割れて、まわりの空気がごうっ、と唸りを上げる。
全身の骨がミシミシ、悲鳴を上げて、私の体はおもちゃみたいに猛スピードでお城の壁へと叩きつけられた。
「が……っ! げほっ、げほっ、うぇ……!」
なんだよ、この威力……!
今まで食らったどの攻撃より強烈だ。
口からあふれた血を手の甲でぬぐいながら立ち上がる。
「この力……、いったい……、げほっ!」
「ぉどろいてるみたいだなぁ……。ぉ前、僕のことナメてただろ……。タルトゥス様の家臣で最強の、この僕をさぁ……」
「最強……?」
他力本願な勇贈玉を選んで、いっつもダルそうにしてるコイツが、最強だって?
そんなわけ、と言いたいけど、さっきの一撃を食らった以上は信じるしかないよね。
少なくともコイツ、ブルムやレヴィアよりずっと格上だ。
けど……。
「最強だってんなら、最初から自分で戦えばよかったじゃん……。なに? いつでも勝てるからって余裕ぶっこいてたわけ?」
「……チッ、これだから凡人は……」
頭をボリボリかきながら、イラついた様子でため息。
こっちがイラつくわ、クソ野郎。
「わかんないんだろうなぁ……、生まれつき、人並み外れた力を持ったヤツの苦悩なんてなぁ……。持たざる凡人にはわかんないんだろうなぁ……」
「ブツブツブツブツ、お前結局何が言いたいんだ。他人を見下したいって気持ちしか、伝わってこないんだよっ!」
金剛力と堅身、さらに月影脚を全部まとめて発動。
攻撃力に防御力、素早さ全部を倍増させて突撃、両手でにぎった剣を高く振りかぶる。
「凡人の嫉妬がさぁ……、うっとうしいって言いたいんだよ……」
振り下ろした渾身の一撃すら、棒で軽く受け止められた。
けど受け止めたならチャンスだ、このまま魔力を流し込んで——。
「おっと、そうはさせるか……」
すぐに棒を押し出して、後ろに弾き返された。
「溶かそうとしてんだろぉ……? 見たからよぉ、今まで散々見せてもらったからよぉ……。わかってんだよ、そんくらいなぁ……」
そうだった。
私が武器や石を沸騰させるとこも、斬りつけられたキマイラが沸騰するとこもコイツに見られてる。
能力を出し惜しみしてる余裕なんてなかったし、いまさら後悔してもおそいんだけど。
「だとしても、触れさえすれば……っ!」
いくら強くても、どれだけ格上でも、切っ先がかすめるだけで勝てるんだ。
触れれば即死、私のギフトの絶対的な強み。
これがある限り、あきらめない!
「無駄無駄ぁ……、生まれついての天才に、お前ごときが敵うと思ってんのかよぉ……」
顔面を狙って突きをくりだす。
ダメだ、ほほにすらかすりもしない。
だったら今度は胴体をねらって、突きを連発。
全力で、呼吸の続くかぎり突き続ける。
「はぁ、やれやれ……。無駄だって言ってんのがわかんねぇのかぁ……? おそすぎてあくびが出そうだよ……、ふあぁ……」
コイツ、ホントにあくびしながら全部避けやがって、バカにしてんのか。
棒を持ってる指を狙っての斬撃、これならどうだ!
「見えてんだよ……」
切っ先が来たタイミングで、ぱしっ、と棒を持つ場所を変えやがった。
おかげで切っ先が空を切って、この奇襲も空振り。
「もう終わるか……、ダル……」
ボソリと呟いたルーゴルフ。
棒を持ちかえた勢いで高くかかげたあと、たぶん、振り下ろしたんだと思う。
だって、攻撃する瞬間すら見えなかったんだもん。
ゴっ……!
ただ、脳天にものすごい衝撃が来て、頭を上からぶん殴られたってのはわかった。
目の前がチカチカして、意識が飛びかける。
そのスキに後ろにまわりこまれて、
「はい、トドメ……」
バギャッ……!!
背中に重すぎる一撃を叩き込まれた。
「か——っ」
悲鳴すら出ない。
一瞬で、顔面から城壁に突っ込んで、私の体はガレキに埋もれた。
背中痛い、顔も痛い、背骨折れたりしてないよね。
こんなに痛いの久しぶりだ、全身くまなく死ぬほど痛い。
そもそも私、ちゃんと生きてるのか?
ヤバい、もう立てないかも……。
ガラっ、ガラガラっ!
「……っ、……っ!!」
……なに、この音。
ガレキがどけられて、周りが明るくなってく。
それから、あったかくてすべすべした手が私のほっぺに触れて。
体が光に包まれて、痛みがウソみたいに引いてった。
「……ベアトっ!?」
「……っ」
「よかった、お姉さん生きてますですね」
急いで体を起こしたら、安心したって顔のベアトとメロちゃんがすぐそばに。
そっか、飛ばされたのベアトたちのすぐそばだったのか。
この子にぶつかったりしなくて、ホントによかった……。
「ありがと、ベアト。ガレキをどけてヒールまでかけてくれたんだ」
「……っ!」
「あの、あたいもガレキどけてたんですけど……」
「ゴメンゴメン、わかってるよ。メロちゃんもありがとう」
剣は手放してない、ちゃんと持ってる。
だけど荷物を入れるポーチのヒモが千切れちゃった。
この中、なにが入ってたっけ。
戦うと思ってなかったから、壊れそうなモノも持ってきてたはず。
「ちょっとコレあずかってて。アイツをブチ殺したら返してね」
「……っ!」
ポーチをベアトに渡して立ち上がる。
今度はベアトたちをまきこまないように気を付けなきゃ。
二人から離れて、あくびをしてるルーゴルフと向かい合う。
「ぁんだよ、しぶといなぁ……。はぁ、ホンっトダルい……」
「アンタがどんだけ強くても、私は絶対ベアトを守る。お前を殺す。それまでは死んでやらないから」
「はぁ……。ここまでやってまだ、僕に勝つ気でいんのかよ……。生まれつき『三夜を越えた』この僕にさぁ……」