第81話 何ウキウキしてんだ
殺ったか!?
俺は内心で歓喜の声を上げる。
『いや、殺してないから! ちゃんと調節したから!』
何で俺は命狙われたのにあっちは殺されずに済むんだよ!? 甘いんだよ、お前は!!
こいつら治ってからまた報復しに来たらどうすんだよ! 無限ループかよ!!
『いや、彼らもそこまでは……』
するだろ! こいつら、カルトの中でも狂信者に部類される奴らだろ!
また天使教のためとか聖女のためとか言って襲ってくるだろ! どうしてこんな簡単なことがわからないんだ!?
しかも、こんなこと繰り返していれば、勇者は襲われても敵を殺さないってことが噂になる。
そうなったら、殺される心配もないからどんどん舐めて突っかかってくる奴が増えるだろうが!! 抑止力にならねえだろ! 俺はいつまで戦い続けなきゃいけないんだよ!!
『うぐぅ……』
そもそも、俺はこのクソ魔剣と一生一緒にいるつもりなんて毛頭ない。
いつか必ず廃棄もしくは譲渡するし、そうなったら残るのは戦う術を持たないただのイケメンである。
こいつを手放してから暗殺者に襲い掛かられたら……ひとたまりもない。
やっぱり、殺そうとしたら殺されるという抑止力がないと……。
「アリスター! 大丈夫か? また怪我してないか?」
駆け寄ってきたのは、疫病神エリザベスである。
別にお前が指示したわけじゃないから直接文句を言うことはできないが、お前を思ってあいつらが行動したんだから結局お前も悪いよね。ざけんなよ。
「ああ。君の回復魔法のおかげで大丈夫だ、問題ない。しかし……俺はあまり歓迎されていないみたいだな」
そう言って苦笑する。
もちろん、この街から一刻も早く抜け出さなければならない。そのための、今の言葉だ。
歓迎されてないから出て行くねー。
もともと、カルトの街なんて来たくなかったんだ。やっぱり、天使教ってクソだわ。
「クソ親父のやつ……いくら何でも酷過ぎる! 俺を操り人形にさせたいのかよ……!」
悔しそうに顔を歪めるエリザベス。
……そうじゃない? だって、お前が象徴だから寄付金を集められているんだろ?
だったら、お前に勝手な行動されたら困るだろ。
まあ、それに俺を巻き込んでいる時点で、お前の親父はゴミ同然だがな。
たとえ、今回みたいな私利私欲でなく他人のために何かを為そうとしていたとしても、俺に危害を及ぼすのであればゴミだ。分かったか、魔剣?
『僕にとばっちり!?』
さぁてと、もう今すぐにでもこの街を出て行きたいのだが……俺は一応マガリの護衛という形で付き添ってきている。
彼女を置いて戻れば、一人逃げ帰ってきた臆病者という烙印を押されるだろうし、そうすると都合のいい女も離れて行ってしまうだろう。
であるならば、今すぐマガリの所に行って彼女を連れ出し、王都に戻ることが最善なのだろうが……あいつは今天使教の教会にいるはずだ。
つまり、このカルトの街の一番深くヤバい所である。
そこに、夜に訪れるというのもなかなか厳しいだろう。
……それに、あいつがカルトの中心で苦しんでいてくれるのであれば、邪魔したくないし。
仕方ない……明日にするか。流石に今夜連続で襲い掛かってくることはないだろう。
「エリザベス。すまないが、一人で帰ってもらえるか? 俺が行けば、君に危険があるかもしれない」
もう送って行ってやるのも嫌だわ。さっさと帰れ。
エリザベスものこのこ帰ったら危険かもしれないが、知ったことではない。
俺がこいつと一緒にいる方が危険だ。どっちにとってもな。
まあ、こいつの親父はこいつを使って寄付金を集めようとしているのだから、まさか殺されることはないだろう。
じゃ、そういうことで。
俺はさっさと背を向けようとして……。
「ちょっと待ってくれ」
袖を引っ張られて止められる。
はぁん? まだ何か御用ですか?
「俺もお前のとこに泊まる」
「…………へぇ?」
い、いかん……おかしな声を出してしまった。
なにこいつ、痴女か?
……いや、こいつの年齢的に、そういう考えはないか。
シルクとマルタのせいで、疑心暗鬼になってやがる……。
『自分以外誰も信用していないのに、疑心暗鬼もクソもないよね』
お前のことも信用していないぞ、無機物。
「どうしてだ?」
「あいつら、俺の言うことを聞いてくれなかったけど、それでも俺がいることであんまり派手な攻撃は仕掛けてこないはずだ。大切には思われているみたいだしな。最悪、俺が盾になったら、アリスターにも攻撃は向けられないかもしれねえ」
肉盾になってくれるのは嬉しいんだけど……。
『子供に盾になってもらおうとして喜んでいる男がいた。ゴミだった』
うーむ……疫病神のエリザベスとは一刻も早く別れたいのだが、しかしこいつの言うことも一理ある。
ここはカルトの巣窟だ。今日再び襲撃はないとは思うが、絶対とは言えない。
……だったら、エリザベスを盾にできた方がいいか。
「そうか。じゃあ、頼む」
「おう!……あ、エロいことはすんなよ」
クソガキが……テメエちんまいガキンチョのくせに言うじゃねえか……。
俺は性欲を完璧にコントロールしているから、たとえ超高級娼婦が目の前で誘惑してきたとしても余裕で耐えるぞ。
はぁ……と俺は一つため息を吐く。
まあ、ウザいけど寝ている時に襲われたらエリザベスを盾にできるというのはありがたい。
その時は頼むぞ、魔剣。
『子供を盾にすることを頼まないでよ! 僕が何とかするよ!』
「……いつもと違う場所で寝るのって楽しいよな。お泊り会みたいだ」
何をウキウキしてんだ、テメエ。
◆
「何かしら……。今、凄く面白そうなことがあった感じがしたんだけど。……これは、人魚の集落の時と同じ……ということは、アリスターが苦しんでいる?……見たかった!」
カルトの一番危険な場所である教会にいるマガリは、自分の状況を理解せず悔しがっていたのであった。
◆
【人魚を救った勇者アリスター。次に彼が出会ったのは、いたいけな少女であった。誰かから追われている様子の彼女を、その危険を顧みずに事情も聞かず保護する優しき勇者。実は、その少女は二大宗教の一つの天使教の聖女であった。王城で再会した彼らは驚き、聖女エリザベスは彼を自分の街に誘う。ひとえに、以前助けられた恩返しがしたいと願ってのことだ。しかし、その街には悪が潜んでいた。エリザベスを傀儡にせんとする者たちによって命を狙われるアリスター。だが、強き勇者はそれらを撃退し、エリザベスを守ることを誓うのであった。のちに、この少女は天使教を率いる存在となり、多くの者から崇められる象徴となり、そして勇者アリスターも彼らから信奉されることとなるのだが、それは余談だろう】
『聖剣伝説』第7章より抜粋。
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