108 久々の再会
探しにいく前に、まさか向こうからくるとは思わなかったよ。
もうさ、さすがって気持ちを通り越して、ちょっと怖い。
だってここ宿屋だよ?
さっきチェックインしたばっかりの。
ジョアナの情報収集能力、ホントどうなってんだ。
「はぁ〜い、おひさしぶりのジョアナお姉さんよ! ベアトちゃんもメロちゃんも、元気してた?」
「いやいやいやいや、いきなり突然出てきたですね!? あたいらさっき到着したばっかりですよ!」
「たまたま街の入り口を見張っててね、ぐうぜんにも入ってくるとこ見かけちゃって」
「……で、尾けてきた?」
「正解したキリエちゃんに拍手ー、ぱちぱちぱちっ」
いつにも増してノリがウザいな……。
「ま、いっか。探す手間はぶけたし。トーカ、紹介するね。このうっとうしいヤツが、さっき話したジョアナだよ」
「よろしくね、トーカさん。新しいお仲間さんね、見たところドワーフかしら」
「いかにもドワーフだ。アンタのことは一応、キリエから聞いてるぞ。ずいぶんと信頼されてるみたいだな」
ちょ、トーカ、なに言っちゃってんだ。
またジョアナが調子に乗るじゃん!
「……ふーん、へぇ、ほーお。キリエちゃんってば、お姉さんのことそんなに頼りにしてるんだー」
「ちがうから、顔近づけんなうっとうしい!」
はぁ、案の定のウザ絡み。
……けど、なんか懐かしい気もするな。
「……あら? あらあら? ベアトちゃん、首輪が変わっちゃってるわね。お姉さんのプレゼントした首輪、どうしたのかしら」
「それ。ジョアナ、まずはそれから話すよ。色々たまってるけど、まずはそこから」
ゴーレム使いブルムの襲撃と、ベアトの首輪についてた発信機。
トーカの紹介を兼ねて、その辺りをざっくり説明。
「……と、いうわけ。発信機について、ジョアナはどう思う?」
「さてさて、埋め込まれたタイミングが謎すぎるわね。これは難問だわ……」
「だよね、タルトゥス軍のヤツらにもパラディのヤツらにも、埋め込む時間なんて無かったはず」
ずっと着けてたんだもん、首輪。
私が知ってるかぎり、お風呂の時以外は寝る時もずっと着けてた。
……あれ?
そもそもの話、これって矛盾してないか?
「……もしかして、発信機をしかけたヤツ、タルトゥス軍でもパラディでもないんじゃない?」
「あら、どうして?」
「四六時中ベアトが着けてるモノに、発信機が埋め込まれてたんだよ。ベアトを狙ってんなら、そんなモノ仕込むスキがあったら本人を捕まえるでしょ」
「なーるほど、その通り……かもね」
「だとしたら、ブルムが居場所を突き止めた方法はどう説明すんだ?」
「あぁ、そうだった……」
頭ん中がこんがらがってきた。
仕掛けたタイミングも含めて、もう何がなんだかさっぱりだ。
「……なあ、ジョアナさん。その首輪、アンタが用意したんだったよな」
その時、じっとジョアナの顔を見ながら、トーカがそんなことを口にした。
「ベアトちゃんに似合いそうなモノ、頑張って調達したのよ。それがなにか?」
「……いや、覚えてるかぎり、中々趣味が良かったからさ。それにひきかえキリエ、お姉さん錠前ってどうかと思うぞ」
「ほっとけっての、ベアトも気に入ってんだから」
「……っ!」
ほら、ベアトもコクコクうなずいてる。
「……って、それだけかよ、もう。大事な話してんだからさぁ……」
「あはは、ゴメンゴメン。……気になっちゃって、さ」
あはは、じゃないよ。
年長者ならさ、そんなどうでもいいコトで話のコシを折らないでほしいよね。
「はぁ、もういいや、発信器のことは……。ジョアナ、本題に入ろう。コルキューテに入ってから得た情報、私たちに全部教えて」
「全部? 全部話してたら三回くらいお日様がのぼるわよ?」
「……訂正。要点だけかいつまんで教えて」
「りょうかーいっ。さてさて、まずはタルトゥスの前線での行為、それからコルキューテ側の認識についてね」
最初にジョアナが話してくれたのは、王国軍の前線が破られるまでの話。
