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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第三章 黒の発露編

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第88話 うるせえんだよ、ボケ

 










「ち、力を貸すって……私があなたに貸すの? あなたが私に力を貸すのではなくて?」

「おう」


 ナチュラルに自分がアリスターを使う側に立っているのが、マガリらしい。

 しかも、力を貸す……まるで、自分がアリスターと共にルボンと戦うみたいな言いぐさではないか。


 そんなバカげたこと、誰がやるというのか。


「お、俺は!?」

「エリザベスは俺の火傷を治してくれた時点で、力になってくれているさ。それに、ルボンのあの鉄壁を打ち崩すには、王国の聖女としての力を持つマガリが必要なんだ」


 エリザベスが自分も手伝いたいと求めるが、アリスターはそれをやんわりと拒絶する。

 まあ、いざという時は肉盾として使わせてもらうが、今はその時ではない。


 今は、自分の背中に隠れてのんびりとしていた女を矢面に立たせて苦しませることが先決だ。


『いや、そうじゃなくて……』

「(ちょっと、魔剣! あんた、私を引き出すような真似をするなんて、どういうつもりかしら!? 裏切ったのね!!)」

『えぇ……別に君を裏切ったわけじゃないんだけど……。ルボンを……天使の力を持つ彼を倒すためには、君の力が必要不可欠だということさ』

「(私の力!? 自慢じゃないけれど、私に特別な力なんて微塵もないわよ)

『あるよ』

「…………え?」


 衝撃の返答が戻ってきたため、マガリはつい声に出して困惑していることを表現してしまった。


『聖女には、特別な力が宿る。これは、昔から……僕が封印される前からそうだったよ。じゃないと、血筋も確かなものじゃないのに、聖女として崇められるわけないじゃないか』


 聖女という存在だけが必要ならば、それこそ血筋の尊い王族や貴族の子女が選ばれるだろう。

 ただの存在ではなく、適性があり、力を扱うことができるために、村娘のマガリも聖女として崇められるのだ。


 彼女が知らなかったのは、まずは聖女としての立ち居振る舞いや知識を学ぶ必要があったからである。


「(ええええええええええええっ!? そんなの聞いてないわよ!?)」

「(おめでとう、マガリ。君はようやく俺の役に立てるんだ。喜びたまえ)」

「(死にたくなってきたわ)」


 自分が戦うのも嫌だが、それをアリスターのためだと思うと余計に嫌である。


「(っていうか、そんな特別な力があったとしても、私は戦わないわよ。そこの馬鹿とは違うの。痛い思いなんて微塵もしたくないし、怖い思いだって嫌よ。さっき追い掛け回されたやつでも十分怖かったし、勘弁してちょうだい)」


 ヘルゲたちが庇ってくれたが、走るのはしんどいし追いかけてくる連中は怖いしで散々だった。

 アリスターが町中の人から追い掛け回されていた? 知らん。


『別にそれでもいいけど、このままだと僕とアリスターは負けるんじゃないかな? その後、君がどうなるかは保証できないよ?』


 想像する。

 アリスターが倒れ、天使の力とやらを持って調子に乗っているルボンが、次にどうするのか。


 考えて、考えて……。


「…………さあ、行きましょうか、アリスター」

「(こいつ……!!)」


 マガリはニッコリと笑って、自分も戦うことを選んだ。

 なお、自分の身可愛さである。


「(でも、本当に戦うのは無理よ? 自分の身が惜しい、自分が可愛いということはもちろんだけれど、いきなり力があるって言われてもうまく使える自信がないわ。アリスターだって、魔剣に操られて初めて役立っているんだし)」

