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105 きっといい人だよ




 暴れてるモンスター、みんな森にいそうなヤツばかりだ。

 イノシシやクマみたいな動物タイプのモンスター、あとはカエルや虫なんかのちょっと気持ち悪い系。

 自然発生した魔物の氾濫(スタンピード)の可能性が高いかな。


 私は今、エルフや魔族の部隊とは別行動をとって魔物を蹴散らしている。

 お忍びの旅だからあんまり目立ちたくないし、素性を聞かれるのもカンベンだからね。

 できるだけ人目に触れないようにしながら、大群の中に突っ込んで、


 ズバババババッ!


 駆け抜けながら、一匹残らず斬り刻んだ。


「……よし」


 いろんな断末魔の叫びが上がって、それぞれの急所からいっせいに血が噴き出したのを確認し終えたら、すぐに次の魔物の群れを探して走り出す。

 この街の中、まだまだモンスターであふれてるからね。


 単独行動の魔物を斬り倒しながら少し走ったところで、次の群れを発見。

 すかさず斬り込んで、全部まとめて斬り捨ててやったところで、


「そこの剣士、見事な腕だな」


 私の肩がビクっと跳ねる。

 ヤバっ、今の瞬殺見られてたっぽい。

 しかも一番見られたくなかった、オレンジ髪の魔族軍人に。


「ど、どうも……」


 部下をゾロゾロ引き連れてこっちに来るし。

 まずいって、どうしよう……。


「見たところ魔族でも、他の亜人種でもないようだ。人間にしてはその強さ、少々異質なものを感じるが」


 色々と突っ込んだ質問されそうな気配。

 どうやってごまかそうか……、


「だが、今は魔物の掃討そうとうが先決。どうだ、我らと共に戦ってくれないか。そなたほどの腕があれば心強い」


 なんて考えてたら、まさかの共闘依頼。


 ここで断るのも不自然だし、かえって怪しまれるかな……。


「えと、ボクで良ければ力になります……」


 テンション低めに、できるだけ声を低くして。

 今の私は旅の途中の男剣士っていう設定なんだから。


「うむ、良い返事だ。ではさっそく……!」


 オレンジ髪の軍人さんと並んで、魔物の群れに突撃していく。

 後ろから弓矢の援護が飛んでくるのを、少し心強く思いながら。




 数時間後、街に入り込んだモンスターの全滅が確認された。

 ただ、街の中は魔物の死体や血でいっぱいだ。

 消火活動は続いてて、焼け落ちたり戦闘の巻き添えになった家もたくさんある。


 犠牲になったエルフも大勢いるんだろうな……。

 村が焼かれた日のことを思い出して、心が暗くなった。


「剣士君、協力感謝する。改めて礼を言わせてくれ」


 いっしょに戦った軍人さんに握手を求められて、にぎり返す。

 この人、悪い人じゃないのかな。


「私はリア。魔族の王セイタム様直属の将だ」


「え、と、ボクは……」


 なんて名乗ろうか。

 ここはやっぱり偽名のキリオ……?


