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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第三章 黒の発露編

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第84話 生贄に捧げるから

 










 スニーキングという技術は、おそらく非常に高度なものなのだろう。

 少なくとも、普段の俺は足音を消して進むことなんてできないし、気配を消すということもできない。


 ……いや、気配を消すことはできるな。都合悪い時はいつもしてたわ。


「ぐえっ!?」

「うぎゃっ!!」


 この気配遮断と魔剣の持つスニーキング技術のおかげで、俺たちは今のところ捕まることなく、むしろ天使教徒を打ち倒しながら教会へと向かっているのであった。


『いやー、まさか君にこんな意外な才能があるなんてね。僕だけの力だったら、おそらくもっと騒がしくなっていただろうね』


 どやぁ……。


『うっざ』


 言いすぎだろ!

 しかし、まさか嫌なことから逃れるためだけに身に着けた技術が、こんな形で役に立つとは……人生わからないものだな。


 ……いや、こんな人生送りたくなかったんだけどね。

 何が悲しくて他人のために俺が傷つかなければならないのか。


 本当だったら、俺と一緒に行動しているガキ……エリザベスのことも放り出していきたいのだが……。


「……よし、次はこっちだ」


 そんなエリザベスは、俺の前を歩いて教会まで先導していた。

 そう、案外役立たずというわけではなかった。


 教会まで信者たちがうろついている表通りではなく、裏通りで案内してくれているのである。

 この街のことを何も知らない俺だけで行くとしたら、おそらく表通りを使わざるを得なかっただろうから、エリザベスがいるおかげで天使教徒とのエンカウント率が下がっている。


 いざというときの肉盾としか思っていなかったが、案外使えるようで助かったぜ。


「エリザベスは、父親に会ってどうするんだ?」


 ふと気になったことを問いかける。

 おそらく……というか、ほぼ確実にこいつのクソ親父とは戦闘に発展するだろう。


 だって、今までもそんな感じだったし。絶対にそうなる。

 そして、いざそうなったときに、止めを刺すような場面でエリザベスが敵に翻られたら面倒なのだ。


 ないとは思いたいが、彼女から見て父親……なかなか情というものもあるだろう。俺には家族の情なんて理解できないが。

 邪魔になるのであれば、何か対策を考えておく必要があるが……。


「どう、か……。いや、俺もいまいち分かってねえんだ。まだ、決まってねえっていうか……頭の中がぐちゃぐちゃしてる。こんな信者を使ってアリスターを襲わせることにも、理解できてねえからさ」


 うーん……やっぱ邪魔になるかな?


「ただ、こういうことをしないようには言わねえとダメだ。今の天使教のあり方も変えねえと……またこういうことを繰り返しちまう」


 俺に迷惑かけなかったら繰り返してもいいぞ。


「信者にかける祝福……回復魔法も、もっと一人一人丁寧にしないと意味がねえ。それで寄付金をむしり取るなんて、むしが良すぎる」


 真剣な表情で呟くエリザベス。

 子供とは思えない、責任感に溢れた姿だ。


 ……責任なんか一切背負いたくないと思っている俺とは大違いだ。理解できん。


「……そう聞いていると、エリザベスは信者の人のことを考えて改革を行おうとしているんだな。優しいな。君が天使教を立て直すのか?」

「や、優しい!? 立て直す!?」


 俺の言葉に、顔を赤らめてぎょっとするエリザベス。


「そ、そんなことねえよ! お、俺は俺がしたいように……!」


 自分のしたいことが他人のためかよ。俺とは相いれないな。


『君と相いれる人がそうそういてたまるか』

「よし、それじゃあ……」


 さっさと案内しろや。

 ……と思ったけど、そろそろどういう風に教会で立ち回るか考えておかないとな。


 マガリのために戦うなんてもってのほかだし、だからといってあいつを見捨てることを魔剣が認めるはずがない。

 うーむ……。


「いたぞ!!」

「げっ! 見つかっちまった……!」


 考え込んでいると、天使教徒がわっと押し寄せてきた。

 その中に、戦闘のプロである異端審問官の姿はないので、俺は余裕の表情である。


 魔剣、頼んだ!


『そこは人任せなんだね。いや、まあいいんだけどね』

「きゃっ……!?」


 俺の身体は勝手に動き出し、エリザベスの小さな身体をお姫様抱っこしていた。

 ……肩に担げばいいじゃん。何でこの抱き方なのか。


 しかし、男っぽいエリザベスには似つかわしくない可愛らしい悲鳴だ。

 彼女も恥ずかしさを感じているのだろう、顔を真っ赤にしていた。


 そして、俺の身体は迫りくる天使教徒から逃げるため、建物に向かって走り出した。

 ……走り出した? いや、そっち壁なんですけど!?


 いやあああああああああああ!! ぶつかるううううううううううううう!!

 この勢いでいったら、間違いなく気絶する! 止めろおおおおおおおおおお!!


 俺の悲鳴を無視して、身体は壁に飛びかかり……飛びかかったの!?

 壁に足の裏をつけて、ガッと強く蹴り出す。


 そして、また迫りくる反対側の壁に足をつけて蹴る。

 それを繰り返し、俺の身体はどんどんと上に上がって行き……ついに、建物の屋根まで来ることができた。


 そのおかげで、路地裏に殺到していた天使教徒たちから逃げ出すことに成功した。


「えぇ……」


 なにこの曲芸みたいな技。

 魔剣、こんなこともできるのかよ……。


 ……俺では絶対にできない技術だが、これ俺の身体に対する負担も半端ないよね?

 これ、絶対のちのち痛んで苦しむよね?


「はっ……あはははははっ! すっげえ! 空飛んでるみたいじゃねえか!!」


 俺に抱き上げられているエリザベスは、何故だか心底楽しそうに笑っていた。

 いや、怖いんだけど!? こんな高い所にいたくないんだけど!?


 しかし、下に降りればもっと怖いカルトの狂信者たちが……。

 ひいいいいいい!! ビュービュー耳に届く風を切り裂く音が怖い!


「楽しい! ワクワクする! 俺は……自由だ!!」


 俺に抱き上げられながらも、目をキラキラと輝かせながら大声で叫ぶエリザベス。

 うるせえ!! 見つかるだろうが!!


『手遅れだけどね』


 見れば、空を飛んでいる俺たちを見て、口々に叫びながら指さしてくる狂信者たち。

 もう嫌あああああああああああああああ!!


 俺の心の叫びは、誰にも聞かれることはなかったのであった。











 ◆



 地面に降り立つ俺とエリザベス。

 待ち構えるのは、良い笑顔を浮かべたルボンと異端審問官たち。


 そして……捕まって悲壮な顔をしているマガリ。


「……ぶふっ」

「!?」


 思わず吹き出してしまった俺と、怒りの形相を見せるマガリ。

 天使教との騒動のケリをつけるときが、今来たのであった。


 ……その聖女を生贄に捧げるから、俺を見逃してくれない?



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