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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第三章 黒の発露編

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第78話 何とかしろよ!

 










 その日、エリザベスは本当に久しぶりに心の底から楽しむことができていた。

 アリスターを案内するという名目で、二人で街を回った。


 やはり、ここは天使教の信者が多く住む街なので、自分の男っぽく乱雑な本性を現すことはできない。

 しかし、猫を被っていたとしても、アリスターと街を回ることはとても楽しかった。


 あの笑顔や笑い声は、演技ではないと断言できる。


「あー、楽しかった!」

「(案内放り投げていたら、そりゃ楽しいですよね。ざけんな)」


 もう人通りの少なくなった時間。

 夕暮れにもなれば周りに人の気配も感じないので、エリザベスはついつい本性を出してしまう。


 しかし、それを見ても引いてしまうような人間はいない。

 後ろに付いてくるアリスターは、優しい笑顔を向けてきてくれる。


「ストレス発散になったぜ。これで、しばらく演技をすることができるな」


 教会に集まって自分みたいな子供に大人が救いを求めに来るのは、彼女からすればなかなかのストレスである。

 しかも、その求めに対して、真剣に一人一人救いを与えることはできず、多くの人に同時に簡単に魔法をかけてあげることしかできない。


 まんべんなく魔法をかけているため、当然一人にかかる効力は微々たるものになる。

 しかし、それでも信者たちは大喜びし、ますます寄付金を渡してくる。


「ほんっと……」


 いつもはこのまま嫌な気持ちになり、イライラとストレスも溜まっていくのだが……。


「おらっ」

「いたっ!?」


 べちっとアリスターの腕を叩く。

 子供の力なので、大した痛みもないだろう。


 大げさなくらい反応を見せるアリスターを見て、また笑うエリザベス。

 彼と一緒にいれば、嫌な気持ちも考えも全てなくなっていくような気がした。


「ここがアリスターの宿だろ? 今日はここまでだな。また明日も案内してやるよ」

「(いらないです)」


 エリザベスは自分がまたアリスターと出かけたいだけなのを隠して、そう上から目線で物を言う。

 本当は可愛らしく子供らしく、下から見上げるようにして言うことができればいいのだろうが……どうにも自分ではそういうことができそうになかった。


「じゃあな」

「ああ、待ってくれ」

「うん?」


 呼びとめられて、怪訝そうに振り返るエリザベス。

 もしかして、アリスターもまだ一緒にいたいと思ってくれているのだろうか?


「もう暗い。危ないかもしれないし、送って行くよ」

「え? だ、大丈夫だって。ここは天使教の街だぞ? 聖女の俺が、危険な目に合うなんてことは……」


 確かにその通りである。

 聖女エリザベスに向けられる崇拝とも言える感情は異常であり、そんな感情をこの街に住む人々のほとんどが持っている。


 直訴ならともかく、まさか害を加えようとする者はいないだろう。


「そうかもしれないが、送らせてくれ。可愛い女の子を送って行かないと、俺の気が済まないんだ」

「……なんだよ、それ」


 しかし、アリスターが優しい笑顔でさらに言うため、エリザベスは愛らしい頬を赤く染めてしまう。

 容姿の整っている彼にこんな優しい言葉をかけられれば、誰だって照れてしまうだろう。


「(これで満足か? 無機物)」

『うん。当たり前だよね』


 なお、これを言わせたのは聖剣である。

 アリスターが自分から女を送って行くような甲斐性を持ち合わせているはずがない。


 彼に連れられて、エリザベスが自分の住む教会に歩き出そうとした、その時であった。


「んぷっ!?」


 恥ずかしさと照れくささから下を向いて歩いていたエリザベスが、顔面に衝撃を感じて止まってしまう。

 見上げれば、前を歩いていたアリスターが立ち止まっているではないか。


「おい! 何でいきなり止まるんだよ!?」


 鼻っ面を強くぶつけてしまったので、その痛みで涙目になりながらアリスターに怒鳴る。

 しかし、空気がいつものものと変わっていることに気づき、エリザベスはそっと彼の背中から前方を窺った。


「な、んだ、こいつら……?」


 エリザベスの目が捉えたのは、夕暮れ時の闇にまぎれそうな黒い装束を来た人間たちであった。

 明らかに一般の人間ではなく、また友好的な雰囲気も微塵も感じることができなかった。


「どうも。初めまして、勇者殿。我々は天使教異端審問会に所属する異端審問官です。本日は、あなたを排除させていただきたくはせ参じた所存です」


 黒装束たちの先頭に立つ人間が、軽く頭を下げる。

 声音からして、男だろう。


 しかし、それよりもエリザベスにとって衝撃的だったのは、彼の話した内容である。


「(ひぇ……排除とか言ってるんだけど、あの黒子。ほらぁ……やっぱりこんな所に来たらこういうクソみたいな展開になるだろ? 俺もう知ってるんだ。賢いんだ)」


 なお、アリスターにとっても衝撃的だった模様。


「おい! アリスターを排除って、どういうことだよ!? お前ら、天使教徒なんだよな!?」

「聖女様……」


 エリザベスの乱雑な言葉に、異端審問官たちは目を丸くする。


「……やはり、ルボン様の仰ったとおり、勇者殿は聖女様に悪い影響を与えるようですね」

「はぁっ!? クソ親父の命令できやがったのか? ちっ……! 分かったと思うが、もともと俺はこういう性格なんだよ。別に、アリスターから影響を受けたとかじゃねえから。あんたら、天使教徒なんだろ? じゃあ、聖女として頼むから、さっさと家に帰ってくれ」


 父親に対する怒りを覚えながらも、エリザベスはそう言って異端審問官たちを追い返そうとする。

 しかし、残念ながら彼らがそれに従おうとはしなかった。


 なぜなら、エリザベスは確かに聖女であり救いを信者に与える存在であるのだが、彼女はどちらかというと象徴的な意味合いが強い。

 今まで実験を握って運営をしてきたのはルボンであり、実行部隊である異端審問会もルボン直下の組織だからである。


 だからこそ、エリザベスはその組織のことも知らなかったのだが……。


「お断りします。すでに、異端排除の命令は下されました。勇者殿は、ここで排除させていただきます」

「はっ……!?」

「やれ」


 エリザベスが愕然とする中、リーダーの命令に従って異端審問官たちがアリスターに一斉に襲い掛かったのであった。


「(うひいいいいいいいいいっ!? 魔剣、何とかしろよ!!)」

『了解』




活動報告に書籍版の特典について書きましたので、ご確認をお願いします!

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