前線の兵士数人、それとタルトゥス側の兵士から聞き出した話を合わせて導き出した、タルトゥスの最初の悪行だった。
まず、私たちがフレジェンタを発って三日後。
パラディの使いがタルトゥスたちに接触。
このタイミングで、ヤツらは勇贈玉を手に入れた。
ベアトを探して連れてくるように、という交換条件を飲んで。
「そのあとだけど、そちらのトーカさんが聞いてた情報、少々間違ってたようね」
「……ま、アタシが聞いたのなんて、混乱した戦場での一兵士の証言だ。食い違いもあるだろうさ」
トーカから聞いた話では、王国軍に攻撃しようとしたタルトゥス軍が止めに入った正規軍や亜人軍と同志討ちになった、とのことだ。
けど、その真相としては。
「まず最初に、謎の軍勢が魔族軍と亜人軍に襲いかかったの。正体不明の幼い少女が指揮する謎の黒い騎士たち。そして、魔物の大群が」
「……【機兵】と【使役】だ。少女ってのは、外見を幼くしたブルムだね」
「その通り、話が早くて助かるわ」
つまりブルム、戦場では元の姿で過ごしてたのか。
身元が割れないように、子どもに変化して魔導機兵をけしかけた。
主にドワーフ軍相手に。
「謎の軍団は、大暴れしたあとに忽然と姿を消した。大量の死体を残して。当然、戦場は大混乱よ」
混乱が起きて、部隊の間の連絡が乱れた瞬間、タルトゥス軍は一万五千の王国軍に攻めかかった。
勇贈玉を持つ一騎当千の猛者たちによって、一時間足らずで王国軍は全滅。
同時にフレジェンタの街も崩壊した。
「そのままタルトゥス軍は、王都に向けて進軍を始めたってわけ。本隊にむけて伝令を出して、ね」
「伝令?」
「魔族軍の中に裏切り者が出た。その者たちは討ったが、正規軍、亜人軍に大勢の死傷者が発生。もはや戦線の維持は不可能と見て、我らは決死の覚悟で王国軍に撃ちかかり、これに勝利した。我らはこれより勢いに乗って、一気にブルトーギュを討ち、王都の民を解放する……と、まあ要約するとこんなトコかしら」
「はぁ……、殺したい」
「お姉さん、同感なのです」
メロちゃん、気が合うね。
ひっさびさに拷問殺やりたくなってきたよ。
「はい、殺意を先行させない。そんなワケで、本国ではタルトゥスは英雄扱い。対タルトゥス戦でコルキューテを味方につけるの、ちょっとムリがありそうよ?」
「そっか。けどさ、リアさんって軍人さんが明日、この街に帰ってくるんだよ。その人がルーゴルフを追い詰めてくれれば、きっと状況はガラリと変わる」
「……へえ、そうなの。それはそれは、いいことを聞いたわねぇ」
うん、コイツはいいニュースのはず。
もっといいニュースもあるんだけどね、リーダーが生きてたって大ニュースが。
「いいこと聞いたから、お花を摘みたくなっちゃったわ。ちょっと行ってくるわね〜」
「あっ、ちょっと……」
行っちゃった、せっかくリーダーが生きてたこと教えようと思ったのに。
てかさ、花摘みとか、今どき言うか?
普通にトイレでいいじゃん。
アイツのノリ、ホント独特だな……。
△▽△
リアさんについての話を聞いてすぐ、ジョアナさんが部屋を出ていった。
お花を摘みに行ってくるわ、とか冗談めかして。
今どきそんなこと言うヤツいないって。
「……アタシもトイレ行ってくる」
「行ってらっしゃい。……ねえ、ベアト? どうして私のひざの上に乗ってくるの?」
「……っ♪」
「お熱いのです……。春なのにお熱いのです……」
頑張れメロ、アタシは力になってやれん。
……もっと気になること、できちゃったからね。
トイレをのぞいてみたけど、やっぱりジョアナさんの姿はナシ。
宿を出て、人のいない裏手の方に回ると……いた。
足の筒に手紙をしこんだ鳥を飛ばすジョアナさんが、いた。
「やぁ、ずいぶんと斬新な花摘みだな」
「あらら、見つかっちゃった」
「どこに飛ばしてたんだ、それ」
「もちろんスティージュよ。キリエちゃんたちの情報、その他いろいろを、ストラちゃんたちに知らせるために、ね」
「……へえ。キリエの話、まだ途中なのに?」