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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第三章 黒の発露編

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第83話 私も多分そうしていた

 










「ど、どうすんだ?」


 エリザベスが顔を青ざめさせながら尋ねてくる。

 正直、お前はあいつらが乗り込んできても大丈夫だと思う。


 ただ、俺の命が危ない。いや、本当に。

 あいつらの呟いている内容を見れば、俺がどんな残虐な方法で殺されるかわかったものではない。


 だから、カルトって嫌いなんだ!!

 しかし、別に今すぐ動く必要はないだろう。


 いや、いずれは当然この街から脱出する必要があるので、この部屋を出なければならないのだが……今は鍵もかかっていて安全な場所だ。

 少しここで落ち着いて、冷静に脱出ルートを探らなければ……。


 マガリ? 知らん。あいつ、この街の中でもかなりディープな教会に泊まっていたはずだし、もうダメだろ。手遅れだ。

 ご冥福をお祈りいたします。


 さて、どうやって俺だけが生き延びるか、ちゃんと考えなければ……。

 ……ドンドン! と扉を叩く音がうるせえな。お前らじゃあ、どうしようもないんだから諦めろよ。


 どうやら、あの中には昨日襲撃してきた異端審問官みたいな連中はいないようなので、割としっかりしている扉をけ破ることはできないだろう。

 とりあえず、あいつらがここから離れるまでは大人しくしておいて……。


『これをお使いください』

『よし、この鍵で開けよう』


 それを聞いた瞬間、俺は走り出した。

 エリザベスを脇に抱え込んで、そのまま全力で窓に向かって走り……。


「とぉあっ!!」

「うひゃああああああああああああああああ!?」


 バリン! と窓ガラスを割って部屋から脱出したのであった。

 その直後、鍵を開けてわっと部屋の中に押し入ってくる連中。


 宿屋の主人も、俺を裏切りやがった……!

 いや、あいつもこの街で宿を営んでいるんだ。天使教徒なのだろう。


『思い切りがいいねー。しかも、エリザベスを連れてくるなんて、君も少しはマシになってきたのかな? 見捨てようとしていたら、また頭痛を起こしていたところだよ』


 まあ、このガキは足手まとい以外のなにものでもないけどな。

 いざという時肉盾にすれば、割と有用だと思うんだよ。


 ほら、あいつら天使教徒だし、象徴である聖女をそうそう攻撃することはできないだろう?


『やっぱりそういう理由か!!』


 それ以外ないっての。

 よし、着地は任せたぞ、魔剣。


 俺の技術で着地したら、おそらく足を複雑骨折してしまうからな。


『いや、それはいいんだけど……』

「アリスター!! 下、下!!」


 魔剣の歯切れの悪い言葉と、腋に抱えたエリザベスの焦った声。

 うーん、嫌な予感しかしない。


 嫌々下を見れば……。


『うおおおおおおおおお!! 捕まえろおおおおおおおお!!』

『聖女様をお助けしろおおおおおおおおお!!』


 路地を埋め尽くさんばかりに集まっている、天使教徒たちの姿が……。

 ひぇ……。アンデッドモンスターかよ!!


 いやあああああああああ!! あの中に入ってしまえば、間違いなく捕まってとんでもないことになってしまう!

 魔剣、何とかしてくれぇい!!


『分かった!』


 いつになく従順な魔剣。

 それでいいんだよ。常にそうしろ。


 俺が横柄なことを考えている間にも、身体を落下していって……。

 おい! このままだと捕まるじゃないか!!


 あああああああああああああああああああああああああ!!


「ぶへっ!?」


 しかし、幸い落ちて天使教徒たちに囲まれることはなく、一人の信者の顔面に足を着地させたのであった。

 うわ。何か潰れた感触が足の裏に……。


 鼻血を噴き出して倒れそうになる天使教徒。あ、鼻が潰れてる。


「うおおおおおおおっ!!」


 そんな仲間の状況を見て、他の天使教徒が俺の脚を掴もうと手を伸ばしてくる。

 怖い! マジでアンデッドモンスターじゃん!!


 しかし、それよりも早く俺の身体は動き、また飛翔する。


「ぐぎゃっ!?」


 そして、また別の人間の顔面に着地。

 またまた腕が伸びてくるので、それが届く前に飛翔して……。


 こういうことを繰り返し、宿屋の前に集まっていた天使教徒たちの群れを突破することに成功。

 地面に着地して、俺の身体は走り出していた。


 ……もちろん、ここまでで俺が動かしたことはない。全部魔剣がやったことだ。

 俺だけの力で、他人の顔面をジャンプして移動するなんて高等技術、できるわけないじゃん。


「はぁ、はぁ……!」


 さて、魔剣。逃げるのはいいが、あんまり走り続けるなよ?