「おーいっ!」


 トーカ、タイミング悪いって。

 ベアトとメロちゃんを連れて、私のとこにやってきちゃった。


「む、連れが来たようだな」


 けど、リアさんの反応はこれだけだった。

 ベアトの顔にびっくりしたり、怪しい反応をすることもなく。


「あれ、タイミング悪かった? 二人は無事だって、早く知らせたくってさ」


「……いや、大丈夫。ありがと、トーカ。二人のこと守ってくれて」


「アタシはなんにもしてないさ。安全な場所で二人といっしょに待ってただけだ。……っ、魔族!?」


 リアさんに気付いたトーカの表情カオが一瞬だけ、警戒心をむき出しにしたものに変わる。

 けど、すぐにいつもの穏やかな顔にもどって。


「……あぁ、コルキューテの軍人さんか」


「そう言うキミは、ドワーフだな。キミたちには恨まれても仕方がないことをした……」


 対するリアさんは、少し沈んだ表情。

 タルトゥス軍がやらかした友軍の虐殺に、責任を感じてるみたいだ。


「あの悲劇は、我々魔族軍のごく一部が暴走して起きたこと。しかし、力及ばず止められなかった私たちにも責任はある。何を言われても反論はできない……」


「……うん、ちゃんとわかってるさ。アンタらを責めたってしかたないことくらい、わかってる」


「トーカ……」


 元々、魔族の大部分は争いを好まない穏やかな人たち。

 トーカもそのことは、当然知ってる。

 正規軍の人たちのせいじゃないことも、きちんとわかってるんだよね。


「そうは言っても、私の気がおさまらない。すまなかった、あの場にいて何もしてやれず……」


 深々と頭を下げてから、


「私たちは街の外れの陣所にいる。何か困ったことがあれば気軽に来てくれ」


 自分たちの場所を教えると、部下をまとめて後始末の指揮を取り始めた。


「……トーカ、あの人はきっといい人だよ」


「……あぁ、そうなんだろうね」



 ○○○



 この国の名前はハルネスト。

 森が広がる国土の中に、魔法と弓術が得意な耳のとがった亜人、エルフが住む国だ。

 北側に魔族の国コルキューテがあって、交流もさかんなんだって。

 これ全部、ついさっきトーカに教えてもらったんだけど。


「で、この街がフォレスティア。この国の首都ってわけだ」


「へー、首都……。ここ、首都だったんだ」


 たしかにエルフの集落って、森の中にぽつんと小さく作られてるイメージだ。

 それを思えばこの街、街って呼べる規模だもんね。


 トーカの説明を受けながら、魔物の死体の片付けを手伝う私たち。

 大量に呼び出したゴーレムたちがせっせと片付けてくれてるから、特にやることないんだけど。


「でもさ、さっきからエルフの人たち、女の人しかいなくない?」


「キリエお姉さん、そんなことも知らないのですか」


 メロちゃんにやれやれって顔をされてしまった。

 悪かったな、どうせ私は田舎の村娘だよ。


「なんとエルフはですね、女性しかいない亜人族なのですよ!」


「へぇ、そうなんだ」


「興味無さげですね、お姉さんにも無関係ではないというのに……」


「……っ」


 なぜか呆れられたんだけど。

 ベアトも隣でうんうんうなずいてるし。


「あ、あの……っ」


 二人としゃべってたら、エルフのお姉さんに声をかけられた。

 この人たしか、最初に助けた人だっけか。

 なんだか頬を赤くして、もじもじしてるんだけど。


「さっきはその、ありがとうございましたっ」


「お礼なんていいよ。勝手に飛びこんだだけだからさ。それよりも、ケガがなくてよかったよ」


「あぅ……。あ、あの、つかぬことをお聞きしますが、女の人ですよね?」


 ……あ、しまった。

 あの時私、自分のこと私って言っちゃってた。

 声色も変えてなかったし、まずいかコレ。

 まさか、勇者だってバレた……?


「もしよろしければ、私の家に来ていただけませんか? 色々とその……、お礼がしたくって……」


「……っ!!??!?」


 その時、ベアトがものすごい勢いで飛び込んできて、私の腕をギュッと引き寄せた。

 ベアトの行動を見て、なにかを察した様子のエルフのお姉さん。


「……っ!!」


 いや、ベアト。

 ほっぺを片方膨らませてるその顔。

 にらんでるつもりなんだろうけどさ、可愛いって感想しか出てこないよ。


「あ、あぁ、ごめんなさい……。もう素敵な人がいたんですね……。今のは忘れてください、それでは……」


 とぼとぼ立ち去るお姉さん。

 何がなんだかわかんないんだけど、メロちゃんどうしてため息ついてるの。


「ダメですよお姉さん、彼女がいる身でたぶらかしたら……」


「いないから。彼女いないから」


「……っ!?」


「ってかさ、そもそもなんだったの、今の人。ベアトを見て立ち去ってく意味がわかんないんだけど」


「言ったですよね、エルフは女性しかいない種族だって。恋愛もその他諸々も、女同士でするのが常識なのです。うかつに惚れさせないようにって注意する前に、もうハート射止めちゃってたですね……」


「~~っ」


 メロちゃんに深い深いため息をつかれて、なぜかますます頬を膨らませたベアトに腕をギュッと抱き寄せられる。

 ねえ、私、そんなに悪いことした……?




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