「(誰の役に立ってるって? 殺すぞ)」


 マガリのために役立っているなんて言われたら、アリスターの怒りも天元突破してしまう。


『大丈夫。直接戦うのは僕とアリスターだから』

「(剣は魔剣、盾はマガリだ)」

「(殺すわよ)」


 マガリの背に隠れて斬撃を連発する作戦、悪くない。

 とはいえ、アリスターも魔力がほとんどすっからかん状態で、そう何発ももう撃てるわけではないので、作戦としては失敗である。


『さあ、行くよ! マガリは僕の合図にあわせてくれたらいいから!』

「(ぶっつけ本番……? まあ、失敗しても危険そうなのはアリスターだし、別にいいけれど)」

「(何を犠牲にしてでも絶対に成功させろ)」


 アリスターとマガリは、空に浮かぶルボンを見る。


「さあ、もうその男から離れなさい、エリザベス。天使様のお力を、そいつに知らしめる必要があるからね」


 ルボンはアリスターを攻撃できない理由であるエリザベスに話しかける。

 優しく、逆上させないように声をかける。


 しかし、そんな彼に対して、エリザベスはキッと強い目を向ける。


「……嫌だ。俺がいることであんたが攻撃できねえって言うなら、俺はずっとアリスターの前に立つぜ」


 エリザベスの言葉に、ルボンは頭が痛そうに手をやる。


「……馬鹿な娘だ。どうしてこんなことになってしまったのやら……」

「あんたがそんな父親だからだよ」

「そうか。なら……」


 ギリッと強く歯をかみしめたルボンは、槍の切っ先を向ける。

 その先には、アリスターだけではなく、エリザベスも巻き込まれていた。


「多少痛い思いをさせてでも、正しい道に導くのが父としての役割だよなぁっ!?」

「…………ッ!!」


 カッと槍の矛先が光り、光線が放たれた。

 回復魔法しか扱えず、防御の術を持たないエリザベスはただそれを見るしかなく……。


「はああああああああああああっ!!」


 しかし、隣にいるアリスター(を操る聖剣)が見過ごすはずもなかった。

 気合の声を張り上げると、聖剣を振るってバチッ! とそれを打ち砕いたのであった。


 シンと場が静まり返る。


「(いでええええええっ!? めっちゃ衝撃くる!! 光線なのに、こんな質量感じるものなの!?)」


 ビリビリと痺れる手に泣きそうになるアリスター。

 あんなものくらったのか、と余計にルボンから逃げたくなる。


「あ、アリスター……」

「庇ってくれてありがとう。お礼に、君の父を正常に戻そう」


 すがるように見てくるエリザベスに、力強く頷くアリスター。

 本当はルボンのことなんて心の底からどうでもいいと思っているのに……。


「……また邪魔をするか、勇者! 父が娘を教育しようというのに……!」

「(俺のいない所でやってくれ! 魔剣が身体を操るんだよ!)」


 ていうか、あれは教育じゃないだろ、と冷静に内心で呟く。


「だが、貴様は私に勝てない。天使様のお力を越えることのできない貴様では、どうすることもできないだろう?」


 はい。

 そう答えたいのだが、格好つけるために言葉をつなぐ。


「俺は、一人じゃないからな。エリザベスに助けられ、そして……マガリも俺を助けてくれる」


 そして、先ほどの光線を見て及び腰になっていたマガリを戦場に無理やり引きずり出す言葉を発する。

 マガリはビクッと震える。


「なに……?」

「(こっち見ないで!)」


 ルボンの目が向けられ、本気で怯えるマガリ。

 彼女にはアリスターにとっての聖剣がいないので、本当に自分だけの力でどうにかしないといけないのだ。


「ふん、愚かな。大人しく見ていれば、殺すことはなかったが……貴様の馬鹿な考えを、後悔させてやる!!」


 そう言って、ルボンは切っ先を向ける。

 その先には、アリスターではなくマガリの姿が……。


「(よっしゃ! やっちまえ!)」

「(ふぎゃあああああああああああ!?)」


 マガリが危険に及ぶので、アリスターは大喜びでルボンを応援し、マガリはまるで尻尾を踏まれた猫のような悲鳴を上げる。

 だが、当然聖剣が見過ごすはずもなく、彼の身体は自然とマガリの前に立ちはだかっていた。


「お前の相手は、俺だ!!」


 とりあえず、絶望しながらも格好いいことを言っておくアリスター。

 自分の身体がルボン目がけて大ジャンプした時は、涙を流していた。


「馬鹿が! 死にさらせ!!」


 カッ! と切っ先が光って光線が撃ち放たれる。

 またも空中で避けることができないので、アリスターは内心で絶叫する。


 しかし、聖剣はその身に黒い魔力を纏わせると、その光線をガチ! と切り払ったのであった。

 強い衝撃を受けたため、アリスターもまた一度建物の屋根に降り立つが、再びジャンプしてルボンに迫る。


 先ほどよりも近い位置から迫ってくるので、ルボンは再び光線を撃つことができない。


「くっ……! だが、私には天使様の障壁がある!!」


 それでも、彼には余裕があった。

 あの強大な魔力の斬撃も防ぐことができた障壁がある限り、自分に危険は及ばない。


 しかし……ここには、アリスターだけがいるのではない。


『マガリ! 今だ!!』

「えーと……こうかしら?」


 聖剣の指示に従い、なんとなく「力、出ろ~」と念じてみるマガリ。

 すると……。


「なっ……!? 天使様のお力が……!?」


 ルボンの全身から力が抜けた。

 そのため、彼を浮遊させていた力もなくなり、ゆっくりと地面に落ちて行く。


 それと同時に、彼を守る障壁も展開されなくなり……。


「天使様天使様うるせえんだよ、ボケ」


 ふっとルボンの身体に陰が差す。

 それは、彼よりも上に跳んでいたアリスターが、聖剣を構えていたからだった。


 優しい勇者が発するとは思えないような乱暴な言葉に一瞬驚くルボンであったが、すぐにそれどころではないと悟って彼の言葉を忘れた。

 槍を構えるが、しかし力を失って光を発せられないそれを盾にしたところで、事態を好転させることはまったくできなかった。


 ゴウッと聖剣から黒い魔力が溢れ出す。

 それは、アリスターのなけなしの……それこそ、最後の斬撃だった。


「【邪悪なる斬撃(イヴィルスラッシュ)】!!」

「ぐあああああああああああああ!?」


 黒い魔力の奔流に押し流されたルボンは、勢いよく地面に叩き付けられるのであった。











 ◆



【宗教とは、教義も大切だが信仰対象も大切である。この時、勇者アリスターと出会った天使教は、まさにその大切なものが欠けていた。宗教の拡大に目がくらんだエリザベスの父であるルボンは、勇者アリスターと聖女マガリを排除しようと行動してしまう。そして、愚かな信者たちもまた、彼の言葉に従い彼らを追い詰める。勇者アリスターの素晴らしさを接して理解していたエリザベスは止めようとするが、そんな娘の言葉も父には届かない。天使の眉唾物の力を使い、マガリを捕まえアリスターを追い詰める。だが、偉大で力強いアリスターを、天使もどきの力でどうにかできるはずもなかった。見事に打ち倒され、彼らの魔の手はアリスターに届くことはなかった。天使などを信仰せず、それこそ勇者や聖女を信仰していれば……と思うのは、筆者の願望に過ぎないだろう】


『聖剣伝説』第八章より抜粋。




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