 俺の体力はミジンコ並だぞ。ほら、もう息切れが始まった。


『早いよ!? まだ全然走ってないけど!?』


 仕方ない。脇に抱えたエリザベスのせいだな。


『いや、君の普段の自堕落な生活が原因だと思うけど』


 エリザベスのせいだな。


「だ、大丈夫か!? 俺も走るから、下ろしてくれ!」

「分かった」


 俺を見上げて息切れが激しいことを見て、エリザベスは自分から申し出てきた。

 正直、彼女の脚の長さと年齢から考えると、体力はともかく走力は間違いなく俺より劣っているだろう。


『子供に体力負けている自信がある青年ってどうだろう?』


 とはいえ、あのまま脇に抱えて走り続けることができるほど、俺も強靭ではない。

 まあ、ひたすら走り続けることだけが手段ではない。


 スニーキングとでもいうのだろうか、こっそりと移動して着実に移動するということも大切である。

 ……よし、街の外に行くか。


『えぇっ!? ちょ、ちょっと待って! マガリはどうするの!?』


 いや、もう無理だろ。あいつ、この街の中心にある教会にいるんだろ?

 町中の人間が敵にまわっているというのに、あいつが無事なはずないじゃん。


 まあ、流石に殺しはしないと思うよ? あいつも王国の聖女だし、そんな彼女を害したら王国と前面衝突だ。

 流石のカルトも、国家権力とぶつかり合ってただで済むはずがないし、そんな馬鹿なことはしないだろう。


 ……じゃあ、俺も襲うなよという話だが、俺は(聖剣とされている)魔剣を持っているにすぎないし、俺程度なら難癖つけてどうとでもしてしまえると思っているのだろう。

 マガリにはヘルゲたちもついているし、大丈夫大丈夫。


 俺はさっさと街の外に出よう。


『いやいやいや! ダメでしょ! マガリも助けないと!!』


 大丈夫大丈夫。あいつも強い子だから。

 何かしら対策をとっているって。安心して外に出よう。


『ダメだあああああああああああああ!!』


 うぎゃああああああああああああああああああああああああ!!

 バカの一つ覚えみたいに頭痛を引き起こす魔剣。


 ムカつくのは、これが効果的だということである。

 痛みに耐性がない俺は、この頭痛は耐え難く……。


「ぐっ……!?」

「アリスター!?」


 決して弱みは見せないようにしているのだが、思わず悲鳴を上げてふらついてしまう。

 そんな俺の様子を見て、エリザベスが心配そうに俺を見上げてくる。


「なにか、さっきのことで怪我をしたのか!? だったら、俺が……」

「いや、これは魔剣の代償だ。気にしないでくれ」

「アリスター……」


 よし、これで俺が魔剣の代償に苦しみながらも他者を助けるイケメンに見えることだろう。

 評価は上がること確定だぜ。


「エリザベスはどうする? 君は酷い目には合わされないだろう。ここで待つか?」


 俺はその間に外に出るけど。


「……いや、俺も行かないといけねえ。クソ親父に、言わないと……」

「……そうか。じゃあ……」


 ここでお別れだな、と言おうとして、俺の身体がまた勝手に動き出す。

 魔剣を引き抜き、ぐるりと回転して……。


「ぐわぁっ!?」

「うぉっ……」


 動きに目が追いついていなかったが、何やら後ろから忍び寄っていたらしい天使教徒の腹部に柄頭がめり込んでいたのであった。

 目を見開き、口から吐しゃ物を撒き散らしながら地面に倒れる男。


 うわっ、きったな……。


「…………」


 はっ! エリザベスがポカンとした表情で俺を見上げている。

 な、何か言わなければ……。


「じゃあ……い、行こうか」

「おう!」

『君って本当見栄っ張りだよね』


 俺は今にも倒れそうなほど顔面蒼白になりながら、エリザベスと共にカルトの街の最も濃い場所に、こっそりとスニーキングをしながら向かうのであった。

 ……行きたくないよぉ……。











 ◆



「聖女様! こちらへ!」

「は、はい!」


 私はヘルゲに連れられて走っていた。

 後ろから追いかけてくるのは、このクソカルトの信者たち。


 クッソ……! やっぱり、宗教なんてろくでもないわね……!

 ていうか、何で私を追いかけまわしているの? 馬鹿なの?


 おそらく、アリスターが何かをやらかしたのでしょう。いえ、アリスターというより、魔剣かしら?

 彼だけが苦しむのであれば大喜びするけど、私も巻き込まないでくれるかしら……!?


 くっ……! 今頃アリスターは何をしているのかしら?

 おそらく、私たちよりも多くの人員を割かれて追いかけまわされているはずね。


 彼の隣にはエリザベスとかいうガキンチョがいたはずだし、彼女は天使教の聖女よ。彼女を奪還しようとする方に力を入れるはずでしょう。

 だったら、私だけでも何とか逃げ出さないといけないのだけど、いかんせん私たちが招待された場所が街の中心である教会……逃げるには手間がかかるわ。


 アリスターのやつ……絶対に助けに来なさいよ!


「聖女様! お早く!」

「はい!」


 ヘルゲに先導されて、追いかけてくる信者たちから逃げる私。

 この時の私は、ウッキウキで私たちを見捨てて逃げようとしているアリスターのことを知らないのであった。


 ……いえ、私も多分そうしていただろうから、なんとなくそうするかなとは思っていたけど。




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